【世界から】「ションキー・アワード」は消費者を変え、企業を変える

2019年度版「ションキー・アワード」。レモンは「できそこない、欠陥品」を意味する

 また、この時がやってきた―。そのどうしようもなさで私たちを驚嘆させた企業や製品を表彰する時だ。

 2019年版「ションキー・アワード」を発表したオーストラリア最大の消費者団体「チョイス(Choice)」のホームページには、こんな言葉が躍っていた。「ションキー(Shonky)」とは、オーストラリア生まれの俗語で、その意味は「信頼できない、ごまかしの、いんちきな…」といったところだ。

 ▼恒例の“最劣等賞”

 06年に始まり、今年で14回を数える「ションキー・アワード」を一言で説明するならば、商品やサービスの〝最劣等をたたえる賞〟だ。企業や商品、サービスを気後れすることなく名指しして、真正面から「ここがダメ!」とバッサリ切ってみせるのが「チョイス」流。相手が巨大企業や権威・権力のある業界団体でも腰がひけることは決してなく、コメントは時に「そこまで言って大丈夫?」とこちらが心配するほど。ユーモアや皮肉を交えた舌鋒(ぜっぽう)鋭い指摘は痛快で、例年大きな反響を呼ぶ。

 今回「受賞の不名誉」に浴したのは、顧客よりも自社の利益を優先する私的年金基金「AMPスーパーアニュエーション」、返品・返金に関する苦情殺到の家電オンラインショップ「コーガン」、砂糖たっぷりなのに健康食品度(ヘルス・スター・レーティング)四つ星を表示する「フリーダムフーズの子供向けシリアル製品」、いざという時に役に立たない「ペット保険全般」、不当な料金構成のプライベート医療保険「メディバンク」、そして、環境ラベリング制度(エネルギースター)が定める基準を満たせず、庫内温度が10度も上下し食品を冷やしておけない「イケアの冷蔵庫」の六つだった。

 いずれも、オーストラリアでは誰もが知る有名企業ばかり。中でも容赦なかったのが、ペット保険に対して。調査対象になった86種類の保険の中で勧められるものは一つもないとした上で「この国の保険の中で最も価値のない商品群。ペットの飼い主の愛情につけこんで無益なものを売っている」と痛烈なコメントを浴びせた。業界全体に対して「ノー」を突き付けた格好だ。

 ▼独立独歩を貫く

 普段から「チョイス」は地道に商品テストやリサーチに取り組んでおり、そこで得られた客観的な評価や比較結果を月刊誌「Choice」で公開している。対象は、家電製品や日用品・食料品から、金融サービス、保健医療サービスまでのありとあらゆる分野の商品やサービスに及ぶ。デジタル化が進んだ近年は、会員になると5000以上もある専門家によるレビューや商品テスト結果にオンライアクセスできるようになり、雑誌の定期購読は追加オプションになった。

 「チョイス」が誰にも遠慮することがないのは、1959年の発足以来ずっと非営利で、広告不掲載の方針かつ、政府の援助も受けないなど、「独立独歩」の姿勢を一貫して守ってきたからだ。そのブレない姿勢に揺るぎない信頼を寄せる消費者は少なくなく、18万2000人のメンバー(2018年6月末時点)が「チョイス」を支えている。

 多くの人に影響を及ぼす可能性が高いメジャーな問題に関しては、メンバーを巻き込んだキャンペーン活動を繰り広げることにより、規格や法律の改正、リコールや販売中止、品質・サービスの向上といった目に見える結果をもたらしてきた。少しずつ世の中をよりよい方向へ変える「チョイス」発の「ピープル・パワー」は頼もしい。

今年のアワードを発表した場で、「チョイス」の最高経営責任者(CEO)を務めるアラン・カークランド氏(右)は、「真実を伝える独立した声がこれまで以上に重要になっている」と述べた

 ▼客観的評価をもとに

 「ションキー・アワード」の審査対象は、次のいずれか一つ以上に当てはまり、客観的に定量化、あるいは測定可能であること、とされている。

・到達すべき水準に満たない

・商品テストの評価が低い

・隠された料金がある

・透明性に欠ける

・虚偽の宣伝文句や違約

・消費者に不利になる

・消費者の混乱を招く

・値段に見合わない

・消費者の失望、憤り

 初回「ションキー・アワード」(06年版)では、水だけで洗濯した場合と比べて洗浄効果に差がなかった磁気性の「〝奇跡〟の洗濯ボール」や、「肉が17%しか入っていないミートパイ」といった眉唾商品と並んで、大ヒット商品の「iPod」や「ルンバ」もやり玉に上がった。「初期不良が多い上に、修理に出すのが困難」「集じん容器が小さく、障害物にぶつかるたびにゴミをまき散らす」といった消費者目線の的を射た批判に、庶民は喝采を送り、企業は改善を余儀なくされた。つまり、消費者のためになったのだ。ションキー・アワードで指摘された問題に対応せず、世の中から消えた商品もたくさんある。

「チョイス」の商品テスト用の実験室。このような実験室は複数あり、メンバー対象にツアーを行うこともある

 ノミネートは広く一般からも受け付けている。とはいえ、「チョイス」が実際に対象の商品を購入した上で繰り返し実験を行ったり、サービス内容を精査したり…と入念にチェックするのは、通常のテストやリサーチと同じ。データに基づいた客観的評価をふまえて作成した最終候補リストの中から選んだ〝最劣等〟の商品やサービスにアワードを授与することで「これぞ、ションキー!」と喧伝(けんでん)。それを報じるメディアも活用して共感を広げる―。そうやって、「チョイス」は人々を啓発し、企業に行動を促し、政府をつついてきたのだ。

 偽レビューやステルスマーケティングにあふれる時代だけに、「チョイス」のますますの真摯(しんし)な奮闘を祈りたい。(シドニー在住ジャーナリスト南田登喜子=共同通信特約)

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