幸福度を下げているのは自分自身?否定形を肯定形にするクセが拓く"幸福への道"

世界の幸福度ランキングで日本がとても低いと騒がれ始めて何年が経つでしょう。調査データが話題になった当初は経済や治安などふくめて比較的安定していると思われる日本において、幸福度が低くなってしまっている日本人の感覚が注目されましたが、いまや毎回の順位の低さに驚く方も減ってきた様に思えます。

国連の世界幸福度ランキング2019で日本は58位/156カ国でした(※1)。この調査は国民に「どれくらい幸せと感じているか」を評価してもらった要素に加えて、GDPや平均余命、社会的支援といったほかの要素を元に幸福度を測っているため、一概に国民の感じている「幸せの感覚」としてのランキングとは言えません。しかし、国民の感覚も要素の大切な一つとして計られています。

皆さんが今「どれくらい幸せと感じているか」と問われたらどう答えますか?


私たちは自分を取り巻く環境を幸せな方向へ向かわせる"自由"を持っている

「どれくらい幸せを感じているか」と問われたときの思考の動きに、幸福と感じるヒントがあるように思います。視点の個人差を表すたとえとして、コップに半分の量のジュースを見た時、「半分しかない」と思うのか、「半分もある」と思うのか、量は変わりませんが、どう考えるかで見え方が変わってくるというという話は耳にしたことがあると思います。

このように、私達が物事を認識するとき目の前の事実のみではなく、捉え方次第で私達は自分を取り巻く環境を幸せな方向に捉える自由を持っています。これからの文章で、私は物事をポジティブに捉えたり、幸せと感じるためのコツを心理学の視点から伝えていきたく思います。

しかし、世の風潮として、ポジティブであれ、や前向きな生き方をという言葉があふれ、食傷気味の方もいらっしゃるかもしれません。ですので、まずはなぜ幸福を感じると良いと注目されているかの根拠を少しご紹介します。

カトリックの修道女の研究から見えてくる、幸せは寿命にも影響する

1946年にWHOが定義した健康とは「身体的にも心理的にも社会的にも完全に良好な状態である」とされています。この「良好な状態」がウエルビーイング(Well Being)です。健康科学の目的はWell Beingとなり、心理学の領域の1つである健康心理学のも目標もWell Beingの実現と考えられています。身体的、心理的、社会的の中には様々な要素が含まれてしかるべきですが、それらの要素の状態の何を良しとするかについては主観が大きく影響します。

また、良しの状態に向かっていっている状態も先のコップの例ではありませんが、まだ良い状態ではないと考えているか、これから良い状態に向かっている経過と考えるかでも変わってくるでしょう。実際にWellBeingを計る方法の中には主観的な幸福感を計る研究も多く見られます。

たとえば、ある研究では幸福感と寿命の関係が示唆されています。カトリックの修道女を対象とした研究(※2)では、修道女になる時の自己紹介文を分析し、若いときの幸福感を推定して得点化し、その得点の上位25%(ここでは幸せな集団とします)と下位25%(ここでは幸福でない集団とします)の生存率を比較しました。

修道女ですので、まったく同じ食生活、同じ習慣の生活をしていますが、85歳時点での生存率は幸せな集団は90%。幸福でない集団は34%でした。さらに94歳時点での生存率は幸せな集団が54%であったのに対し、幸福でない集団は11%となっていました。その他の調査や研究からも寿命にも幸福感は良い影響を与えると考えられる結果は見られています。

生存率にも影響を与える幸福感ですので、その幸福感を感じやすくするコツ、Well Beingに近づくコツをご紹介していきたいと思います。

考え方を否定から肯定に変えるだけで行動が変わる?

私達は、「~しない」という否定の言葉より、「~する」という肯定の言葉のほうが、行動につながりやすいと言われています。たとえば、「遅刻しない」という言葉ではなく、「10分前に家を出る」であったり、「目覚ましを10分早くかける」などのような言葉です。

または「不健康な食事をしない」ではなく、「3食に少しずつ野菜の量を増やす」といった言葉での行動をイメージしてみてください。しないことを考えるより、することを考えたほうが具体的な動きが思い浮かび、さらに行動しやすそうに感じるのではないでしょうか。

少し恥ずかしさと情けなさも感じますが、私の怠惰な生活も、よくこの考え方で微調整をしています。たとえば、「酔って帰った時にメイクをしたまま寝てしまわない」ではなく、「飲み会がある日は家を出る時に、帰って必ず目につくところにメイク落としシートを置いてから出かける」です。

たったそれだけ?と思うかもしれません。でも百里の道も一歩からです。何か一つでも行動化できればその先に進む1歩を踏めた自信や自分の行動の自動化の力も加わって、メイク落としシートで拭いたら、そのまま洗顔、化粧水、乳液…と私の肌の健康の道が拓けました。もう少し大きな行動でも試しています。

また、私の日頃の生活が疑われてしまいそうですが、恥を忍んで「お酒に関する話」をもう一つご紹介します。「酔っぱらいすぎない」ではなく「電車に乗る距離にあるお気に入りのお店を見つける」です。自宅の近所でお酒を飲むと気も緩み、必然的に(?)酒量が増えてしまうことが多々ありました。しかし、お酒を飲み始めてからの「飲みすぎない」は私にとっては大きな壁です。

そこで、肯定形で考えてみたアイディアが上記の案です。2つ隣の駅にお気に入りのお店を見つけました。1つくらいだと歩いて帰れてしまいますが、2つ隣の駅だと徒歩では遠すぎますし、タクシーだと1メーターでは帰れず高くつきます。なので、終電までには必ず飲み終えて、さらにそこから電車に乗るためにしっかりとした意識を保つ必要があるので、それにあわせてお酒の量は抑えられます。

あなたの意思が弱いだけでは?といわれてしまいそうですが、だからこそ否定形の目標では行動化ができない事があると思い、意識的に肯定形で考えています。

否定形の問題をなぜできないのか…という原因分析をするのではなく、問題を肯定形に変え、肯定形の目標のために何をしていくかという考え方で問題を捉える考え方は、ポジティブ心理学に含まれる解決志向の考え方の1つの要素です。

ぜひ何か否定形で不満に思っていることがあった時には肯定形で考えてみることを試してみませんか?その考え方を試してみた瞬間から、自らの力で幸せを感じる一歩を踏み出しているはずです。不幸にならないようにするのではなく、幸せになるために何をしますか?

<参考文献>
キーワードコレクション心理学フロンティア 新曜社 子安増生、二宮克美編
(※1)https://worldhappiness.report/
(※2)Danner, D.D., Snowdon, D.A., & Friesen, W.V.(2001) Positive emotions in early life and longevity:Findings from the nun study. Journal of Personality and Social psychology. 80, 804-813.

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