類似するバッグを巡る裁判で不正競争行為を認定、イッセイミヤケが勝訴

 2019年6月、東京地裁でデザインは「完全に一致」していないが、「類似」している商品の販売差し止めを求めた裁判の判決が出た。
 デザインの保護を求めた原告側の主張が概ね認められた判決で、業界関係者を中心に好意的に受け止められている。

不正競争行為の差し止めを求め提訴

 2017年9月、婦人服・服飾雑貨販売の(株)イッセイミヤケ(TSR企業コード:291371884、以下イッセイ社)と親会社でデザインなどを手掛ける(株)三宅デザイン事務所(TSR企業コード:291513620、以下MDS)が、類似バッグを販売していたバッグ製造の(株)ラルジュ(TSR企業コード:313758883)を相手取り、東京地裁に不正競争行為の差し止めなどを求めていた。
 東京地裁は6月18日、ラルジュに対して、類似商品の譲渡や引き渡しの差し止めと破棄、イッセイ社へ7,106万円の損害賠償などを命じた。
 イッセイ社の担当者は東京商工リサーチ(TSR)の取材に対し、「デザインの保護に関して、当社の主張が概ね反映された判決で、広く知られたデザインにフリーライド(タダ乗り)する不正競争行為の範囲を確認する上でも、意義のある結果」とコメントした。一方、ラルジュは「コメントは難しい」と回答を控えた。
 TSRが蓄積する「裁判情報データベース」によると、不正競争防止法を巡る裁判は、令和に入り東京地裁で3件、全国では5件起こされている。原告と被告の社名が酷似しているケースや模倣もみられた。

「BAOBAO」と「Avancer」

 イッセイ社は「ISSEY MIYAKE」などの人気ブランドを持つ。独自ブランド「BAO BAO ISSEY MIYAKE」(以下BAOBAO)のトートバッグ、ショルダーバッグ、リュックサックなどを販売している。
 これらはタイル状に並ぶ三角形のピースが荷物の形状に応じて折れ曲がり、外観が立体的に変形するのが特徴で、2000年代半ばの販売開始から人気が沸騰していた。
 イッセイ社の業績も順調に伸び、2019年3月期の売上高は342億700万円、当期利益は30億9,200万円をあげていた。
 一方、ラルジュは2016年9月までに「Avancer」ブランドで三角形や四角形のピースで覆われた類似したデザインのバッグ販売を開始していた。
 「本件はブランド名を用いた模倣品ではなく、類似したデザインが問題となったケース」(イッセイ社の担当者)として、不正競争防止法に基づいて主張したという。

“不正競争防止法を巡る争点

 裁判では、「特徴的」、「デザインの認知」、「混同する恐れ」が焦点となった。
 イッセイ社によると、BAOBAO商品の特徴は独創的なアイデアで、新聞や雑誌にも多数掲載。その特徴がイッセイ社の商品であることは広く認知されている。このため、類似した「Avancer」を消費者が誤認しているとして、「不正競争防止法違反」を主張した。
 ラルジュは、BAOBAOが持つ特徴はありふれた形態に過ぎないと反論。さらに「Avancer」は「ふぞろいな複数種類のピースを不規則、非連続的に配置する」と主張した。その上で、それぞれの商品には明らかに差異があり類似せず、混同の恐れもないと反論した。

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 東京地裁は判決で、イッセイ社の主張した「特徴的」、「著名なデザイン」、「類似している」を認定した。 勝訴を受け、イッセイ社はTSRの取材に「イッセイミヤケならではのデザインを大切にし、人々に新しい驚きをもたらす革新的なものづくりを続けてまいります」とコメントした。
 デザインが完全に一致せず、ブランド名も異なる類似商品は、世の中に多く出回っている。認定までのハードルは高いが、今回の裁判で不正競争防止法違反が認められたことは、デザインが重視されるアパレル業界には画期的な判決といえる。
 果たして、世に出回るブランドの「類似商品」が淘汰されるのか、行方が注目される。

 

左がBAOBAO、右がAvancer((株)イッセイミヤケ提供)

 左がBAOBAO、右がAvancer((株)イッセイミヤケ提供)

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