ジェームス藤木は日本のJBだった?「ダンス・エクスプロージョン」の衝撃 1988年 10月25日 ジェームス藤木&ザ・デュークスのライヴアルバム「ダンス・エクスプロージョン」がリリースされた日

大瀧詠一や山下達郎に匹敵する音楽マニア、ジェームス藤木

2019年9月に刊行された『ジェームス藤木 自伝』(シンコーミュージック)を、クールスのベーシストにして本書の企画人でもある大久保喜市氏より賜った。

この本の面白さは破格だ。在日米軍の父と、立川基地で電話交換手をやっていた母とのあいだに生まれた亀田ジェームス(のち芸名のジェームス藤木)は、一般的には “日米ハーフの粋なロックンローラー” というパブリックイメージだけれど、幼少期は “敵軍の落とし種” のような扱いを受けて差別も受けたというから、人知れぬ悲しみや苦しみもあったようだ。

そうした(当時としては)特殊な混血児的視点から眺める世界なので、やはり自伝で描かれる “街” は東京でありながら、ニューオリンズのように活気づいて見える。暴走族、ミュージシャン、ファッショニスタ、ダンサー、遊び人たちが入り乱れ、独自の文化が形成されていく躍動感に満ちている。個人的には、クールス結成以前、職を異様なまでに転々としつつ世慣れしていくジェームス藤木に、アイリッシュ系の血のたくましさを感じられたのが興味深かった(ロックンローラーがカレーの移動販売をやろうとしていたなんて!)。

しかし音楽に関する記述がいちばんタメになる。本書にインタヴューのかたちで挿入されている近田春夫の発言によれば、「ジェームスは、評論家的に音楽に詳しいんですよ。外見からはとてもそうは見えないけれど、大瀧詠一とか山下達郎に匹敵するぐらいに、フィフティーズやシックスティーズの音楽マニアなんですよ」(82頁)。

実際にそれを裏付けるような記述がみられる。「いろんなバンドに関して、ビートルズからの影響はよく指摘されるけど、デイヴ・クラーク・ファイヴからの影響というのは意外なほど見落とされている。俺たちの世代にあのバンドが与えたヒントは測り知れないのにさ。なぜか、彼らの価値は不当に軽視されていると思うんだ」(49頁)。

ささやかなコメントであるようで、これなど「ビートルズ神話」を脱臼させる日本ロック史への重要な証言だろう。キャロルの矢沢永吉もデイヴ・クラーク・ファイヴにオマージュを捧げるほどとのことで、僕は急いで聴いた(めちゃくちゃかっこよかった)。他にもインストギターのパイオニアでサーフロックの先駆者とも見なされるデュアン・エディ、オーティス・レディングの「ドック・オブ・ザ・ベイ」の作曲者スティーヴ・クロッパーなど、ジェームス藤木が影響を受けたというミュージシャンは(僕の目から見て)マニアックなものが多い。

ジェームス藤木が熱狂的にイカれていたジェームス・ブラウン!

そうした幅広い音楽的知見をもったジェームス藤木なのだが、ストレートなロックンロールを奏でるクールスに所属することで、その多様性は見えづらいものになってしまったようだ。「クールスのメンバーとして、ロックンロールというスタイルだけに縛られてきたのは―― それはそれで楽しいのかもしれないけど――、ちょっと不幸だったんじゃないかと思うんです」(82頁)と近田は語っている。

その意味で、ジェームス藤木&ザ・デュークスの二枚組ライヴアルバム『ダンス・エクスプロージョン』を大々的に紹介したくなった。ソウルと R&B の名曲のカバー演奏を88年に渋谷ライヴ・インでやった際の録音で、クールスのロックンロールなイメージとはだいぶかけ離れているので驚く。「ソウル・パワー」、「アイ・ガット・ザ・フィーリング」、「セックスマシーン」といったジェームス・ブラウンのクラシック曲では嫌でもこちらの体が反応してしまう。

クールスは、ジェームス・ディーンのインタヴューに添えられた「Everything he said was cool」という文句(および『ウエスト・サイド物語』中の「クール」という楽曲)から命名されたバンドであるが、実はその中心人物はジェームス・“ブラウン” の方に熱狂的にイカれていたのだ!自伝によると、新宿紀伊國屋書店ビルにあった中川三郎ディスコティックで、JB の「アイ・ガット・ザ・フィーリング」を初めて聴き、衝撃を受けたのだという。

ジェームス藤木の “底知れぬ音楽力” を知るためのアルバムとは?

その衝撃は時を経て消え失せるどころか、むしろより濃縮されたかたちで音盤に刻まれている。ジェームス藤木がダンス&ボーカルに徹するために集められたバンドメンバーも凄腕揃いだ。有名なジャズドラマーのジョージ川口の息子である川口雷二がドラム、ベースは近藤洋司。ちなみにこのリズム隊は「真夜中のドア~Stay With Me~」で知られる松原みきのバックバンドだったらしい。そして近田春夫のビブラトーンズに加入する野毛ゆきお(のちNOGERA)がパーカッション、秋吉敏子のビッグバンドにいたジャズマン竹村茂がテナーサックスなどなど、総勢16名におよぶ大所帯バンドである。

全員がタキシードに身を包み、ハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツの「イフ・ユー・ドント・ノウ・ミー・バイ・ナウ」、アヴェレージ・ホワイト・バンドの「ピック・アップ・ザ・ピーシズ」を奏でるこのバンドの生演奏をぜひ聴いてみたかったが、僕はこの年に産声をあげているのだから仕様がない。個人的には一枚目の「アウト・オブ・サイト」~「ターン・ミー・ルーズ・アイム・ドクター・フィールグッド」~「スーパー・バッド」のタイトでソリッドな演奏の JB 三連発の流れがたまらない(JB というよりエレクトリック・マイルスのライヴ音源を聴く興奮に近い)。

ちなみに、東京スカパラダイスオーケストラの面々もジェームス藤木&ザ・デュークスのライヴには足を運んでいたというから、後続にも少なからず影響はあったようだ。高護がソリッドから発売した『ダンス・エクスプロージョン』は、今ではウルトラ・ヴァイヴから CD で再発されているので是非聴いてみてほしい。ジェームス藤木、とにかく底知れない。

カタリベ: 後藤護

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