裏と表と

 赤やオレンジ色に染まった山肌をロープウエーから見下ろす。そのことを記事では「空中散歩」と称している。雲仙市の仁田峠あたりで紅葉が見ごろを迎えたと、先ごろの紙面で伝えていた▲散るのは少々先だが、紅葉と聞いて良寛の句を思い起こす。〈うらを見せ おもてを見せて 散るもみぢ〉。死期の近い自分は「散るもみぢ」で、あなたには裏も表も、悪いところも善いところも飾らず見せましたよ。そう詠んだらしい▲見せるのは「表」だけ、という場合もあれば、裏と表とでずいぶん違う場合もある。表向きには「安定と挑戦」を掲げた今の内閣がそうだろう。内閣改造から2カ月足らずで閣僚2人が辞任した。裏から見ると「不安定と逃げの構え」が際立つ▲秘書が有権者に香典を渡した疑惑が持たれて菅原一秀経済産業相が辞めたのに続き、河井克行法相も参院議員の妻の公選法違反の疑惑などが報じられて辞任した。どちらも国会で説明する前に、内閣から姿を消した▲任命責任を「痛感する」と言う安倍晋三首相が、説明を尽くすよう指図した跡はうかがえない。むしろ、さっと辞めさせ、代わりを据えて、時が過ぎるのを待っていないか▲舞台裏の行状が見え、表看板がはがれる。彩り豊かな秋の景色とは違い、政治の風景はどうにも寒々としている。(徹)

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