『ブロードキャスト 1』漫画:くらの、原作:湊かなえ 誰も殺さぬミステリ(か?)

 湊かなえ、が?青春マンガ、の?原作だと……?いやいやいやいやそんなん絶対誰か死ぬわ、ページめくる前からわかっちゃったわ。担任の復讐劇で一世を風靡したかなえだもの、読後感最悪のミステリー、通称「イヤミス」といえば、のかなえだもの(懐かしさ……)。だから死ななきゃおかしい。誰か殺してこそかなえでしょうよ!(ヒューヒュー不適切ゥ〜!)

 ……以上、書店で本書を見つけた時の心の声をお送りしました。あまりに気になったので、迷わず手に取り会計を済ませ、近くのマッ●でコーヒー片手にこれから読み始めます。どうでもいいけど買ったばかりの本を持ってどっかの店に入り読む時間、めっちゃ幸せじゃないですか。私はクソ幸せ!!

 ふむふむえーと、主人公は町田圭祐っていう男の子だそうで。物語は彼の中学時代から始まるのね。中学で陸上部員だった圭祐は、不慮の事故(轢き逃げだそうです)をきっかけに陸上の道を諦めざるを得なくなってしまった。進学先は陸上の強豪校・青海学院。その入学式に、圭介は重い気持ちで出席する。そんな彼にひとりの同級生・正也が声を掛けた。「放送部に入ろう!」。瞳を輝かせ、まっすぐに圭祐を見つめる正也は、こう続ける。「町田の声は俺の理想なんだ!」。そうして居場所を求める少年の物語の幕が上がる……そうです。

 えーさわやか。こら死なねえな。と思いつつ読み進める。結構ドタバタなシーンもあったりして、意外にもコメディタッチ。なんせ放送部の先輩女子ズ、総出で情緒不安定だったりするんだもん(十代女子あるある)。しかも先輩たち、顔似てて髪型似ててその上ストーリー上でちゃんと名乗んないから若干混乱するし。読みながら登場人物の特徴をイラストで描き起こして、名前出てきたら書き込んだりしたぞ!しかも●ックの紙ナプキンに(まだいる)。まさかこの混乱がミステリーじゃなかろうな!もしそうならちょっと楽しかったぞ。

 キャラが定着する前から日によってヘアスタイルを変える先輩も特定したしな!そのイメチェン一理なし!

 閑話休題。いや、普通にいい話なのよ。若さゆえの衝突も苦い後悔も、読んでて胸に迫ってくるものがあったし。うん、いい話。だけどなーんか引っかかる。なんで?湊かなえ、なんでここに来て青春モノ路線開拓?その先多分、あさのあつこいるんじゃね……?そんなことをモヤモヤと考えながらもう一度読み返した。

 圭祐には、一緒に青海を目指した仲間がいる。中学でともに陸上部に所属していた良太だ。中学時代、圭祐は彼に誘われ陸上部に入部し、彼とともに長距離選手として走った。そして圭祐は、ふたたび良太に誘われ、陸上の名門である青海を志望校に設定する。

 青海には合格したが、走れなくなってしまった圭祐に、良太は「ごめん」と頭を下げる。ここ!ここが読んでて引っかかるんだよなー。だって事故に良太は関係ないし。どういう意味のごめんなんだろう。自分が圭祐に「一緒に走ろう」と誘ってしまったから、走れなくなった失望も一層大きいはずだ、という「ごめん」?良太は青海に、推薦枠で入学が決まったんだけど、付き合わせて「ごめん」?4月から、俺の活躍を目の当たりにさせちゃう「ごめん」?どれもしっくりこんなー。

 ひょっとして湊かなえは、誰も殺さないミステリに挑んでいるのかな。死者はいない。けれど選手生命という命を絶たれた者はいる……。え、もしかして当てちゃった?事故が轢き逃げってのもなんかくさいし。違うかなー、違ったとしてもここから先、絶対なんかある気がするんだよなー。それはつまり、湊かなえが湊かなえとして、どう痕跡を残すのかを意味してるんじゃないかな。あさのあつことは違うルートで、新しくて普遍的な青春を鮮やかに描くであろう湊かなえ。その挑戦にもっとみんな注目したらいいと思う!オラ、ワクワクすっぞ!(ってこれ、書評っていうかもはや妄想?)

(KADOKAWA 620円+税)=アリー・マントワネット

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