『ひとよ』 出世作『凶悪』をしのぐ最高傑作!

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 『凶悪』『孤狼の血』の白石和彌が、少し前の三池崇史のように質の高い作品を量産している。今年これが既に3本目の公開作で、その上、テレビドラマ『フルーツ宅配便』でメイン演出まで担当した。

 白石監督といえば犯罪を扱った作品で知られ、今回も冒頭いきなり殺人で始まるが、サスペンスというよりも人間ドラマ、一種のホームドラマだ。主人公となるのは、母親が父親を殺害して服役したことで、世間の非難の目にさらされて育った3兄妹。父親のDVから彼らを守るための決断だったのだが…。そんな彼らと母親との15年後の再会が描かれる。

 まずは、緊張感とユーモアのバランス、緩急が絶妙だ。特に、夜の軒先でたばこを吸いながら子供の頃の思い出に花を咲かせる“たばこ3兄妹”のシーンは、「家族の再生」という映画の主題に直結する肝のシーンでありつつも思わずクスッと笑ってしまう。映画史に残る名シーンだろう。

 そして、映画で目に見えないもの(時間や内面の変化など)を表現したいとき、同じ場所、同じシチュエーションを繰り返す手法の有効性については何度も言及しているが、この映画の場合はタクシー。父親殺害の凶器として登場したタクシーは、以降、運動性を伴う舞台装置として活躍する。しかも後半の衝突シーンでは、どうやって撮ったの? という衝撃を生み、ラストシーンの余韻も支える…。出世作『凶悪』をしのぐ、白石監督の現時点での最高傑作だと思う。★★★★★(外山真也)

監督:白石和彌

出演:佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、田中裕子

11月8日(金)から全国公開

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