<隠れた名盤> 矢野まき『矢野まき ALL TIME BEST』 自分の弱さを好きになってこそ強くなれた…

矢野まき『矢野まき ALL TIME BEST』

 1999年にデビューした女性シンガーソングライターの2枚組ベスト。“亀田誠治、寺岡呼人、松岡モトキらが楽曲プロデュース”“中島みゆきをトリビュートしたLIVEにも参加”“親交のある大橋卓弥とコラボした新曲『ポートレイト』を収録”といった情報からも、業界内や音楽通から評判のアーティストだと分かる。

 実際に全32曲を聴くと、J-POPらしく憶えやすいサビや、人あたりの良い言葉は見つからない。その中でも比較的分かりやすい曲を紹介してみたい。

 退廃的なメロディーや気だるい歌い方でのロックナンバーでは、何かをしたくて疼いている『大きな翼』、深い絶望から抜け出したい『魔法』、さらに祭りでとった金魚の死に、自らの恋の終わりを重ねた『夢を見ていた金魚』が特に印象に残る。

 また、フォーク系の楽曲では、苦しむほどに愛し続ける『タイムカプセルの丘』、人々の哀しみに寄り添うような『夜曲』、ささやかでも前を向こうとする『ボクの空』などの歌声に癒される。ホーン隊や昭和歌謡が好きな人なら、別れのシーンを描いた『さよなら色はブルー』も気に入りそうだ。

 新曲『ポートレイト』も爽やかなエールソングだが、自分の弱さを好きになってこそ強くなれた、という歌詞がやはり彼女らしい。本作を聴けば不器用でも本気で誰かと向き合いたいと思えるはず。

(ユニバーサル・2CD 3300円+税)=臼井孝

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