大分県の「余白感」を関係づくりのきっかけに。関係人口創出の先進事例「大分で会いましょう。」の考え方

大分県がおこなっている「大分で会いましょう。」という取り組みがあります。月に1度のペースで、ある2人が大分を訪れ、行く先を話し合い、旅を始めます。その様子を映像として配信するという旅番組です。キーワードは、「せっかくだから 大切な話は、大分で」

2018年に始まったこの取り組みは、地域の関係人口を創出する試みとして注目されています。

大分県といえば、「おんせん県」というキーワードでの大々的なプロモーションを思い出す人も多いはず。

「おんせん県だけでずっといくわけにもいかない。だから新しい広報のかたちを求めていたんだと思います」と語るのは、「大分で会いましょう。」のプロデューサーを務める松田朋春さん。

「この取り組みは、観光PRではないんです」という言葉の真意とは。松田さんにこの取り組みの考え方を伺いました。

プロフィール紹介

松田朋春
1964年東京生まれ。2008年にグッドアイデア株式会社を設立、多方面での企画業務をおこなう。株式会社 ワコールアートセンター/スパイラル シニアプランナーを兼任。企業とクリエイターのコラボレーション事業『ランデヴープロジェクト』や、視覚障害者が開発に携わった『ダイアログ・イン・ザ・ダークタオル』、千葉県柏の葉地区の地域活動『はっぱっぱ体操』『キノピオプロジェクト』など幅広いプロデュースをおこなう。最近の仕事に、日本の優れた工場と協働して商品開発する『典型プロジェクト』や、詩を本の外にひらくデザインレーベル『oblaat(オブラート)』、松山市でのアートフェスティバル『道後オンセナート2014』プロデュース、大分県広報『大分で会いましょう。』プロデューサーなど。多摩美術大学非常勤講師。

関係人口創出型の広報とは?

—「大分で会いましょう。」の企画はどのような経緯で生まれたのでしょうか。

松田さん(以下:松田):このプロジェクトは大分県の広報事業です。企業でいえばブランディングにあたるものです。2015年に大分県のプロモーションで温泉をテーマに制作した『シンフロ』が大ヒットしましたから、その後どうするかは大きな問題だったと思います。

コンペでは、双方向型のコミュニケーションを生むような企画が求められ、我々はSNSの展開を中心に据えた取り組みを提案しました。

—関係人口創出の取り組みとして捉えられているのでしょうか。

松田:2018年の中盤くらいから、関係人口創出型広報という言い方をしています。もともとやり始めたことに、関係人口という概念が当てはまった感じです。それまでは、教育の分野でレイヴとウェンガーが唱えた『正統的周辺参加』を、正統性のないよそものに当てはめた『観光的周辺参加』という概念で考えていて、それがほとんど関係人口のコンセプトそのものではないかとあとから気付きました。

「せっかくだから 大切な話は、大分で」というキャッチコピーは、大分県を「目的」とはとらえていないんです。大分ならではの何かをしに来て!、ということではなくて、誰か大切な友人とゆっくり話すには大分はいいところですよ、という空気みたいなものを提案したかったのです。

これは、いわゆる「観光PR」ではないというスタンスの表明でもあるんです。観光って、商品になるものだけに着目して、それ以外のことは忘れるような行為でもあります。「おんせん県」はそういうことですよね。そうではなくて、大分でいま起きていることすべてが醸し出すムードを伝えたい。大分をその器として捉えて、そこにある「余白」の心地よさを表現しようという感じです。

「◯◯で会いましょう」というメッセージはどこでも出せると一見思われるのですが、福岡で会いましょうとか、沖縄で会いましょうとかだと、かなりはっきりと観光のイメージが浮上してしまう。大分は、湯布院や別府がよく知られていますが、県全体でみるとイロがついてない良さがあるように思います。でも、明るくて居心地良いイメージはある。「おんせん県」の功績かもしれません。

よいところもよいひともたくさんあるので、大事なひとと過ごしに来てください、きっとよい出会いがありますよ、というメッセージです。どこでもできそうがけど、大分が一番しっくりくるコンセプトだと思うのですが、いかがでしょうか。

「バズるかどうか」ではなく、関係値を作れるかどうかの基準

—ここまでどのように進められてきたのでしょうか。

松田:「大分で会いましょう。」は、お友達ふたりのAさんとBさんが一緒に来て、大分のCさんに会ってもらうというものです。2018年は10本のツアーを県全域を対象に行いました。その様子を配信しています。出会いの場のドキュメンタリーですね。

—そこからどのようなことが生まれたのでしょうか。

松田:ツアーをきっかけに複数の企画が動き出しています。私たちはこれを「エリアプロジェクト」と名付けていて、2年目となる今年は、その様子を配信していくことを計画しています。大分と出会って生まれたもののドキュメンタリーといえます。大分と出会って生まれたスピンオフ企画を追っていこうというかたちですね。

何が起こっているのかということを映像できちんとまとめていくことが大事だと考えています。

—プロモーションの取り組みはバズ(ネット上の口コミ拡散)が重視されると思いますが。

松田:バズるかどうかではなくて、関係値をどう作れているかを注視しています。Aさん、Bさんをはじめ、この取り組みで関係者となる人は多いので、そこがもっているボリュームに対して、情報がきちんと届くことが大事です。

双方向の情報伝達という面でも成果が上がっていまして、「シンフロ』と比べても遜色ないレベルまで来ています。ツアーで何かが起こって、そこから何かが始まったというドラマを届けていて、ものごとを起こすところからスタートしているし、関係が関係を生んでいくようなイメージで取り組んでいます。

「地方創生」ではなく、地方と関わることで生まれる何かが価値

—関係人口の創出に取り組もうという声が大きくなっていますが、どう思われますか。

松田:地方には、東京ではできないおもしろいことをやっている人がいます。そこにはいろいろな人をつなげた方が良いと思います。外から知恵やチカラを借りようということでなくて、おもしろい人と出会ってもらって、影響を受けて帰ってもらうということが、まずは大事でしょう。

意識して人と人をつなげよう、それを目的にしようというのではなく、地域で人と人が出会って、結果的に生まれるつながりに注目するのが良いのではないかと思います。

関係人口の創出という言葉にとらわれて数字だけを追うのは良いことではありません。関係人口は量の問題ではなくて、どのような関係値を地域と人が作るのかということが問われています。関係人口というのは、まちの外側にあるものではなくて、まちの一部のことなんだと考えて、自分たちの一部として関係人口があるという捉え方が良いと思いますね。外に広がる関係人口を自分たちの外部と捉えるか、自分たちの一部と捉えるかで、今後の地域の活力が決まってくると思います。

—関係人口となる人が外から来てくれているという意識ではないのですね。

松田:「地方創生しなければいけない」と考えるとプレッシャーですよね。東京に行く人は東京創生をしようとはしていません。これは逆もしかりです。「大分で会いましょう。」は、大分を地方創生しましょうということではなく、大分の人と関係性をつくろうということなんですよね。

だから今年は、「関係が関係を呼ぶ」様子を、発信していきたいと考えています。たくさんの人が何かに出会い、何かが始まるということが価値になっていくはずです。

「関係人口サミット」が開催決定

「大分で会いましょう。」のキーワードのひとつでもある「関係人口」。その最先端の状況を展望するサミットを別府市・大分市で、2020年2月7日〜9日にわたって開催予定となっています。

全国の先進事例が紹介されるほか、「大分で会いましょう。」の2019年の展開も振り返る機会となるはず。

詳しくは、公式サイトをご覧ください。

文:Nativ.media編集部

© ネイティブ株式会社