「壁崩壊」30年

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 30年前の今時分、ニュース画面に暗い空が映っていたのだろうか。長崎の歌人、故竹山広さんが詠んでいる。〈ベルリンの曇りてくらき空映る一塊の壁吊(つ)り上げられて〉。どこからともなくハンマー、つるはしを手にした人々や重機が集まったという。壁は崩され「一塊」となった▲曇天がにわかに晴れ渡るような急展開だったのを覚えている。1989年11月9日、東ドイツ当局が検問所を開放し、往来を自由にしたことで、東西ドイツを分断していた壁は“崩壊”した▲冷戦時代、東ドイツ政府は国民が西側へ逃亡するのを封じようと、長さ155キロにわたる壁を築いた。それでも人々はトンネルを掘ったりして命懸けで逃げた。または逃げようとして捕らえられた。何人もが撃たれ、命を落とした▲そうやって28年間そびえた壁は、そびえる意味をやがて失う。急速な民主化のうねりは止めどなく、当局は抑え込めなくなった▲壁が砕かれ、人々が涙して抱き合う映像を「歴史的な転換点」と感じ、胸を打たれた方も多いだろう。30年たって、世界はどうか▲超大国のトップは自ら国民を分断し、「敵」をののしる。米中対決は新たな冷戦ともいわれる…と「壁」を挙げれば切りがない。今また「曇りてくらき空」に覆われた民主主義の行方はどうかと、目を凝らす。(徹)