巧さを極めたハミルトン、2019年を象徴する走りで6冠達成【今宮純のF1アメリカGP分析】

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 2019年F1第19戦アメリカGPは、メルセデスのルイス・ハミルトンがワールドチャンピオンを獲得。予選日の苦戦から一転、巧みな走りで2位表彰台へと登っていった。F1ジャーナリストの今宮純氏が週末のアメリカGPを振り返る。

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 達成感と虚脱感がまざりあったような表情のルイス・ハミルトン、いつもの表彰台とは違う自然な笑顔を見せた。喜びが顔のすみずみにまで満ちていた――。

 F1第19戦アメリカGP二番目のチェッカーフラッグが6冠王に振られた。チャンピオンの決め方としてここで勝って決めるのが王者にはふさわしいが、ハミルトンはバルテリ・ボッタスの4.148秒後だった。シーズン9度目のメルセデス・チーム『1-2フィニッシュ』、開幕5戦連続したあの強さを再び見せつけるかのように彼らは最強のフィナーレを飾った。

 いったいどうしたんだ。土曜フリー走行でハミルトンは金曜日より0.7秒も遅かった。ガレージに閉じこもりセッティングを変えてもタイムは上がらない。予選Q1では2番手にきたもののトップはマクラーレンの新人ランド・ノリス、“COTAマイスター”がルーキーに及ばない異常事態だ。

 Q2開始、ボッタスより先に出てアタックしたタイムが他のドライバーたちによって次々に破られていった。さらなるアタックが必要だ。ところが19コーナーでマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)ら3台と“渋滞”の混乱に、あわや接触という場面になった。

 彼らしくないプレーのまま結局ミディアムタイヤで4番手にとどまる。それでも5回PPを奪ってきたハミルトンなのだからQ3にはソフトで一撃を決めるだろうと思えたが、ダメだった。自己ベストセクター・タイムをそろえられず、昨年の新記録1分32秒327より遅い1分32秒321で5番手。前の4人がすべて新記録を更新、しかも僅差の0.108秒間にひしめきボッタスが5回目のPPを。強気顔などあまりしない彼がハミルトン4回を超えるPPに薄笑いを浮かべた。

 精査すればハミルトンは低速8コーナーが連なるセクター3が遅く、マクラーレンのサインツ以下の7番手。このエリアで絶対最速を誇っていた『ミスターCOTA』の失速は解せない。まったく意外だ。本人は「ラップをまとめられなかった」とルーキーみたいなコメント。見せ場もなくCS中継で流れたのもたった10秒だった。

 予選ワースト5番手は17年シンガポールGPを思い出させた。バンピー路面に手を焼きそれを言い訳にしたあのときのことを。今年のコース状態はまったくあのひどい凸凹にそっくりで、応急工事対策がなされたようだが点在するバンプは見るからに嫌らしい……。しかし、そのシンガポールGPで5番手スタートから最速ラップを叩きハミルトンは勝ってみせている。個人的な記憶の中でそれがよみがえった。

 タイトル・プレシャーに縮むような彼じゃない、5番手だろうと“レーシング・スイッチ”をONするか……。故ニキ・ラウダがそうだったようにハミルトンは土曜の夜、心をすべて入れ替えたのではないか。

■あっという間に反撃の“橋頭堡”を築いたハミルトン

 空間認識能力が冴えているのが『ハミルトン2019』の進化だろう。周囲の混戦を見極め、引くときと行くときの瞬間判断がすばらしい。それはカナダGP(対セバスチャン・ベッテル)でも、メキシコGP(対フェルスタッペン)でも何度も演じてきている。

 スタート加速はふつうだった。ユニークな坂上の1コーナーはラインが交錯する最初のデインジャラス・ポイント。それを熟知するハミルトンはベッテルとルクレールも奇妙な挙動をするのをすぐに察知。

 TV映像では分かりにくかったがベッテルは2コーナーが鈍く(軽いタッチかあるいはバンプのせいか)、すかさず高速S字で見抜きかわす。これで完全にスイッチON、ルクレールもさばき、危ない動きをするフェルスタッペンの背後に。3番手浮上、これからの反撃の“橋頭堡”をあっという間に築く、レースはここからだ。

 レース戦略面でこの日、金曜タイヤデータに固執するわけにはいかない路面コンディション変化がつづいていた。木曜朝の氷点下から日増しに温度が上昇、日曜には平年並みの20度以上へ。路面温度の微差でピレリタイヤは“性格”を一変する。

 あらためてここで言うと、6冠王はそのタイヤの使い方がとびきりうまい。前戦メキシコを欠席し、アメリカで戻って来た相棒のピーター・ボニントン担当エンジニアと、“生々しい”無線会話を反芻しながら上位陣でただ一人、1ストップに挑んだ。

 もうひとつ。6冠王は14年ハイブリッドPU時代になって、とくに“リフト&コースト”のスキルが絶妙だ。単純に言えば燃費とタイヤをそれでセーブしながら、次の局面にそなえる。そしてその滑走状態からコーナーに向かうと、得意なテクニックであるブレーキングを見せる。減速時のラインもポイントもずれずにぶれない。奥の奥へ『減速の細道』を精確にでなぞるのだ、そのためにフリー走行で何度かロックアップ、一見ミスに見えるが『細道』にトライしていくのだ。

 ハミルトンが勝って決られたのはV2の2014年とV3の2015年、あとは5位、9位、4位だっただけに今回のV6戴冠レース2位はいままでとやや違った。ちなみに4連覇のベッテルは2度だけ勝ち決めを達成し、7冠ミハエル・シューマッハーは4度やっている。2位での戴冠は2016年ニコ・ロズベルグと2006年フェルナンド・アロンソ以来となる。

──今年のハミルトンを象徴するような決め方、PPは今年少なくたった4回でも巧みな強さで11勝。ただ速さで押しまくるのではなく、巧さを極めた34歳の6冠王ハミルトン。そうシューマッハーも同じ年齢で6冠を達成している……。