ボズ・スキャッグス「ミドル・マン」秋の夜長に聴きたいAOR 1980年 4月1日 ボズ・スキャッグスのアルバム「ミドル・マン」がリリースされた日

近年の世界的な気候変動のせいかどうか判らないが、少なくともここ東京においては、以前のような「四季」の感覚がだいぶ薄らいできたと思う。春と秋の時季が年々短くなって、実質的に「二季」になってしまいそうな気さえする。

とは言え、秋分の日を過ぎて日に日に夜が長くなることに変わりはないので、気にせずに今日は「秋の夜長」について書いてみたいと思う。で、「秋の夜長」と言えば、なぜか聴きたくなるのが AOR だ。

AOR が「Adult Oriented Rock」を略した和製英語で、1970年代後半から80年代前半にかけて日本で流行った「黒人音楽の影響を受けた大人向けの白人のロック」の総称である… というのは、何人ものカタリベさんが書いている通りだが、もし「50~60代の日本の音楽ファン100人に聞きました! AOR と言えば誰?」というアンケートを取ったとしたら、おそらく63人くらいがボズ・スキャッグスと答えるのではないだろうか。

実際、彼が76年にリリースしたアルバム『シルク・ディグリーズ』から、一種の AOR ブームが日本で始まったと言われているし、次作『ダウン・トゥー・ゼン・レフト』、次々作『ミドル・マン』と合わせて「AOR 三部作」と呼ばれることもある。

だが、実を言うと、僕はその頃はボズ・スキャッグスをあまり好きではなかった。なぜなら、日本で耳にする彼の曲と言えば、数々の CM で取り上げられ、田中康夫の『なんとなく、クリスタル』にも登場した「ウィアー・オール・アローン」や、トヨタ・クレスタの CMソング「トワイライト・ハイウェイ(You Can Have Me Anytime)」といったバラードばかりで、当時の僕にはスイート過ぎたからだ。

だが、それが食わず嫌いだったことに、その後まもなくして僕は気づくことになる。

そもそもボズ・スキャッグスは、ブルースや R&B に魅了されてプロミュージシャンを志した人物で、67年にクラスメイトだったスティーヴ・ミラーが結成したブルース・ロック・バンド、その名もスティーヴ・ミラー・バンドに参加、69年にはサザン・ロックの天才ギタリスト、デュアン・オールマンとも共演アルバムを作ったりもしている。つまり、実際の彼は、世間が抱いている都会的でメロウなイメージより、ずっと骨太なミュージシャンだったのだ。

そんなボズ・スキャッグスの功績の一つが、彼のレコーディングから TOTO というバンドが生まれたことである。これは一見、リンダ・ロンシュタットとイーグルスの関係と同じように見えるかもしれないが、実際には全然違う。イーグルスのメンバーがリンダのバックを務めたのはほんの数ヵ月のことだし、リンダのお陰で彼らが有名になった訳でもない。

だが、TOTO のメンバーにとっては全くボズさまさまで、上述のアルバム『シルク・ディグリーズ』のレコーディングに参加したデヴィッド・ペイチ(キーボード)、ジェフ・ポーカロ(ドラムス)、デヴィッド・ハンゲイト(ベース)の3人は、この時の共演をきっかけに TOTO を結成した。『ダウン・トゥー・ゼン・レフト』に参加したスティーヴ・ルカサー(ギター)は、これを機に頭角を現したと言われている。

さて、「80年代音楽エンタメコミュニティ」を標榜する本サイトに書かせてもらっている以上、80年リリースのこの作品に触れないわけにはいかないだろう。AOR三部作の最後を飾る『ミドル・マン』である。この作品にも、TOTO からボビー・キンボール(ボーカル)以外の全メンバーが参加している。

このアルバムから最初にシングルカットされ、A面2曲目に収録された「ブレイクダウン・デッド・アヘッド」は「ほとんど TOTO じゃん!」って感じのサウンドだが、不思議なことにドラムはジェフ・ポーカロではなく、スティーリー・ダンなどのセッションで知られるリック・マロッタが叩いている。

本作のオープニングナンバーで、2番目にシングルカットされた「ジョジョ」は、TOTO メンバーよりレイ・パーカー Jr.が弾くギターのカッティングが印象的で、とても夜っぽい大人な一曲である。ちなみに「トワイライト・ハイウェイ(You Can Have Me Anytime)」でギターソロを弾いているのは、ラテン・ロック・レジェンド=カルロス・サンタナである。

… ということで、秋の夜長にこの一枚をどうぞ!

Billboard Chart
■ Breakdown Dead Ahead / Boz Scaggs(1980年5月17日 全米15位)
■ JoJo / Boz Scaggs(1980年8月23日 全米17位)

Billboard(Album)
■ Silk Degrees / Boz Scaggs (1976年9月18日 全米2位)
■ Down Two Then Left / Boz Scaggs(1978年1月14日 全米11位)
■ Middle Man / Boz Scaggs(1980年6月14日 全米8位)

カタリベ: 中川肇

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