【コラム】安倍首相のツキは続くか

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先の通常国会が閉会となったのは夏が始まる前の6月26日で、その後、10月4日までの3カ月以上にわたって国会は休止状態となった。8月初旬に臨時国会が開かれたが、会期はわずか5日間、参院選後の院の構成が決められただけである。さらに、安倍晋三首相が出席しての予算委員会は、4月以降、一度も開かれなかった。

野党は当初、公的年金の財政検証や日米貿易協定、消費増税といった政策課題のみならず、厚労政務官(当時)の口利き疑惑や関西電力の金品受領、「あいちトリエンナーレ」への文化庁の補助金不交付などの問題につき、政権を厳しく追及しようと手ぐすねを引いて待っていた。「追及材料はてんこ盛りだ」(立憲民主党国対関係者)と息巻く者もいた。

のみならず、週刊誌報道によって菅原一秀経産相と河井克行法相が相次いで辞任に追い込まれたことで、野党は安倍首相の任命責任を取り上げ、ますます勢いづいた。そして大学入試に導入される英語の民間試験問題は、萩生田光一文科相の「身の丈」発言と相まって、野党への追い風をさらに強くした。

こうした状況は自民党にすさまじい危機感をもたらした。「閣僚がもう一人辞任したら、第1次政権の二の舞になりかねない」(中堅議員)といった声が聞かれたし、「幹事長は早々に安倍4選をぶち上げたが、このままでは来年の東京オリパラが首相の“花道”になるかもしれない」(ベテラン秘書)といった悲観論もあった。

そして野党にとり、政権追及の“ひのき舞台”は、まさに先週の衆参両院の予算委員会における集中審議のはずであった。しかし、決定打がなかったどころか、ものの見事に不発に終わった印象を持った国民は多い。少なからぬマスコミも、野党の質問や追及に軍配を上げるのではなく、安倍首相の不規則発言=ヤジばかりに非を鳴らした。

野党の質問方法に課題があるのは、いつものことである。より周到かつ連携した追及を行えば、それなりに存在感を示すことができたかもしれないが、今回もあまりにも場当たり的であった。だが、国民が野党に拍手を送らないどころか、そもそも追及内容に強い関心すら示さなかったのは、それらを越える国民的関心事があったことが大きい。

菅原経産相が辞表を提出したのは、即位礼の余韻がまだまだ残るときであったし、ラグビーワールドカップの真っ最中でもあった。また、大臣辞任の前日には、東京五輪におけるマラソン・競歩競技の開催地変更の臨時ニュースも飛び込んできた。それらに加え、マスコミは台風19号がもたらした甚大な被害を連日、伝え続けた。そのためか、辞任直後に行われた共同通信社の世論調査では、内閣支持率は減るどころか1%増の54%となった。

10月31日に辞任した河井法相についてもしかりである。翌日のニュースは当然、これがトップで報じられるはずであったが、実際は沖縄の首里城が炎上し、法相辞任に割かれたニュースの時間と新聞紙面は相対的に小さくなった。本来は大きく扱われるべき政権の汚点が、他の出来事によってかき消されたといえる。

もとよりこうした国民的関心事は、首相官邸が画策したことではないが、結果的に政権への逆風を著しく和らげていることは否めない。その意味では、表現は不適切かもしれないが、安倍首相にはツキがあった。しかし、「安倍首相にまだツキがあるかどうかは今月の内閣支持率が目安になる」(閣僚経験者)との見方には、大きくうなずける。

【筆者略歴】

本田雅俊(ほんだ・まさとし) 政治アナリスト。1967年富山県生まれ。内閣官房副長官秘書などを経て、慶大院修了(法学博士)。武蔵野女子大助教授、米ジョージタウン大客員准教授、政策研究大学院大准教授などを経て現職。主な著書に「総理の辞め方」「元総理の晩節」「現代日本の政治と行政」など。