イエメン:国境なき医師団の病院が空爆被害で機能不全に——患者・スタッフは全員無事

被害を受けたMSF病院敷地内の事務所 © MSF

被害を受けたMSF病院敷地内の事務所 © MSF

イエメン南西部のモカで11月6日夕方(現地時間)、国境なき医師団(MSF)が運営する病院が近隣への空爆によって、大きな被害を受けた。この空爆により薬局は焼け、事務所の建物も破壊、被害の詳細は今後の実地検証で明らかになる見通しだが、院内の医療活動は中断している。MSF医療チームの一部は、アデンに拠点を移す予定だ。MSFは改めて、全ての紛争当事者に対して、あらゆる手段で医療機関を保護する義務があると訴える。 

MSFスタッフと患者 全員無事

空爆を受けた当時MSF病院にいた患者約30人とスタッフ35人は、すぐに避難したため、死傷者はいなかった。容体が安定していた患者の大多数は自力で敷地を離れることができたが、新生児2人と重篤な患者は、MSFチームによってモカ市内にある別の病院に搬送された。

爆発とその後の火災でMSF病院施設は大きな被害を受け、さらに続く空爆で周辺にあった軍の倉庫が直撃を受けた。今後の実地検証で発電機がある機械設備棟を含め、被害の詳細を明らかにする見通しだ。現場には不発弾が残っている危険性があり、撤去を行わない限り活動再開は難しい。

「患者とスタッフがけがしなかったのは幸運に過ぎず、大惨事もありえました」と、イエメンのオペレーション・マネジャーのキャロリン・セガンは話す。

「病院が機能不全となった今、緊急救命を必要とする状況にもかかわらず、現地の人びとは医療を受けられなくなりました」 

モカで唯一の無償診療を担う病院

空爆で延焼したMSF病院敷地内の薬局 © MSF

空爆で延焼したMSF病院敷地内の薬局 © MSF

MSFは2018年8月、今回空爆を受けたMSF病院を開院。モカ地域では唯一の無償診療の民間病院として、紛争による負傷者に救急外科手術を行っていたほか、合併症を伴う分娩時の帝王切開などの緊急処置を担っていた。ベッド数は35床あり、2019年は既に計1787人の患者がこの病院に入院、2476件の外科手術を行った。うち201件は帝王切開であった。

2018年の開院以来、MSFは全紛争当事者と当局に対し、病院の位置情報を伝えており、全ての紛争当事者は病院位置を認知していた。MSFは改めて、全ての紛争当事者に対して、あらゆる手段を持って、医療機関を保護する義務があると訴える。

MSFは1986年にイエメンで活動を開始。現在は11県に散在する12病院で医療援助活動をしているほか、20カ所余りの医療機関を支援している。 

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