日本時間の今夜、11日1:30から行われるプレミアリーグの大一番、リヴァプール対マンチェスター・シティ。
プレミアの1位2位直接対決はリーグの行方を占うにとどまらず、欧州、あるいは世界のサッカーにおける“最高点”の一戦として大きな注目を集めている。
この試合を日本で独占ライブ配信する『DAZN』は、試合に向けたプレビュー動画を配信中。ありがたいことにYouTube上でも無料公開されている。
両チームを徹底解説したのは、鋭い分析でサッカーファンから厚い信頼を寄せられている戸田和幸氏だ。
そこでQolyは、この動画の収録直後に戸田氏を直撃!
プレビューの内容をさらに深掘りしつつ、モチベーターとしてのクロップ監督や、少し前にリヴァプール移籍の噂が出た南野拓実などについて聞いたぞ。
(取材日:2019年11月7日)
「一番レベルが高いカード」
――いよいよ、リヴァプール対マンチェスター・シティです。この対戦は現在、「世界のトップ」と言って問題ないでしょうか?
今は間違いなくトップじゃないでしょうか。選手の質に監督。他のリーグのファンには怒られるかもしれませんが、一番レベルが高いカードだと思います。
――8月にコミュニティシールド(※1-1、PK戦5-4でシティが勝利)がありましたが、主要コンペティションでは今シーズン最初の対戦になります。昨シーズンの対戦時から比べて、そして今シーズンの戦いぶりを見て、両チームが進化した部分はそれぞれどこでしょうか?
リヴァプールはメンバーがガチっとハマりました。個々人のレベルが高いですし、プレビューの中でファビーニョの話をしましたが、彼のところでより重要性が増すようなパフォーマンスを見せている。オクスレイド=チェンバレンが戻ってきたこともプラス材料です。
逆に、サラーのところは爆発力はありますけど、相手からすると「そこから攻略していこうかな」という気持ちになるポイントでもあります。でも、リヴァプールは強いですよ。強い。
右センターバックは基本マティプだと思うんですが、そこがロヴレンに代わるとちょっと不安定になるかなという感じはあります。とはいえ、そこが“ウィーク”になるかというとそうではないですね。
シティで注目は「人選」
シティに関しては、中盤から前はすごく良いと思いますけど、今シーズンはボールを運ぶところのミスが見られます。
ノリッジ戦にウルヴス戦。先週末のサウサンプトン戦でもストーンズが一回マズイのをやっていました。しかも、それが今シーズンは結果につながってしまっている。ここまでの試合で勝点を逃してきている理由とも言えます。
あとは左サイドバックですね。ジンチェンコも怪我をしていますし。
両チームを見比べたとき、シティのほうは少し後ろが、不安とは言えないですけど不意に危ないミスが実際に出ていますね。
より正確性を求められるのはシティのほうだと思うので、アンフィールドが舞台になったとき、まずメンタル的にしっかりコントロールできるかが重要です。自分を律せないとゲームはコントロールできませんし、相手もコントロールできない。
昨シーズン向こうへ行ったときに、CL準々決勝のシティ対トッテナム戦、2試合とも見ました。特に0-1で敗れて迎えたホームでの第2戦はシティにとって、絶対に勝たなければいけなかった試合。全体のテンションが上がったとき、メンタル面はそれと反比例するように各自がコントロールしなければいけません。
冷静さをしっかり持ちながらプレーできるかどうか。それが特にシティにとって重要になるのですが、あの試合ではメンディとウォーカーがうまくできませんでした。どちらかというとフリーになりやすい場所なので、シティの場合はそういうポジションの選手の出来がやはり勝負を左右するんです。
注目したいのは、センターバックと中盤の人選です。僕は一応あんな感じで置きましたけど(※中盤はリヴァプールが右ヘンダーソンと左ワイナルダムで底にファビーニョ。シティがトップ下デ・ブライネの後ろにギュンドアンとベルナルド・シウヴァ)、やはりバランスが大事になると思います。
なにせ、明確な弱みを作るわけにいきません。メンディは1-1に終わった今週のCLアタランタ戦を見ても、クロス対応など守備が良くない。リヴァプールはクロスが多いチームなので余計にそういうところが気になりました。アンヘリーニョもさすがにまだこの試合は使えないんじゃないでしょうか。
ただ、必ず誰かが左に入ります。となると、オタメンディ左はないでしょうし、ストーンズもない。ウォーカーの左はあるけど、そうしたら今度は右がいなくなる。あまり動かしすぎると慣れない場所でプレーする選手も増えてしまいます。
机の上ではこれでいけると思っても選手の気持ちを考えると多分ダメですから、僕はあれ(※DF右からウォーカー、ストーンズ、オタメンディ、そしてフェルナンジーニョ)にしました。
グアルディオラ監督の“変化”
――左サイドバック、フェルナンジーニョ!
当たればいいな、と思います(笑)。今の左サイドバックの起用を見ていると、順番的にはアンヘリーニョなんですよ。でも、この試合で彼はないだろうなと。シーズンを左右しますから。そこで、一番信頼できる選手、フェルナンジーニョです。
誰を使っても「得るもの」と「失うもの」があると思いますけど、メンディだと両方失う可能性があります。守備に加えて攻撃もダメなことがありえる。アンヘリーニョも、守備はちょっと分からない。
フェルナンジーニョなら何ができるかはもうよく分かっていますから、やってほしいことだけ伝えれば無理に攻撃参加はしないでしょう。たとえばサラーの周辺でボールを失わないでつなぐとか、スターリングまで預けるとか。
今回の試合に向けて昨年10月の0-0の試合をもう一度見ましたが、グアルディオラ監督はやはりバランスにものすごく気を使っていました。中盤の2枚は基本的に出ませんし、ハイプレスもあまり仕かけませんでした。ボールを持たせて、出させてから自分たちが出ていく感じでした。
――プレビューの中でも、3連敗したあとの対戦からシティのボール保持率が明らかに下がったことが触れられていました。
3連敗の試合を改めてすべて見ましたが、「何をやっても勝てないな」とグアルディオラ監督が感じたんだと思います。ボール保持でもダメ、3バックでもダメ。
だからもうスタンスを変えて、中盤を2枚にした昨年10月の対戦では0-0に持ち込みました。今年1月のエティハドの試合(※2-1でシティが勝利)は基本的に4-3-3で入りましたけど、守備の意識は高かったですし、シティ側はやはりそれくらいしっかりした気持ちで臨まないといけませんね。
ボールを持つことに意識が行きすぎないようにしたことで負けないようになりました。カウンターのチャンスも増えています。
リヴァプールの中でも“持たせていい選手”にボールを持たせて、この試合ならおそらくロヴレンになりますが、うまくそこから引っかけてカウンターできれば面白いですよね。ファンダイクのほうからあまり遠くには出させたくないです。
アレクサンダー=アーノルドもDFの背後に落とすボールが得意ですが彼のところは多分スターリングが狙うでしょう。中盤に落ちてくるフィルミーノは基本的につかまえられないと思うので、「そこにボールが出ないようにすればいい」というスタンスで来る気がします。
どちらのチームにとっても「ここにボールを持たせればいい」という場所があると思います。トップレベルでもその中には多少の“ウィーク”は出てきますから。
リヴァプールから見ればおそらくシティの2センターバック。フェルナンジーニョがここに入った場合は彼のほうを少し消すなど対応するはずです。
クロップvsグアルディオラ
――映像とともに紹介されていた“出し手”としてのファビーニョの話は興味深かったです。元々持っていた能力ではないか、と。
モナコで見始めた頃、彼とバカヨコが中盤で組んでいたのですが、あのようなテクニカルなパスはあまり印象に残っていません。リヴァプールへ来てからもそんな感じはなかったんですけどね。
でも、あれができるということは元々できたんじゃないかなと。急にできるようになるとは思いません。
――チームでの“立ち位置”が分かってきたから、出せるようになったと。
そうですね。真ん中で一人でバランスを取るのはやはり難しいですから。ファビーニョが入るまではヘンダーソンがここをやっていました。ただ、ヘンダーソンは絶対に右のほうが良いです。
今回の試合でシティは、アグエロとデ・ブライネを縦にしてロヴレンのほうに出させてから行くということをやるかもしれないですね。ファビーニョのように“出し手”になることができる選手が増えてくると、相手の守備も変わります。
――クロップ監督とグアルディオラ監督はドイツ時代から何度も対戦してきました。どちらにとっても「意識する相手」といった感じなのでしょうか?
リスペクトや意識はしているでしょうね。
僕は、グアルディオラ監督のほうが本当にスタンスを変えたと思いました。守備の意識をしっかり持って、カウンターを狙う。リヴァプールもボールを持たされると少しうまくいかない試合があるんです。
とはいえ、シティは3ラインはコンパクトにしますが、他のチームのように下がってスペースを消すことはさすがにしないと思います。格上vs格下だと、格下は普段やらないこともやりますよね。先週リヴァプールと対戦したアストン・ヴィラもそうでした。
大きなクラブ同士の試合は基本的に、お互いが自分たちをしっかり持ちながらプレーするのでそれはないんですよ。ただ、正面からぶつかったとき、自分たちが優位に立てるように何かするはずなのでそこのせめぎ合いになると思います。
自分たちの持っているもので、少しバランスを変えたりしながら勝利を目指す。そこは監督の領域になりますから、誰を選ぶか、どこに置くかというのは大事です。
クロップ監督は「伴走者」
――戸田さんは、モチベーターとしてのクロップ監督をどう見ていますか?
選手との距離がすごく近いですね。人と人との付き合いで、立場の違いを感じさせないというか、「伴走者」という感じです。
彼のような指導者は“上”ではなく、“前”とか“後ろ”とか“横”なんですよね。時に前に立って行くし、時に後ろから押すし、時には横から励ます。そういった感じが選手にとってはやる気につながるんじゃないでしょうか。
そういえば、リヴァプールは最近ボール保持の時間が長くなり、後ろからしっかりつないでいくことが以前よりもできるようになったので、「シティに似てきている」という言い方ができますね。ボールを出せる選手、ミスをしない選手がいて、いわゆる遅攻もしっかりやるようになってきている。
遅攻がすぎると本来の良さが出なくなる気がしているので、プレビューの中では長いボールを使ってもいいんじゃないかと言ったんですけど、両チームが似てきている気はします。
唯一違うのは、中盤のキャラクターですね。よりテクニックがあるシティと、走ることがベースになっているリヴァプール。その分、起点になる場所が違っていて、リヴァプールのほうがより後ろや外になります。
情報がこれだけオープンになって、戦術面での様々な特徴が見えるようになり、自分たちにも取り入れやすくなっています。常に運動量ベースだとやはり1シーズン持ちませんし、我々が少し前まで抱いていた姿をリヴァプールが見せる場面はシーズン中、今はそんなにありません。
ただ、この試合ではそうした彼ら「本来の姿」が見られるはずです。フィルミーノとマネはミッドウィークのCLで休ませました。変な言い方をすればサラーより彼らのほうがチームにとって重要なんです。攻守における4局面すべてで仕事をしてくれる。
そういう意味では、シティのほうがCLのアタランタ戦、後半相手が守備を改善して最終的には大変なことになりました(※GK2人が負傷と退場でいなくなり、終盤ウォーカーがまさかのGKに…)。
休みが1日少ない。しかもアウェイ連戦ということを考えると、シティはちょっと不利かもしれないですね。日程の違いや前戦の内容が出る試合になる可能性があります。
――アタランタ戦で途中交代したエデルソンが回復せずGKがブラボになった場合、シティのチームとしてのプランも変わることになりますか?
ブラボのほうが守備は良いと思いますけど、出てくるボールの質は変わります。ブラボは一番奥までは出せないので相手の守備も狙いは付けやすくなります。
エデルソンだと一蹴りで一番深いところまで持っていってしまうので、相手はなかなか出られません。だから手前とか外が空くんですけど、あそこまで蹴ることができる選手はいないのでそれだけでだいぶ変わります。
南野がリヴァプールへ加入したら?
――リヴァプールと言えば、日本代表の南野拓実の移籍が少し噂に上ったことがあります。もし仮に彼が加入した場合、試合に出られるでしょうか?
今のシステムであれば、出られる場所はないのではないでしょうか。前はないですよね。
――はい。かといって、その後ろ(中盤)にあるかというと…。
そうだと思います。それだけのチームです。強い。
――戸田さんは現役時代、アンフィールドでのプレーは?
ないですね。リヴァプール戦はありましたが、僕はベンチで見ていました、オーウェンとジェラードを。
――当時と今のリヴァプールを比べるとどうですか?
当時はカウンターベースでしたよね。あと、選手の質はやはり今のほうが高いですから。今は強いですよ、本当に。
リヴァプールはこの試合に勝つと、シティとの勝点差が9になる。3試合分なのでシティからすると「もう終わった」という感覚になりかねません。だからリヴァプールは、全力で行くんじゃないですか。すごい勢いで襲いかかると思います。
――最後に、この試合でカギを握りそうな選手、あるいは“場所”を教えてください!
1人は、選べないですね…。シティであれば人選とそのバランス。サイドバックを誰にするのか。中盤は2枚なのか1枚なのか。あとはゲームの運び方でしょうね。
リヴァプールはインサイドハーフと、サラーの出来ですね。僕は彼が相手選手を背負って待っているのはあまり良いと思いません。相手にとって嫌な場面を作るときもあるんですが、そこで背負っちゃうと…と感じるときもあります。
クロップ監督がそこはあまり手を付けていない感じなんですが、裏まで走ってくれたほうがいいんじゃないかなと。この試合でも注目して見てみたいと思います。
――ありがとうございました!
サッカーファンなら見逃してはいけない大注目の一戦、リヴァプール対マンチェスター・シティは、日本時間の11日(月)1:30キックオフ!