80’sコネクション:早見優「Newsにならない恋」は上智大学ロック? 1986年 7月16日 早見優のシングル「Newsにならない恋」がリリースされた日

早見優『Newsにならない恋』 作詞:澤地隆 作曲:CHAGE 編曲:伊豆一彦 発売:1986年07月16日

あの早見優さんをお招きしてお届けする『80’sコネクション』の第1回イベントが、いよいよ間近に迫ってまいりました。

『第1部 Talk & Live Re:spect — まるごと早見優♡』(13時~)、『第2部 80年代イントロ十番勝負 — アイドルイントロの宴』(17時~)。11月30日(土)ロフトナイン渋谷にて開催。チケット絶賛発売中。よろしくお願いします。

さて、私の “早見優フェイバリット” と言えば「Newsにならない恋」(86年)です。中原めいこ作詞・作曲による前年の「PASSION」あたりから始まったロック路線がいよいよ軌道に乗ってきて、高音がツーンと響く金属的なシャウトが決まっています。

この曲を歌う早見優を初めて見たのは、確か日本テレビ『スーパーJOCKEY』だったと思います。大学入学のために上京したての19歳。東京での初めての夏、悶々とした夏を過ごしていた私は、日曜の昼下がりに見た、彼女のはつらつとしたボーカルに釘付けになりました。

作曲はチャゲ。実は、この曲のチャゲ(&飛鳥)バージョンが、彼らのアルバム『MIX BLOOD』(86年)に収録されているのですが、正直、ピコピコした彼らのバージョンよりも、ロックンロールな早見優バージョンの方が全然いい。

私はこの曲が好き過ぎて、昨年発売された早見優のベストアルバム『35th Anniversary “Celebration” ~from YU to you~』の歌詞カードに、この曲について一文(一行)寄せていますので、お持ちの方は読んでみてください。

さて、このような “ロックンロール早見優” の路線は、当時の音楽シーンとも整合性の高いものでした。

というのは、80年代前半、あれほど盛り上がったアイドル音楽は、80年代後半に向けて徐々に沈静化し、アイドル不遇の時代が到来。“可愛い女の子が歌い踊る音楽” は、レベッカ(NOKKO)や渡辺美里などによる、歌謡曲とロックの中間市場へと移行していきます。

そう考えると、ゲイリー・ムーアやブライアン・メイの曲を歌った本田美奈子や、“ロックンロール早見優” 路線は、当時の音楽シーンの動きに適(かな)っていたということになるのですが。

ただ、ここでの早見優の金属的なボーカルには、そんな音楽シーンの変化に合わせに行ったものというよりは、もう少し遺伝子的な何かを感じるのです。

その遺伝子とは――「上智大学ロック」。言いたいことは、同じく「上智大学外国語学部比較文化学科(学部)」という日本屈指のグローバルな学び舎出身の先輩、南沙織の遺伝子を感じるということ。

南沙織のボーカルも、独特な金属的な響きが特徴でした。日本版「いとしのレイラ」とも言える「傷つく世代」(73年。ライブアルバム『Good-by Cynthia』でのバージョンは特に鮮烈)や、「想い出通り」(75年)の歌い出し=「♪ 『こ』いび『と』はそ『こ』ぬ『け』の『か』お『で』ー」のカ行・タ(ダ)行を強調する発音は、実に金属的です。

早見優と南沙織の共通点として、学歴に加えて、幼少時から英語に親しんでいた出自があります。つまり私は、金属的ボーカルの背景として、彼女たちが英語に慣れ親しんでいたという事実を確かめるのです。

日本語ロックボーカルの歴史とは、要するに、例えばカ行・タ行を強めて発音することなどを駆使して、「日本語をいかに英語っぽく発音するか」を追求する歴史でした。

矢沢永吉や桑田佳祐は、英語が(そんなに)出来なかったため、そのあたりを人工的かつテクニカルに追求したのですが、南沙織と早見優は、それが自然に・天然に出来てしまった。この「天然」性こそが、前回記事で指摘した「無意識過剰」性につながると思うのですが。

とにかく、矢沢永吉や桑田佳祐らが、苦心惨憺して作り上げた「日本語ロックボーカルの作法」を、一見対極にある女性アイドルシーンの中で、南沙織・早見優が、自然に・天然に身につけ、軽やかに披露したということが、実に皮肉でかつ、興味深いことだと考えているのです。

イベント当日は、このような仮説も、早見優さんにぶつけてみたいと思います。

カタリベ: スージー鈴木

© Reminder LLC