両陛下がご乗車、トヨタ・センチュリーを体験 運転席でも感じられるVIPの乗り心地

天皇皇后両陛下の即位記念パレードでお二人がお乗りになったトヨタ・センチュリーのオープンカーはもちろん特注品。

一方、ノーマルのセンチュリーも実は販売目標はわずか月販50台というスペシャルな存在です。


最高レベルの静かさとソフトさに感動

自分の生涯でもっとも縁遠いだろうと考えていたショーファードリブン。つまり企業のオーナーや政府の要人といったVIPが乗り、専門のショーファー(運転手)がドライブするという高級車のことですが、日本にもふさわしいクルマがあるのです。

それが新天皇皇后両陛下の即位の礼のパレードに使用された「トヨタ・センチュリー」です。もちろんパレードに使われるのは約8,000万円を上限とする契約で内閣府が購入したと言われる特注品で、一般のセンチュリーとは別物。オープンカーに改造したということ以外、どこをどう改良して、なにが違うのかということは、ほとんど明かされていません。いったいどんな世界が見えるのでしょうか?

なんて考えていたら昨年6月にデビューした3代目センチュリーにじっくりと乗ってみたくなり、早速借り出してみました。

世界にはロールスロイスやメルセデスのマイバッハSクラス、トランプ大統領で有名になったトランプ大統領のキャデラック製リムジンは「ビースト」など、それぞれの国に誇るべきショーファーカーがあります。もちろん日本にはセンチュリーです。パレード用のオープンカーはまさにワンオフの一台きりの存在ですが、実はセンチュリーも月販50台という希少車であり、一般人が“上座”であるリアシートに座ることなど、余程のチャンスがない限り無理という存在です。

まず、佇んでいるだけでも上品さというか、凸凹の少ない優しい日本流の楚々としたフォルムは、ある種の迫力を持って迫ってきます。そして濡れたような黒い塗装のボディにうっとりさせられます。このボディカラーは「神威(かむい)エターナルブラック」と呼ばれ、なんと電着、中塗り、ベースカラー、クリア(無色)、ベースカラー、カラークリア(ブラック)、トップクリア(耐すり傷)の7層もの塗装が施されているのです。傷でも付けたら気が遠くなりそうな板金塗装費が必要になるなぁ、などと考えるのはやはり庶民ゆえの悲しさです。

輪島塗から学んだというセンチュリーの塗装には、他にも「摩周(ましゅう)シリーンブルーマイカ」、「瑞雲(ずいうん)デミュアーブルーマイカメタリックモリブデン」、「鸞鳳(らんぽう)グロリアスグレーメタリックモリブデン」など、まるでお線香の名前のような色が用意されているのですが、現段階でブラック以外は目撃していません。

エンジンはV型8気筒

さて、早速運転席のドアを開け乗り込んで、ドアを閉めました。バフッという何とも重々しい音とともにドアは閉まります。でも力はいりません。例え半ドア状態でもオートクローザーが付いているため、自動で自然にドアはピシッと締まるのです。もちろんこの装備も前ドアに付いているわけです。

次にエンジンスタートボタンを押すとV型12気筒が静々と、といいたいところなのですが今回のモデルから最高出力381ps、最大トルク510Nmを発生する5リッターV型8気筒エンジンと224psの電動モーター、そしてニッケル水素バッテリーを組み合わせたハイブリッド・システムが目覚めます。先代モデルが搭載していた国産唯一の量産のV型12気筒ガソリンエンジンは姿を消しました。時代といえば時代で燃費も良く、環境面にも配慮した結果ですから、もちろん納得です。

スクエアでスッキリとしたボディは見切りが良い車両感覚は、運転手にとっても有り難い。

そしてなによりも静かです。振動もほとんど感じません。そこでアクセルを踏み込むと“まさに音もなく”スルスルっと動き出します。静々とゆったりと巨体が徐々に加速して行きますが、風切り音ひとつ聞こえないといいましょうか、正直気持ち悪いほどの静寂ですが、こんな空間で音楽が聴けたら、なかなかの臨場感を味わえそうです。

十分にパワフルだが力強さの表現が乱暴ではない

静寂をより際立たせているのがステアリングもブレーキタッチもウインカーの操作感もすべてがソフト。なにをやってもどこを触ってもふんわりした印象で統一されています。

そんなソフトな動きすら聞こえてきそうな静けさは、さすがVIPを招き入れるだけのクルマと言えるのです。実は走行中のこもり音を低減するという「アクティブノイズコントロール機能」が装備され、一役買っているのです。

これはノイズと逆相違の音を発生させ、気になることで、そのノイズを打ち消すという優れもの。こうして一切のストレスを出来る限り減らし、静寂さえもVIPが好き勝手に使って欲しいという思いやりが、全身に溢れているのです。

ハンドルを握っている自分もまったく飛ばす気分になどならず、本当にやんわりと、そしていつもフラットな感覚を楽しみながらスルスルッと走るのです。後輪駆動のおかげで、前輪の仕事は向きを変えるだけです。タイヤは力を伝える必要がないので仕事量が減った分だけ仕事量にゆとりが生まれます。これがステアリングの柔らかな感触に繋がるのだと改めて確認できました。

煽られても平気ですし、もちろんこっちも煽ってやろうなんて気になりません。どうぞ割り込んで下さい。どうぞ追い抜いていって下さい。こんな気分になれるので、短気な人の精神鍛錬にはいいかもしれません。

ドライバーズカーでもいける?

うっかりすると、あまりの快適さで、このまま試乗を終えそうになりましたが、センチュリーの本意ではないかも知れませんが、信号が青に変わったと同時にアクセルをグッと踏み込んでみました。

さぁここで最高出力381ps、最大トルク510Nmの5リッターV8と最高出力224ps、最大トルク300Nmの電動モーターの恐ろしいほどのハイブリッドパワーを見せてくれ! なんて思ったのですが確かにトルクは結構太くて、パワフルさを感じますがエンジンとモーターとのコンビネーションの味付けは、ハイブリッドを作り続けてきたトヨタらしく、実にスムーズ。力はあるのに乱暴ではないんです。

突然、ロケットのような加速をするわけではなく、一気に首が後方に持って行かれるような粗野な部分がないのですが、気が付くとそれなりの速度域に突入している。ブレーキのタッチも踏み込む力を強めるに従い、真綿で締めるようにギュギュギュ~と停まっていきます。「あれ、このクルマ、ドライバーズカーでもいいんじゃないの」、なんて思ってしまいました。

でもやっぱりこのクルマの本質はショーファーカーです。リアシートに座り、装備を少しチェックしてみました。まずは後席の乗員を覆い隠すようなレースのカーテンが何ともお淑やか。ブラックスモークなんかお下品ですわってところだ。もちろんすべて開閉は電動である。このクルマの主役が座るべき場所は左後席。つまり助手席の後ろだが、何にもしなくても足が組める。でもリアシート中央にあるアームレストにあるタッチパネルの液晶画面の中には各種の操作系統が集約されています。

前席の間には11.6インチのモニター

例えば助手席を前方にスライドさせ、ヘッドレストを格納し、オットマンを電動で取り出す、なんてことを後ろのお偉いさんは自在に操作できます。もちろん自分のシートをリクライニングすることも、マッサージ機能を使うことも簡単です。どこまで我が儘なヤツが座るんだ、とシートアレンジを見ただけでも思ってしまうのです。おまけに前席の間には11.6インチのモニターがドンと固定され、まさに走るオーディオルーム。ご主人のために徹底的に尽くす、それがセンチュリーの役割だと理解したところで運転席に戻ります。

ドライバーへの気遣いに驚く

足下もゆったりと広く、最高のくつろぎスペースとなる。

今更ながら多彩な調節機能による、ドライバーへの気遣いにも驚かされます。つまりドライバーが疲労するようでは、ご主人の安全にも影響する、と言うことで10箇所の調整ができるほど、きめ細かであります。そのシートを色々と動かし、自分にとっての快適なポジションを見つけたとき、テストカーにあったスペック表を発見。「お値段9,962,963円か……。あ、俺、ドライバーさんでいいや」と、ちょっぴり負け惜しみを口にしてみました。

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