横浜市内の中華料理店店主はこの数カ月翻弄(ほんろう)され続け憤っていた。
「結局は政府に振り回されている。小規模な店の現場のことなんか、ちっとも考えていないんだろう」
消費税が10%に引き上げられたが、一部が軽減税率の対象として8%に据え置かれている。例えば店舗内で食べる場合は「外食」に当たり消費税は10%だが、持ち帰りだと「食料品」に当たり8%となる。
店主のため息は深い。
「うちが仕入れる箸や料理酒、出前の際のパッケージは10%、食材は8%。品物で消費税率が混在している。これを全て分けて処理しなければいけない」
毎晩、40分ほどで済ませていたレジを締める作業に1時間以上かかるようになった。
◆値上げできず
仕入れ段階で10%かかるものがあるため商品の原価は高まった。しかしメニューの価格改定は見送ったという。「様子を見ようと思っていたが、10月に入って持ち帰りの客が1割ほど増えたんです。わずか2%だけど持ち帰った方が安いと考える人が少なくないということ。そんな状況で値上げなどできない」
藤沢市内で約10店舗の飲食店を経営する社長も苦言を隠さない。
「複雑な軽減税率に経理のシステムを合わせるために担当者は8、9月はかかりきりだった。10月1日から稼働させたが当初はうまく動かなかったりした」とその複雑さを指摘する。
◆ポイント還元
クレジットカードや電子マネーなどを使う「キャッシュレス」で支払うと、消費者側に最大5%がポイント還元される仕組みでも、右往左往させられた店舗は少なくない。
横浜市内の飲食店店主もその一人だ。
「既に約10社ほどのクレジットカードが使えるようにしているが、5%還元の対象にしようとすると、全て別々に申請が必要だと言われた。一括で処理するにはレジの入れ替えが必要だという。うちは2年前に改装し、消費税10%に対応したレジに入れ替えたばかりなんです」
電子マネー決済を10月1日から導入したが、手続きが間に合わず、ポイント還元の対象にならなかったという。
経済産業省によると、この還元制度の対象となり得る店舗は全国に約200万あるが、実際に導入できたのは10月11日時点で約52万店、11月1日時点で64万店にとどまっている。消費増税後の景気の落ち込みを抑える狙いだが来年6月末で終わるため、その効果は不透明だ。
こうした手続きを期日までに済ませられる余裕のあるところしか恩恵が受けられない可能性があり、中小と中堅で収益格差に拍車が掛かる恐れもある。
消費者の側も複雑さを理解した上で支払うことができるのか不明瞭だ。決済業者によって仕組みが異なり、5%ポイント還元がどのように還元されるのか、店舗側、消費者側の双方とも把握できていないケースもある。
さらに、例えばスーパーで買い物をする際、売り場には8%と10%の商品が混在しているため、どの商品にどのように課税されるのか消費者側が事前に細かく判別することは容易ではない。
神奈川県藤沢市内の飲食店経営者は苦慮を明かしながら、こう切り捨てた。
「増税の是非はさておき、どうせ上げるなら全て一律で10%にしてくれれば良かったのに…」
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消費税が10%に引き上げられ1カ月。複雑な軽減税率やポイント還元などの政策に対し、中小店舗が翻弄される実情が浮かび上がる。消費が冷え込む中での増税に、厳しい経営環境が一層浮き彫りとなっている。現場の声を聞いた。