「ユニホームを着てる姿がみたい」 新妻の言葉を胸にトライアウトに挑む中日捕手

中日から戦力外通告を受けた杉山翔大【写真:小西亮】

2016年には104試合出場も、この2年間は1軍出場機会なし

 正捕手に最も近い位置にいながら、気づけば3年間でどん底まで転げ落ちた。今季限りで中日を戦力外となった杉山翔大捕手は、11月12日に開かれる「プロ野球12球団合同トライアウト」に再起をかける。今季2軍戦で内野に回る不遇も味わい、あらためて捕手へのこだわりを再確認。今年1月に結婚したばかりの新妻にも背中を押され、背水のグラウンドに立つ。

 9月30日、2軍マネジャーから「明日、球団事務所に行って」と言われ、すぐに察した。「来たか…」。今季1軍昇格のなかった数少ない選手の1人。加えて2年連続で1軍出場なしとなれば、疑う余地はなかった。もちろん予想はしていたが、いざ現実を突きつけられるとなると、さすがに堪えた。

 乱高下の7年間だった。早大時代に東京六大学リーグ「3冠王」に輝き、ドラフト4位で入団するも、2年目まで2軍暮らし。迎えた3年目の2015年、突如として回ってきた1軍機会でバットでも結果を残し、64試合に出場した。翌16年は104試合、規定には達しないものの打率.260で一気に台頭。長年、中日の正捕手を担ってきた谷繁元信氏が現役を引退して監督専念となった年だっただけに、「ポスト谷繁」の期待は痛いほど伝わってきた。

「あそこが勝負所でした」。そう杉山が振り返る。真価が問われた17年。終わってみれば39試合出場にとどまった。万年Bクラスになりつつある現状に「チーム低迷の責任まで背負いこんで、考え込んで結果を求め過ぎてしまった」。売りだったはずの打撃が崩れ、バットに意識を注ぎすぎるとマスクにも影響が出た。負のスパイラルに陥っている間に、立場はすぐに変わった。

「チャンスがあるときに、結果が残せなかったということです。考え過ぎず、もっとがむしゃらにやればよかった」

杉山がトライアウトへかける思い、来季もNPBのユニホームを妻に

 今季当初はファームで先発マスクの機会が多かったが、夏場以降は三塁に名を連ねることもしばしばあった。違った角度から扇の要を見る事で新たな発見もあるはずだと自らを言い聞かせようとしたが、無理だった。「全部キャッチャー目線で考えちゃう。やっぱりキャッチャーしたいんだなって余計に思いました」。

 課題のひとつだった打撃は、2軍で3割超の打率を残した時期もあったが「なんで上に呼ばれないんだろう……」。うまく消化できないまま7年目のシーズンが終わり、告げられた戦力外。心にしこりを抱え、家路に着いた。予想通りだった結果を人生の伴侶に報告すると、予想外の明るい表情が返って来た。

 1年余りの交際を実らせ、今年1月に結婚したばかりの春香さん。4歳下の新妻の口からは、前向きな言葉しか出てこなかった。

「まだまだユニホームを着ている姿が見たい。人生終わったわけじゃないし、なるようにしかならないよ。信じているし、きっと見てくれている人はいる」

 明くる日、スーツに身を包んで家の玄関を出ようとする背中に、また妻の言葉が飛んだ。「胸張って行ってこい!」。杉山は、重く濁っていた胸の中がすっと晴れた気がした。「落ち込んだのは9月30日だけでした。おかげで切り替えられました」。その日からほぼ休みなく、誰もいない時間のナゴヤ球場に来て汗を流してきた。

 もちろん、できることなら来季もNPBのユニホームを妻に見せたい。人生の分岐点となるトライアウトを前に、悲壮感はない。むしろ憑き物が落ちたようなすっきりした表情で、杉山は言う。「まずはしっかりやりきる事。その先については、いろんな選択肢も出てくるかもしれないので」。3年前につかみ損ねたチャンス。今度こそは――。(小西亮 / Ryo Konishi)

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