「サッカーコラム」U―22ブラジル戦で得た“ミドルの感覚”

覚醒中のJ1川崎・田中碧に期待

©株式会社全国新聞ネット

川崎―広島 前半、先制ゴールを決める川崎・田中=等々力

 これまでのイメージが強かったので、この選手はミドルやロングレンジからのシュートが得意なのだろうと思っていた。

 11月2日のJ1第30節、川崎対広島戦。前半21分に見事なゴールが決まった。攻め込んだ川崎の中村憲剛が、後方のスペースにいた田中碧を見つけてバックパス。フリーでボールを受けた田中は、迷うことなく右足を振り抜いた。

 よく抑えの利いた25メートルの弾丸シュート。ボールはタックルに入った広島のMF青山敏弘の股間を抜けた。GK大迫敬介が必死にセーブするものの、一瞬間に合わない。左ゴールポストを直撃したボールは跳ね返り、倒れこんだ大迫の背中に当たってゴールに転がり込んだ。田中にとってはラッキーな、大迫にとってはちょっと不運な得点だった。ただ、シュートそのものは、誰が見ても素晴らしいものだった。見ている者が爽快な気分になるのだから、打った田中はさぞかし気持ちがよかっただろう。

 田中は今シーズン何点取っているのだろうか。資料を見て、少し驚いた。これがリーグでは今季初得点だ。トップ昇格から3シーズンを通算しても2得点目。漠然と抱いていた、点の取れるボランチというのは自分自身の思い違いだった。

 断片的に見たプレーで、選手のイメージが刻まれてしまうことがある。田中の場合、それが強烈だった。10月14日、来年の東京五輪を目標とするU―22(22歳以下)日本代表は、敵地でU―22ブラジル代表と対戦。年代別とはいえ、サッカーワールドカップ(W杯)で最多の5度優勝した強豪を3―2で下したのだ。残念なことに、ラグビーW杯が巻き起こした熱狂にかき消されて日本では大きくは報道されなかった。しかし、冷静に見ると地球の裏側まで遠征してコンディションの上でもハンディを抱えた日本が、アウェーでブラジルを下すのはもちろん大ニュースだ。そして、この試合でペナルティーエリア外から強烈な2本のシュートを突き刺したのが田中だった。

 シュートシーンがそのまま脳裏に刻まれたこともあって、田中はミドルレンジからのシュートが得意と信じ込んでいた。ところが、広島戦の後に話を聞いてみると、そうではないということだった。

 「もともとミドルを打つタイプではないというか、入るとは思っていない人間だったので」

 田中にとってのペナルティーエリア外からのシュートは「(打ったとしても)どうせ相手ボールになるという思いがあった。結果的に『ボールを捨てる』ことに抵抗があった」のだという。それがブラジル戦を境に「たまたま決めてからは、比較的考えが変わった」というのだ。

 Jリーグの試合は、他のリーグから比べればかなり変わっていて、ミドルシュートやロングシュートが極端に少ない。それは長・中距離のシュート技術がないわけではなく、チャレンジしないことに原因がある。そして、これまでの田中のように、キックの技術がありながらも、それに気づいていない選手が結構いるような気がする。

 単純明快に自分のキックの精度とパワーだけでゴールネットを揺らすロング、ミドルのシュートは、技巧系のシュート以上の気持ちよさがある。そして、一度のきっかけでミドルシュートに目覚める選手を、過去にも見たことがある。

 1982年インドで開催されたアジア大会。当時、A代表で争われていたこの大会で、日本は韓国と対戦し2―1の勝利を収めた。ちなみに、この試合は日本代表が日本以外の土地で、韓国代表を破った初めての試合だった。決勝点を挙げたのは、後に日本代表を率いて2度のW杯を戦った岡田武史さんで、ほれぼれするほどの弾丸シュートだった。当時、DFだった岡田さんはポジション柄シュートのチャンスは限られていた。しかし、アジア大会から戻った古河電工の岡田さんは、日本リーグで積極的にロングシュートを狙う選手に変身していた。韓国戦で右足に残った、ボールをインパクトしたときの感触。そのイメージが強く残ったからこそ、岡田さんは迷いなく長・中距離のシュートを狙う選手になれたのだろう。

 これからのボランチは、相手ボールを奪い取り、無難にボールをつなぐだけでは国際的には通用しなくなるだろう。前に走り込めばペナルティーエリア付近でフリーになれる可能性が高いのだから、相手にプレッシャーを受けずにシュートを狙える機会も多い。後はゴール枠内に飛ばす正確なキックを身に付けているかの問題となる。

 大切なのは、相手に的を絞らせないことだ。シュートを狙えるから、パスが効果的に活きる。その逆もある。右利きのストライカーでありながら左足も蹴られれば、シュートコースは倍に広がる。シュートとパスの関係とは、それと同じことなのだ。その意味で21歳の田中には、さらに長・中距離砲を磨いてほしい。大きく化ける可能性がある。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で7大会目。