重い、さびる…短所を技術で克服 岩手生まれの鉄のフライパン

 「こんなのあるんだ!大賞」北海道・東北ブロック代表に選ばれた「岩鉄鉄器ダクタイルパン」は「扱いやすく毎日使いたくなる」とうたう鉄のフライパンだ。「料理がおいしくなる」などと近年注目を集めているが、今回登場するのは鉄器製造で名の通った「メードイン岩手」。はたして、ひと味もふた味も違うのだろうか。

岩鉄鉄器ダクタイルパン

 「ダクタイル」とは鉄内部の炭素を球状化して強度を強める技術のこと。この技術を用いれば、薄くても十分な強度を持ったフライパンを製造できる。ただダクタイル鋳鉄を薄くするには技術的な困難が伴うという。

 製造する岩手製鉄の高瀬育子鉄器グループマネジャーによると、一般的に鋳型に鉄を流し込んだ際、一定の厚みがないと早く温度が下がってしまい十分な品質のものができない。厚みがあれば当然重くなる。すると「女性が片手で持てるフライパン」という理想から遠くなる。しかし、薄すぎては鉄器の良さである蓄熱性が低下する…。

 この難題に3年間試行錯誤を続け、熟練した職人の技術に加え緻密な設計と設備によって「理想の薄さ」という1・6ミリにたどり着いた。重さも26センチサイズのもので約1・1キロと従来品の鉄のフライパンの半分ほどにとどめた。高瀬さんは「機械で削らずに鋳造でこの薄さを実現させたのは当社だけ」と胸を張る。特殊な表面加工を施しさびづらさも加えた。

 歴史的に製鉄や鉄器製造が盛んだった岩手県の北上市で、1949年に創立した同社。これまでは工業製品を主に扱ってきたが「自分たちが造っているものを家族や一般の人に一目で分かってもらいたい」(高瀬さん)という気運が社内に高まり、フライパンなど鉄器の商品化に取り組んだ。

 昨年の11月に販売を始めると、大手生活雑貨店の担当者の目にとまり取り扱いが決まるなど好調な滑り出しだという。高瀬さんは「〝重い〟〝さびる〟と鉄器をあきらめた人からも好評をいただいている。大事に使えば一生使えるので、一度手に取ってもらえれば」と話している。

 かねてから鉄のフライパンに興味津々だった記者。持ち帰って日々の料理に使ってみた。

 まずは牛肉ステーキで試してみようと強火で加熱すると、ものの10秒もたたないうちに白煙が…。特徴である薄さのおかげで、熱伝導率が高いことが分かる。油のまわりも良く、普段よりも少量でフライパン全面に行き渡らせることができた。いざ焼いてみると、焦げ付くことなく短時間で焼き上がった。野菜炒めでは、さまざまな食材を投入してもフライパン表面の温度が下がりにくく素早く火が通った。鉄のフライパンが料理時間の短縮につながったことは意外な発見だった。

 手入れに手間の掛からないことにも感心した。使用後はぬるま湯とたわしで汚れを落とし、水気を取ったらコンロにそのまま放置。油を塗布するなどの手入れはしなかったが、翌日も問題なく使用できた。ただし、金属たわしで洗うことだけは厳禁だという。焦げ付きを防ぐために表面に施された凹凸が削れるためだ。

 総じて、鉄器だからといって特別身構えることなく普段使いできるフライパンだった。それでいて、料理の時短や鉄分摂取など健康面でもメリットがあるとなると「扱いやすく毎日使いたくなる」といううたい文句も納得だ。

 (共同通信 松森好巨)

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