対馬の赤米神事「お吊り坐し」中止  継承者・主藤さん急病

昨年の「お吊り坐し」で、ご神体の俵にしめ縄を張る主藤さん=対馬市厳原町豆酘、主藤さん宅(2018年11月25日撮影)

 古代米の赤米をご神体としてあがめる「赤米神事」(国選択無形民俗文化財)を唯一受け継ぐ対馬市厳原町豆酘(つつ)地区の農業、主藤(すとう)公敏さん(69)が急病で倒れ、10日に予定された「お吊(つ)り坐(ま)し」の神事が今年は中止されることが8日までに分かった。
 豆酘地区は日本の稲作伝来の地とされ、千年以上前から赤米を栽培。「頭仲(とうなか)間(ま)」と呼ばれる住民が交代で神事を続けてきたが、農業離れなどで脱退が相次ぎ、2007年からは主藤さんだけが頭仲間として継承。お吊り坐しはその年に収穫した赤米を俵に詰め、頭仲間宅の座敷につるすことで、ご神体が完成する重要な儀式とされる。
 主藤さんは青年時代から地域の豊作豊漁を願って赤米神事に携わっており、13年に宮中献穀米として皇室にささげたほか、近年は地域の伝統行事を伝えるため地域の子どもたちと田植えや稲刈りも行ってきた。
 家族によると、主藤さんは10月22日午後、頭痛を訴えた後に意識を失い、脳出血と診断された。手術を終えた現在も福岡市内の病院に入院し、意識は戻っていないという。
 主藤さんのいとこで、神事をつかさどる神職「お亭坊(ていぼう)」の権藤勝己さん(65)は「今年は台風で収量が少なかったが、ご神体が小さくならないようできる限り赤米を入れようと話し合っていた」と言葉を搾り出すように話した。
 対馬市立豆酘小児童は今月20日、同校である赤米サミットで学習の成果を発表する。同校の松坂眞一校長は「主藤さんの思いを子どもたちは受け止めている。また元気な姿を見せていただけるよう早期のご回復を祈っています」と語った。

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