【プレミア12】「復調を待ってたら終わってしまう」―白星発進の侍J、坂本に代打を送った意味

侍ジャパン・稲葉監督【写真:Getty Images】

初戦で見えた侍ジャパンの収穫と課題とは…「国際大会は待っていたら終わってしまう」

■日本 8-4 ベネズエラ(プレミア12・5日・台湾)

 野球日本代表「侍ジャパン」は5日、台湾・桃園市の桃園国際野球場で「第2回 WBSC プレミア12」(テレビ朝日系列で放送)オープニングラウンドB組初戦のベネズエラ戦に臨み、8-4で逆転勝利。2点ビハインドの8回に7つの四球や菊池(広島)の適時打、鈴木(広島)の犠飛などで5点を奪い、試合をひっくり返した。ヒヤヒヤながら、白星発進。初戦で見えた侍ジャパンの収穫と課題とは……。

 ヤクルト、日本ハム、阪神、横浜の4球団で捕手としてプレーし、昨季まで2年間はヤクルトでバッテリーコーチを務めた野球解説者の野口寿浩氏は「もらったような勝ち方でしたが、初戦の硬さがある中で、大事なのは勝ったという事実。そういう意味ではよかったですね」と評価。そして、8回の好機で坂本(巨人)に代打・山田(ヤクルト)を送った稲葉篤紀監督の采配については、国際大会を勝ち抜くために必要な手だったと振り返った。

「国際大会は復調を待っていたら終わってしまう。状態が悪い選手は代える、というのは必要になってきます。特に、坂本はこれで2度と使わないという選手ではない。今後も使っていくでしょうから。それで調子が上がらなかったら、スタメン落ちというのも考えないといけない。ただ、あれは十分にありえる作戦、戦術でしょう。あそこで山田ほどの打者が代打として控えているわけですから」

 結果的に、山田は1点差に迫る押し出し四球という形で結果を残した。流れを引き寄せるという意味では大きな一手だった。

「あの犠牲フライは稲葉監督が打たせた犠牲フライ」

 この回、侍ジャパンは続く菊池(広島)が同点打を放つと、近藤の押し出し四球で勝ち越し、4番の鈴木(広島)が2点差に広げる犠飛と打線がつながった。この鈴木の犠飛も「稲葉監督が打たせた犠牲フライと言えますね」と野口氏は語る。どういうことか。

「稲葉監督は思い切ったことやるな、と感じたのが7回に鈴木の打席で出したエンドランのサインです。あれは明らかにエンドランの打ち方だったと思いますが、鈴木は初球の見逃しストライクでなかなかバットが出てこない状況でした。1、2打席目も先発左腕のドゥブロンの前に見逃し三振に倒れていた。3打席目は『(ピッチャーが)代わってくれてよかった』という感じでタイムリーも打ちましたが、その次のこの打席の初球でもバットを出すことに躊躇している感じがありました。そこで強制的にバットを振らせるという意味では、ヒットエンドランは非常に有効な作戦です。結果は三ゴロでしたが、稲葉監督は鈴木に積極的に振る意識を無理矢理にでも呼び起こさせようとしたのではないでしょうか。そこまで考えて出されたサインであれば、その次の打席の犠牲フライは稲葉監督が打たせた犠牲フライと言えます。『積極的に打ちにいかないと』『見ていたら終わっちゃうよ』と。そういうメッセージがあのサインには込められていたのではないかと思います。

 稲葉監督は選手としても、打撃コーチとしても国際大会の戦い方は分かっている。甘い球は好球必打ということが必要です。相手のベネズエラの打者も、前半は早いカウントからどんどん打ちに来ていました。積極的に打ちに行くことは大事です。鈴木は実際に2打席目まではああいう内容でしたが、終わってみれば2打点。これで第2戦目以降は通常通りの鈴木誠也になってくれれば、日本にとって非常に大きい」

 鈴木本人にとって、そして、日本にとっても結果を出したことは大きかった。

最大の課題はやはり動くボールへの対応か

 一方で、課題も見えた。ベネズエラ先発の元レッドソックス左腕ドゥブロンの前に侍ジャパン打線は4回1安打無得点と苦戦。カットボールに苦しめられた。これまでの国際大会と同じように、外国人投手特有の「動くボール」をどのように攻略するかは、間違いなく世界一への鍵の一つとなる。

「カットボールを内から外からも、という投球に苦戦しました。カープのジョンソンみたいなイメージだったのかなと。見逃し三振もいくつかありましたが、アンパイアのストライクゾーンもそんなにおかしいとは思いませんでした。両チームとも同じような感じで(ストライクを)取っていたので、それは言い訳にはできない。ドゥブロンはレッドソックス時代からああいうタイプで、もう少し球は速かったかと思いますが、中南米系の国のピッチャーのツーシーム、カットボールというムービングファストボール、速くて動く球への対応力はやはり課題になります。先程もいいましたが、鈴木あたりは3打席目で『代わってくれてありがとう』という感じに見えましたから」

 さらに、「日本シリーズ出場組」の状態についても、不安が見えたという。

「松田はバントの失敗があって、打つ方も内容があまり良くありませんでした。丸もまだまだですが、右翼線への鋭いファウルを見る限り、日本シリーズのときほど酷くはないと思います。ただ、坂本の状態はどんどん悪くなっていますね。あれだけボールを迎えに行ってしまうとポイントがズレて捉えきれない。ボールに寄って行ってしまってる。この試合については、相手の失投のスライダーもボールゾーン近くの高いところに行っていた。それを追いかけていましたが、あとボール1つ分低いボールであれば、1球くらいは捉えてヒットになっていたかもしれません。そうなれば気持ちが楽になってきて、あれほどの実力者なので調子を取り戻していく可能性はありましたが、状態が悪い時に限って甘いところには来ないものです。相手の投げミスもボールゾーンに行ってしまって、それに手を出してしまってとなってくると……。状態が悪いときはそういう悪循環になってしまう。何かきっかけがあれば、と思うのですが……」

 侍ジャパンでもキーマンの一人となるだけに、早く本来の姿を取り戻してもらいたいところだ。

 一方でこの坂本、松田も含めて日の丸の経験が豊富な選手もいるのは、今回のチームの長所ともなっている。野口氏は、試合全体を通しての印象としては「落ち着いていたというか、そういうふうに見えましたね。日本の選手はあまり焦っていなかったというか、いつか逆転できると思っているように見えました」とも語る。周囲が思っているほど、実はチームとしては“ヒヤヒヤ”ではなかったのかもしれない。

 たとえ苦戦しても、勝ちながら状態を上げていく。オープニングラウンドはそんな試合が続くことになるのだろうか。(Full-Count編集部)

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