修学旅行や林間・臨海学校は「しんどい」? 負担感は教員9割近く、保護者の間にも賛否

三重県にある京都市教育委員会の施設「みさきの家」に宿泊する児童が芝生広場で活動する様子(市教委提供)

 「子どもが山の家に行くのを嫌がる。負担に感じる家庭は少なくないのでは」「修学旅行の引率がしんどい」-。京都府内の保護者と教員から、宿泊学習(林間・臨海学校や修学旅行など)のあり方を疑問視する声が相次いで寄せられた。京都新聞社では9~10月に宿泊学習への考えを問うアンケートをインターネットで実施し、780件の回答があった。負担が大きいと答えたのは、保護者や経験者など教員以外の回答者で27%、教員は89%だった。教員以外の回答では、負担を訴える声から、心や体調が不安定な子どもを育てる家庭の悩みが浮き彫りになった。教員では、拘束時間の長さを訴える声や教育効果を疑問視する意見が目立った。

 アンケートは選択式を4問と意見や疑問を記入する記述式を1問設けた。教員以外の回答者は685人だった。「負担が大きいと感じているか」という質問には「はい」が27%(185件)、「いいえ」が49%(336件)、「どちらとも言えない」が23.9%(164件)だった。
 負担を感じる部分を複数回答可で尋ねたところ、最も多いのが「準備が大変」の92件で、「集団で寝泊まりすることへの心理面・体調面でのハードルが高い」が83件、「経済的負担がある」が78件と続いた。
 宿泊学習に感じる意義について(複数回答可)は、「自然活動など普段できない体験ができる」が457件で、「協調性・忍耐力が身に付く、協力してやり遂げる達成感を味わえる」が369件、「自立を促す、責任感が身に付く」が294件だった。「特になし」は38件にとどまり、負担が大きいと考える回答者もほとんどが、何らかの意義を見いだしていた。
 小・中学校の在籍期間中で適正だと考える宿泊学習の合計回数については3回が最も多く200件、次いで2回が181件だった。実際は4回程度実施する学校が多いが、3回以下が適正とした回答者は全体の68%に上った。
 回答者の内訳は75%が保護者、25%は経験者や祖父母など。

■環境変化にストレス/友達いないと地獄/自分で考える力付く

 アンケートの自由記述欄には275件の意見や疑問が寄せられた。
 負担が大きい理由について、子どもの病気や障害、心理面を挙げた保護者が多かった。「アレルギー対応が大変」(40代母親・京都市北区)「発達障害で環境の変化に大きなストレスを感じる」(30代母親・西京区)。女子の親は初潮を迎える不安定な時期に野外で集団行動をとることへの抵抗感を記していたほか、10.20代の回答者は「いじめられていたり友達がいないと、逃げ場がなく地獄」などとつづっていた。
 一方、宿泊学習を重視する意見としては「自分で考え、協調する力が身に付く。今の時代にこそ必要」(50代父親・長岡京市)「自分の家庭以外の生活を知る貴重な機会」(40代母親・草津市)「友達と自然体験を楽しみ、子どもは3人とも良い思い出になっている」(50代母親・伏見区)などがあった。

■保護者と教員目的再確認を

 宿泊学習に疑問を感じる保護者らがいることついて、小児科医の小谷裕実京都教育大教授(特別支援教育)は「多様な子どもがいる中では、宿泊学習で個に応じた対応が難しいという背景がある」と指摘。宿泊学習が保護者、教員両者にとって恒例行事という認識になっている可能性についても触れ、「行事を精選するという観点からもなぜ宿泊する必要があるのか、宿泊学習で子どもに付けさせたい力は何か、を両者で再確認することが大切。教育上の目的が明確であれば、現在負担に感じていることは目標に向かう過程と捉えられるようになるだろう。その上で子どもによっては不参加という選択肢もある」と話す。

■「なくてよい」教員の2割

 教員は95人が回答した。「負担が大きいと感じているか」という質問には「はい」が89.4%(85件)、「いいえ」が3.1%(3件)、「どちらとも言えない」が7.3%(7件)だった。
 負担を感じる部分について複数回答可で尋ねたところ「準備が大変」が67件、「集団で寝泊まりすることへの心理面・体調面でのハードルが高い」が58件と突出して多く、「宿泊学習の友人関係が心配」が24件、「行き先や宿泊施設・設備に不安がある」が21件と続いた。
 宿泊学習に感じる意義(複数回答可)は「自然活動など普段できない体験ができる」が65件、「協調性・忍耐力が身に付く、協力してやり遂げる達成感が味わえる」が35件、「自立を促す、責任感が身に付く」が24件。「特になし」は11件で、教員の9人に1人は意義を見いだしていないことが分かった。
 小中学校の在籍期間中で適正だと考える宿泊学習の合計回数は2回が31件で最も多かった。1回が22件、「宿泊学習はなくてよい」が20件、3回が15件と続いた。実際は4回程度実施する学校が多いが、4回以上が適正とする答えは7%にとどまった。
 回答は京都府を中心に全国から寄せられ、年齢層は20代が28人、30代が27人、40代が21人、50代が13人、その他が6人だった。

■夜間の体調管理心配/思い出づくりは教育活動でない/一回り成長、実感

 アンケートの自由記述欄には33件の意見が寄せられた。負担が大きい理由として、準備を含めた業務量の多さと労力に見合う教育効果が感じられないといった声が多かった。
 「夜間の体調管理が必要な児童もいる。連泊だと疲労がたまり日中の指導に支障を来さないか心配」(30代・京都市伏見区)「ほかの行事の時期と重なることもあり準備が大変」(20代・左京区)「限られた人員で安全面も不安な中、宿泊する必要性が見つからない」(30代・京田辺市)「家族旅行などで多様な経験を積んでいる子どもは多い。宿泊学習は思い出づくりの側面が大きく、学校が実施すべき教育活動とは思わない」(40代・兵庫県尼崎市)
 宿泊合宿の期間中、学校に残る教職員の少なさを問題視する声も複数あった。右京区の50代教員は「けがや災害などの急な事態が起こると対応に振り回される」と指摘した。
 一方、宿泊学習を評価する意見は「活動を終えたら一回り成長したと感じる」(40代・亀岡市)「素晴らしい体験からは生徒の最高の笑顔が生まれる」(50代・北区)などがあった。別の北区の教員は負担は大きいと答えたが、「それ以上に得られるものが大きい」と記していた。
 中央教育審議会で学校の働き方改革部会委員を務める教育研究家の妹尾昌俊さんは、宿泊学習に対する教員の負担感に納得できるとした上で「参加がつらいと感じる子どものケアや、修学旅行などが本当に学びになっているかについての検証の不十分さ、裕福でない家庭の旅費負担の大きさに課題がある」と指摘。「活動内容や児童生徒全員で行く必要性などを見直す時期に来ているのではないか」と話す。
 

教員の回答
教員以外の回答

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