小さな巣穴(すあな)の奥(おく)や深い海の中など、「人間が入り込(こ)めない世界で生きものはどんな行動をしているのだろう」と思ったことはありませんか? 生きものに小さなカメラや記録計(データロガー)を取り付け、行動の仕組みをひも解(と)く「バイオロギング」研究が、世界中で進んでいます。長崎大環(かん)東シナ海環境資源(かんきょうしげん)研究センター(長崎市多以良(たいら)町)でマンボウなどの研究をしている、助教の中村乙水(なかむらいつみ)さん(33)に話を聞きました。
■バイオロギングを知ろう
バイオロギングという言葉は「生きもの」という意味のバイオと「記録する」という意味のロギングを組み合わせた日本生まれの造語(ぞうご)。今では世界中で使われています。研究は1960年代以降(いこう)に日本とアメリカでほぼ同時期に始まり、90年代からデジタル化によって盛(さか)んになりました。
私(わたし)は10年前からバイオロギングでマンボウを研究していて、ほかにサメや伊勢(いせ)エビ、ブリ、コバンザメなども調査(ちょうさ)しています。
調査に使うのは、記録計とライト付きビデオカメラ、回収(かいしゅう)用の切り離(はな)し装置(そうち)と発信機。これらを水圧(すいあつ)でつぶれないように樹脂(じゅし)などで作ったケースのような「浮力体(ふりょくたい)」に入れると、重さは200~300グラムになります。ちなみに、この装置は何度も再利用(さいりよう)することができます。
マンボウの調査で使ったのは三つの記録計。海の深さや水温のほか、マンボウの体温や泳ぐスピード、体の向きと傾(かたむ)きを前後、左右、上下の3方向で計測(けいそく)し「マンボウがいつどこで、どのように動いていたのか」を記録しました。
■どうやって調査?
(1)調査するマンボウのとがった背中(せなか)にカメラや記録計を取り付けて海に放流する
(2)数日間、マンボウに行動を記録してもらう
(3)マンボウの体から記録計が切り離(はな)され、海面に浮(う)かぶ
(4)船に乗り、発信機からの電波で記録計などを探(さが)し出し、海面に浮かぶオレンジ色の浮力体を見つけて回収(かいしゅう)
(5)データを分析(ぶんせき)する
■研究で分かったこと
海面近くを漂(ただよ)っているイメージのマンボウですが、データをグラフ化してみると、昼間は、水温が比較的(ひかくてき)高い海面近くと100メートルより深い冷たい海を行ったり来たりしていることが分かりました。
深く潜(もぐ)っている間に何をしているのか知るため、次の実験でカメラを付けてみると、餌(えさ)を食べている様子が映(うつ)っていました。しかも、群(む)れの長さが40メートル以上にもなるというマヨイアイオイクラゲやヨウラククラゲといった「クダクラゲ」の仲間を主に食べていることが初めて分かりました。
なぜ、またすぐに海面近くに上がってくるのか。ひょっとして、深い海で冷たくなった体を温めるため? 今度は体温計を付けてみたら、マンボウの体温は水温の影響(えいきょう)を受けて変化していることが分かりました。ぼーっとしているように見えるマンボウですが、周りの海水の温度を利用して、一生懸命(いっしょうけんめい)、体温を保(たも)とうとしているんです。
得られたデータをじっくり観察していると、法則(ほうそく)を見つけ出すことができます。もっと調査を重ね、いろんな魚に共通する法則を見つけたいと思っています。