練習相手はラグビー日本代表・流大の兄 元中日10勝右腕がトライアウト再挑戦

流大輔さん(左)と若松駿太【写真提供:若松駿太】

今季はBC栃木で13勝をマーク「10勝した時の真っすぐに戻ってきています」

 ルートインBCリーグで「シーズンMVP」に輝いた大谷世代の元10勝投手が、12日に大阪シティ信用金庫スタジアムで開かれる「プロ野球12球団合同トライアウト」に再挑戦する。2018年限りで中日を戦力外となり、今季は栃木ゴールデンブレーブスで13勝を挙げた若松駿太投手。独立リーグでの経験を心身の成長に変え、今度こそNPB返り咲きを果たす。

 生き生きした目が、充実ぶりを物語る。「いい意味で、疲れたシーズンでした」。BCリーグ1年目は先発として21試合で128イニングを投げ、13勝5敗、防御率2.53。勝ち星と投球回数はチーム最多で、初優勝に貢献した。四国アイランドリーグplus優勝の徳島インディゴソックスとの「日本独立リーグ・グランドチャンピオンシップ」でも敢闘賞を獲得。1軍登板ゼロで、2軍でもろくに登板機会が回ってこなかった昨年に比べれば、天と地ほどの差だった。

 中日時代はプロ3年目の15年に10勝を挙げ、決め球のチェンジアップは誰もが認める一級品だった。制球力、経験、マウンドさばきは、BCリーガーたちを相手に数字で証明した。NPBと比べて劣る環境面でも「施設は整っていますし、思ったより苦じゃなかった。4時間のバス移動がつらかったくらいですかね」と笑う。むしろ逆境の中で前のめりに過ごし、何より投げられるマウンドがあることが楽しかった。

 課題だった直球にも兆しが見えてきた。昨年のトライアウトでは130キロしか出ずに首をひねる関係者もいたが、今季は最速140キロを計測。実戦の中でフォームの微調整を繰り返し、本来の姿を体が思い出してきた。やはり、直球あってのチェンジアップ。「徐々にですが、10勝した時の真っすぐに戻ってきています」とうなずく。

「スピードもそうですが、ミットで受けていてボールの威力が去年までとは全然違います」。そう言って若松の自信を補強するのは、地元の福岡県久留米市に帰省した際に練習パートナーを務めてくれている流大輔さん。社会人や独立リーグでプレーした経験を持ち、現在は小中学生らを相手にした野球塾を開く。独立リーガーとなった若松の姿に「初心に戻って野球と真摯に向き合う強さができてきたと思います。心身ともに一回り成長したように感じます」と目を細める。

流大とも対面して会話、NPB復帰へ熱い思い吐露「せめて30歳までは野球がしたくて」

 そんな流さんはこの秋、家族が「時の人」となった。3歳下の弟は、ラグビーワールドカップ(W杯)で日本の8強入りに貢献したSHの流大。列島を熱狂させた桜戦士の奮闘ぶりを、兄である流さんも目に焼き付けた。「家族というより、1人のアスリートとして見ていました。何か野球に生かせることはないかなと」。166センチの小兵が屈強な選手たちに臆せず戦う姿勢に、土台となるフィジカル面の重要さを学んだ。

 W杯後に流が地元の久留米市に”凱旋”したタイミングで、ちょうど若松もトライアウトに向けた準備を兼ねて帰省。初対面して会話を交わす機会に恵まれた。「恐れ多くて」とあまり言葉を発することができずにいると、「NPBってやっぱり厳しい世界なの?」と質問された。流が地元民に囲まれてサイン攻めにあう光景を若松は目の当たりにしたといい、兄の流さんは「若松もドラゴンズではファンに囲まれたこともあったはず。あの光景を見て一層NPBに戻りたいと刺激を受けたのでは」と推し量る。

 この1年は無駄ではなかったと証明するべく、またあの独特な雰囲気に包まれたマウンドに向かう。若松は、はっきりと言う。「投げている球は、去年より確実に自信があります。後悔なくできるはずです」。たとえ声がかからなかったとしても、また栃木でプレーしながら可能性を探る。「せめて30歳までは野球がしたくて。だから、とことん、NPBを目指します」。まだ24歳。諦めるには早すぎる。(小西亮 / Ryo Konishi)

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