=オナマシ20周年記念特別企画=ティッシュタイム・フェスティバル〜大感謝祭〜

性春パンクバンド・オナニーマシーンの結成20周年記念イベント『=オナマシ20周年記念特別企画=ティッシュタイム・フェスティバル〜大感謝祭〜』@東京・豊洲PITに寄せて。

「オナニーマシーンって知ってる?」なんて恥ずかしくて口説き文句にもなりゃしない。こんなにデートに誘いづらくて、プレゼンしづらいバンド名なんて勘弁してほしい。

ましてやそれを面白がって、好きになっちゃう女の子がいたらと想像なんてしようもんなら……それだけでオナニーできちゃうよね。

知ってる。そう、知ってた。わかってた。ホントはみんな、声に出して言いたいんだよね。チンポにマンコにアナルにセックス。声に出して叫びたいステキな響き。魔法のコトバ。

かつて「居場所がなかった〜♪」って歌って若者世代の心が捉えた歌手がいたけど、マイノリティに居場所を作っちゃったのがイノマー。

完全なる確信犯。キャッチーなメロディとまるでアンセムたりえる救いの一手で童貞を肯定。美化することなく茶化すことなく、リアルな言葉を送り込んできた。きっとこの記事の読者もわしづかみにされちゃった一人なんでしょう。

かくいう筆者もその一人。童貞のままハタチを迎え、童貞のまま成人式に行ったあの日。周りが全員敵に思えた。そのくせ、着飾った晴れ着姿のクラスのマドンナたちをみて勃起して、よそ見運転でトラックと衝突して警察署で成人の日を終えたという。

それから3ヶ月後、21歳になる年にオリコンという会社にアルバイトで雇ってもらえるようになった。『オリコンウィークThe Ichiban』っていうオリコンランキングをメインに据えた“一応”音楽誌で丁稚奉公の日々。

そこで副編集長をやっていたのが、金髪短パンのイノマー。聞くと編集長と副編集長をいったりきたりしているという名物社員で、会社に全然来やしない。会議と校了日だけ来て、エロビデオを大量に抱えて帰っていく。

夏の夜は会社で全裸になっていた。さすがにハタチの少年には刺激が強すぎて、理由を聞いたら「暑いから」の一言。女子社員も周りにいるけど誰も何もつっこまず通常営業。思えばこの頃からすでにオナマシの全裸パフォーマンスは確立されていたわけだ。

もっと夜が更けてくると金玉の皮を広げて椅子の上から「ムササビ!」なんつってジャンプさせられたり、自分の包茎チンポの包皮をむいて出てきたチンカスを「かに味噌」だと言って食べさせようとしたり。そのどれもがパワハラじゃなくて、みんなニコニコして見守っていたわけで(もう時効だけど……)。

みんなイノマーのことが大好きで、イノマーに褒めてもらうというか笑ってもらいたくて頑張っていた。筆者もイノマーに認めてほしくて、それだけで徹夜仕事もへっちゃらだった(多少、美化してるけど)。

きっと、取材されたミュージシャンもそうだったと思う。イノマーがインタビューした人はみんなその人柄にほだされ、次も指名していた。バンドマンにエロビデオを届けに行くというお使いもあったり。

イノマーはとにかくバンドマンが大好き。1998年といえばバンド界はヴィジュアル系ブームがあって、ハイスタに端を発するメロコア系ブームがあって、それらのインタビューを片っ端からやっていて、たまに和田アキ子さんといった大御所に取材して気に入られたり。今回の20周年記念BOXにアッコさんがコメントを寄せてくれたのが証拠だし、送ってくれたアッコさんもまた“男気”を感じさせるいい話。

インディーズバンドブームがきて日本語ロックブーム、青春パンクなんてワードが持ち出されて。メディアはとにかく形容したがるんだけど、イノマーはそんなの関係なしに接していつも楽しいことを探していた。

そんなときに見つけちゃったのが、この日集まった4組。みんなまだ世に広く認知される前の話。

この日のMCでも皆、イノマーへの感謝を口にしていた。バンドマンになる前「編集者イノマー」時代から救われていたのだと。イノマーからしてみれば、自分が大好きなバンドを勝手に紹介して褒めていたに過ぎないのだが、その“仕事”が結果的に4組を、いや、いろんなバンドを救っていた。

この日のライブで、綾小路翔は自分がオリコンで連載を勝ち取った日のエピソードを面白おかしく語った。一方的に手紙を送りつけ、それを真に受けたのがイノマー編集長だと笑った。コザック前田はイノマーが書いたディスクレビューで、神戸のバンドが東京でやっていく自信がついたと感謝を伝えた。

峯田和伸はGOING STEADY時代にイノマーとの出会いを経て「童貞ソー・ヤング」という名曲に繋がり、そのライナーノーツもイノマーが担当。その友情は20年経った今も変わらず、この日も舞台裏で駆け寄って身体をさすり「大丈夫、大丈夫、行けるよ!」と背中を押す姿が印象的だった。

サンボマスターはソニーから共にメジャーデビューして“同期”になるというまさかの展開。山口隆は「自分たちやファンの居場所を作ってくれたんだよ!」と叫んだ。まさにこの一言に尽きるのかもしれない。

ここまで一切、肝心の病気に触れずに書いてきた。さもいい話、美談になっているわけだが、ここまでたどり着くのに舞台裏では本当にいろんな人が動いていた。

そもそも筆者のもとにイノマー本人から電話が入って「俺、がんになっちゃったよー」と言われたのが昨年7月20日。イノマー本人から電話が来るなんて、元カノにフラレてよっぽど落ち込んでいたとき以来数年ぶりだった。

不謹慎なのだが、そのときに直接電話をもらえたことが嬉しくて。なんだかイノマーにちゃんと認めてもらえた気がして、胸がグッチャグチャになったことを覚えている。口腔底がん、しかもいきなりステージ4という悲壮な宣告が容赦なく現実を突きつけた。

結果的に翌日が7月21日でオナニーの日という奇跡的なタイミングで「いやー、もってますねーイノマーさん」なんて冗談めかして、電話口で笑い合って。そして翌日のがん公表記事に繋がっていく(以下、全て「ORICON NEWS」より引用)。

■2018年7月21日配信

“童貞のカリスマ”イノマー、口腔底がんを公表「今日から長い壮絶な闘いに」

「命がけ、ってリアルにこのことだ。いつまで笑ってられるかな? 大変だな、イノマーくん。こうなってもまだチンポだオナニーだって歌うんだから。大したもんだよ。ここまでやってもマスコミに相手にされないんだろうからな(涙)」

相手にしてほしかったそうです。寂しかったんです、イノマー。落ち込むまもなく、ニューアルバムのレコーディングなどを急ピッチで仕上げていく。

■2018年8月28日配信

余命3年公表イノマー、口腔底がん手術前にライブ強行 集大成の裸締め

「あのね、ほんとみんな勘違いしてるけど、死ぬわけじゃないんだから。会う人会う人『せっかくだから』とか『最後だから』とかネタにして、いじりやがって。お前らにがん移すぞコノヤロー!」

あまりにもいじられ過ぎて「マジでちょっとは同情してほしかった」とイノマー。このあと手術に臨み、舌を3分の2摘出。入院、リハビリが続く。

■2019年2月19日配信

口腔底がんで舌を失ったバンドマンが復活歌唱 ガガガ・ピーズ・峯田和伸らが祝福

「別に『イノマー頑張ってるね』とかそういうんじゃなくて、俺はこれ以上でもこれ以下でもなくて『日本全国のがん患者に希望を与えよう』とかそういうんじゃなくて、オナニーマシーンのボーカリストとしてここに立ってるわけで。いいじゃない、舌のないボーカルがいるバンド。こんなバンドいないよ。普通はやめるよ!(感慨とか)特になんもないです。これからのこととか。こんなんだしね」

12月5日に発売したオリジナル・アルバム『オナニー・グラフィティ』のレコ発イベントを年が明けてからなんとか敢行。舌のない状態でもステージに立つことの意味を伝えた。

■2019年5月27日配信

オナマシ×銀杏BOYZ、10年ぶり童クリ「凄いものをお客さんは見た」

「オイラ、舌ないんだよ〜〜〜、切っちゃって。それなのに偉そうに、こんなとこに上がって、みんなの前で歌っちゃったりしてるんだから図々しい話だよね? なんかゴメン。でもさ、これ長い目で見れば自慢できる話だと思うよ。舌のないボーカルのバンドを観たことがある、って。こんなバンドいないんだから、世の中に」

盟友・峯田と年末にできなかった『童貞たちのクリスマス・イブ』をリベンジ。

■2019年7月6日配信

オナマシ・イノマー、口腔底がん再発

「『癌<ガン>と闘いながら』とかよく聞くけど、オイラはヤだ。そんなん疲れるから。癌<ガン>と相談をしながら、仲良く、残された人生をハッピーでヤッピーに過ごせればな、と思う。だって、もう治んねーんだもん」

まさかの再発が襲う。治療の手段はなく、今後は「完治を目指すのではなく延命」になると診断され、周囲も言葉を失う。

■2019年7月25日配信

口腔底がん闘病中のイノマー熱唱「死んでも死にきれねー!」

「下水道のペテン師。嘘ばっかのオイラの人生。最終的には地獄のえん魔さまに舌抜かれちゃったよ。年内はずっと病院だったの。アウアウアア、ってさ。入院先のベッドで真っ白な壁を見つめながらずっと思ってた。ライブやりたい、ライブやりたい、って」

ライフワークとも言える『ティッシュタイム』を再開。ライブをやることを目標に掲げ、ドクターストップがかかりながらも強行。ステージに立つと蘇るというドラマのような奇跡を目の当たりにする。

■2019年10月23日配信

がん闘病中にパンツ一丁究極パフォーマンス 銀杏・ガガガ・サンボ・氣志團&ファン3000人が見届けたオナマシ20周年

そしてこの日に迎えた集大成。なんせ本当にステージに立てるかも怪しかったんだから。ちゃんと生き抜いて、ステージに立つことが目標じゃなくて、演奏して、お客さんを楽しませて。ちゃんとプロの役目を果たしたイノマー。

この居場所こそが、きっと誰よりも自分の青春時代にほしかった場所だったんだと思う。だからこの日の5組によるライブは同窓会なんかじゃなくて、その居場所が今も現在進行系でちゃんと残っていることの確認だった。

行き場のなかった人たちを認めて、褒めて、救って、受け止めて。肯定の愛。オナニー(自慰)なのに、他慰の愛。それがイノマーの不器用な愛情表現だったと勝手に解釈している。

Text/上野10万円(オリコンNewS取締役編集部長/名付け親はイノマー)

PHOTO/たたみ/ シガテルミ/ 白澤由依/ 丸山恵理(LOFT PROJECT)

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