浜崎博嗣(アニメーション監督)- 「無限の住人-IMMORTAL-」無駄を省き感じて考える作品

ミックスされることで面白いものになるんじゃないか

――WEBインタビュー動画では、「来るものが来てしまった」とのことですが。

浜崎:昔から私に合う作品だと言われていました。私も連載当時から読んでいて、なんともニューウェーブな時代劇ということで楽しんでいました。

――好きな作品を監督されることにプレッシャーはありますか。

浜崎:緊張感というのは特にないですね。

――19年連載された大作。深見(真)さんとはどのようにシリーズ構成をされているのですか。

浜崎:30巻という長い作品を脚本にしていくのは大変でした。基本的にはシンプルな軸を決めてそっていく方法にしました。シンプルな軸というのは(浅野)凜の行動についていくということです。

――沙村(広明)さんのWEB動画インタビューで、今回は自ら監督とすり合わせされたとおっしゃられていましたが、その点について伺えますか。

浜崎:食事の席でお話しをさせていただいた際に、趣味の映画などについて話しました、物語のすり合わせというよりは意識の確認をさせていただいた形です。特に梶芽衣子さん映画『さそり』などの話題で盛り上がりました。原作からもその時代あたりの日本映画や70年代のアクション映画が持つ外連味を感じるので、そういうのを見つけると安心しますね。

――そういった共通言語がないと難しいですよね。

浜崎:そうですね。原作を再現しようと躍起になりすぎると逆に原作から遠ざかると思うんです。

――そのままでということであれば原作を読めばいいとなってしまいますからね。

浜崎:印象はなるべく近いものになればいいなと思っていますが、同じものにするのは表現方法が違うので不可能ですから。私の世界観と沙村さんの世界観がミックスされることで面白いものになるんじゃないか、ということで依頼が来たと思っています。

――第1話などは本当にその通りで、まるで映画のようで贅沢なフィルムでした。アニメーションになったからこその魅力の表現をされていて素晴らしかったです。本当に美しくて、先ほどお話しもされていた70年代の映画を見ているようでした。

浜崎:ありがとうございます。あの頃の映画はギラギラした生命感あふれるものが多くて元気がいい時代だったと思っています。

――そうですね。文化としてもまだ若い時代で。今は観客の声を聴きすぎてしまう作品もありますから。

浜崎:そこも大事ですけど。やはりバランスも。

人間らしさを見て欲しい

――今回は年齢制限もありますが表現で意識された部分はありますか。

浜崎:そこで意識が変わるということはないです、すでに製作委員会のお墨付きでしたから。私は、『無限の住人』は残酷美・耽美な世界だと思っています。最大限美しく見せるように心がけています。

――わかります。苦手な人がいるジャンルではありますが、沙村さんの作品はどれも綺麗です。

浜崎:その通りです。沙村さんは凄くまっすぐだと思います。作品を読むことで読者それぞれ自分の感情を解き放ってくれているような、エロティシズムや残酷美はそういう側面があると思います。そこはもちろん気を配るべきことですけど、萎縮するのはまた違いますから。

――そこでブレーキがかかると、今回の映像化をやる意味がないですよね。特に万次は毎回ボロボロになるので。最後まで成長しないというのもあまり見ないキャラクターですよね。

浜崎:そうですね。読み返して思ったのですが、どのキャラも人間の弱さを表現されていて、特に万次や凜はそこを凝縮しています。原作で最後の凜の慟哭がもっとも象徴的ですよね。以前、読んだ以上に感じました。

――基本的に全キャラ破滅に向かっていきますから。

浜崎:あらがうキャラばかりですよね。保守的なキャラはいない。

――時代としても戦国が終わり、平和に向かっている中なのでかなり時代錯誤ですね。

浜崎:時代劇であっても“武士道”をテーマとした作品でないことは確かです。業が深いキャラばかりで、人間らしく死ぬし、人間らしく殺す。人間らしさを見て欲しいと思います。

――だからこそ感情移入してしまいます。物語の流れからも破滅に向かっていることを感じますから。

浜崎:人間は死んでしまうからこそ成長する、一番の悲劇は”死なないこと”ということなんでしょうね。

――そういう意味で、万次は不死だから成長しないのでしょうね。

浜崎:私が不死の命を授かったら悶々と日々を過ごしますよ。

――精神的に発狂しないだけ強いですね。実際に凜と出会うまでは堕落した生活でしたから。浜崎さんは本当に原作を読み込まれていますね。

浜崎:今、話したことは読まれた方はみなさん感じられていることだと思います。この作品は過去にもアニメ化され、舞台・映画と色々な形で世に出ていて歌舞伎に近いですね(笑)。

――それだけ求められている作品ということです。

浜崎:『無限の住人』は世界観を楽しむ作品でもあるからだと思います。物語は凜が万次と出会って復讐を成し遂げるという、シンプルでまっすぐ王道ですから。なので、デティールのこだわりが原作の魅力でもあります。アニメの見せ方ではどこかでシフトチェンジをしないと無理だなと思っています。

感情の温度優先で感じてもらえるように

――そこは制作スタッフもそうですが、役者のみなさんの演技にもかかってくる部分ですね。

浜崎:その通りです。

――万次役の津田(健次郎)さんは、「凄いエネルギーを使う」とおっしゃられていました。

浜崎:それはそうだと思います。

――凜役の佐倉さんは、「選ばれるとは思っていなかった」とおっしゃられていました。

浜崎:そうですか。実は最初から頭にありました。二人に関しては迷わなかったです。二人に合わせて周りのキャストを決めていった形です。

――通常のアニメに比べてお芝居がシリアスで、私たちの日常に近い感情表現になっていると感じました。

浜崎:基本的にアニメの芝居、記号的なことをなるべく避けてほしいとお願いしました。アニメーションではありますが作り物にしたくなかったんです。作中で悲しいことが起きてそれを悲しいと思うのは実は客観的なことで、本人がどう思ったかが重要でそこに実在感が出るんじゃないかと考えています。今回は音響監督の清水(洋史)さんに大変助けていただいています。

――それを体現できる役者のみなさんも凄いですね。

浜崎:そこは役者の力とともに今までの経験と感受性で、鍛えて出来ることとはまた違うものもありますね。

――確かに滲み出るものがあります。音に関して言うと音楽とのバランスも素晴らしいなと感じました。

浜崎:どういった作品かを伝えるために第1幕は特に全体がPV的な作りを目指したので、そう感じていただけたのかもしれませんね。物語を感覚で見て、想像して、考えて欲しいという気持ちを込めて作りました。なので、余計な説明を省いて、キャラクターの感情の温度優先で感じてもらえるようにしました。

――だから同じ世界にいる感覚になり、没入することができるのですね。

浜崎:せっかくの映像だから面白いところを見せたいなと。音楽面では石橋(英子)さんが素敵なムードを出して画に音の色気をつけてくださっていますしね。

――感覚を大事にして作られていますがどのように共有しているのですか。

浜崎:まずは、打ち合わせで話せるだけ話しまくるしかないです。それでも違ってくるのは当然なので、難しいです。

――見てきた作品や共通言語で受け方が変わりますからね。

浜崎:そこは近い経験があるかどうかで変わるので難しいですね。だから仕事量が減らないのかもしれないです(笑)。ただ、「あまり説明っぽくしないで」というところは伝えています。行動の感情が前に出てくればベストだと思っているので。そこに余計なセリフやカットでにごらなければO.K.なのですが、一部の方には説明不足で不親切かな。

これからどこに行くかが楽しみ

――第二幕の箕輪(豊)さんや第五幕の川尻(善昭)さんなど、過去にご一緒された方が入られているのは共通言語があるからですか。

浜崎:この作品にぴったりのエキスパートの方たちです。キャラクターデザインの小木曽(伸吾)さんも『無限の住人』の大ファンで、彼とは一度がっつりと仕事をしたいなと思っていたので監督を受けたという面もあります。

――小木曽さんのキャラクターデザインは沙村さんのもつ耽美な絵を表現されていて素晴らしいです。

浜崎:ライデンフィルムの現場も頑張っています。アニメーターは役者でもあるので、絵が描けるだけでなく、多方面に審美眼を持ってないと務まらないです。これからの若いアニメーター・演出家にはその点も意識して大きく育ってほしいと思っています。

――そうやって先輩に引っ張ってもらえるといいですね。

浜崎:同時に彼らに私も引っ張ってもらっています。それがあるからこそ監督の仕事を全う出来るわけで。基本的なルールは作りますけど、実際に制作しているのは私以外の大勢のスタッフですから、僕の作品ではないですよ。

――その考え方は目から鱗が落ちます。

浜崎:それは現場に期待をかけているという意味でもあります。やはり現場に期待をかけないと作品は作れないですから。それぞれのスペシャリストと一体感が生まれる現場というのが健康的な現場ですかね。私の仕事は線路の上に列車をのせるまでなので、これからどこに行くかが楽しみでもあります。それが面白い仕事のやり方だと思っています。

――素晴らしいです。

浜崎:ファンの多い作品なので、みなさんそれぞれのイメージはあると思います。そういう意味では緊張感は持ちつつ、でも緊張しているだけでは固苦しいものになってしまうので、現場で即興的なアイデアを取り入れ、 “アニメーション作品として自由に”を意識しています。そこは現場力しだいですね。そして一緒に作った人たちをリスペクト出来る瞬間を見つけるのが喜びです。

――その思いはフィルムからも伝わってきています。これから先の配信が楽しみです。

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