<大ヒット盤> 浜田省吾『凱旋門』 20代の楽曲のセルフカバーに円熟味

浜田省吾『凱旋門』

 ソロ名義では約14年ぶりとなるシングル。今回は浜田自身が20代後半だった頃(1980年代前半)の楽曲から3曲をセルフカバー。一般的に若かりし頃のモノは、気恥ずかしいものが多いのだが、ここでは円熟味が増していてむしろ聴きやすい。

 表題曲は、想い続けていた元恋人と再び愛しあうというバラード。原曲よりキーが下がってまろやかになった分、確かな愛情が伝わってくる。「人はいつも失くしたものの重さだけを背負ってゆく」という言葉からも、深い後悔を経た後での真の愛情を感じさせる。

 カップリングの『明日なき世代』は、痛快なロックンロールに乗せて「俺たちの愛は誰にも触れさせない」と誓うが、骨太なサウンドも相まって、セルフカバー版の言葉が深く刺さる。

 もう1曲の『防波堤の上』は、孤独を生きる人の心情を綴ったバラード。レッド・ツェッペリンを想起させるアレンジも寂しさを増幅させ、前の2曲のように真剣に愛と向き合わなければ、こうした結末が待っている、という風にも聴こえた(一人も悪くないが)。

 80年代から一貫した、田島照久による浜田と自然風景を絶妙に調和させたアートワークも深い人生そのもの。本作を聴けば、愛と孤独の中で生きる意味をより切実に感じるはず。

(ソニー・1300円+税)=臼井孝

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