N国党が地方選挙に出続ける≒公費負担付きの全国遊説?選挙公営制度と供託金返還ラインについて解説(オフィス・シュンキ)

10月27日の参議院議員埼玉県選出議員補欠選挙(以下、参院埼玉補選)で、参議院議員を辞職して出馬した「NHKから国民を守る党」(以下「N国党」)の立花孝志代表は、16万8289票を獲得し13.6パーセントの得票率で落選しました。しかしその後も動画などで表明していた通り、11月10日に投開票が行われた神奈川県海老名市長選挙に立候補しました。「N国党」の立花代表は、海老名市長選後も、全国各地の首長選挙への立候補の意向を示しています。

立候補者に対しては「選挙公営制度」という一定の選挙費用の公費負担制度がある

選挙に立候補、と言葉は簡単なのですが、現実に選挙に出るにはお金がかかります。選挙期間前から、その選挙区で名前を覚えてもらうための活動がありますし、実際に選挙に入っても、公営掲示板に掲げる選挙ポスターや選挙運動用の自動車、事務所などかかる費用は多大なものがあります。そういった状況の中で「お金の掛からない選挙の実現。資産の大小にかかわらず、どなたでも立候補していただけるよう、という趣旨で行っています」(京都府選挙管理委員会)という選挙費用の公費負担、という制度があります。公職選挙法で定められている「選挙公営制度」としてあり、立候補者の機会均等や候補者間の選挙運動の機会均等を図る手段とされています。

参院埼玉補選で落選した後、一週間ほどで海老名市長選に立候補した立花氏は、この選挙の公費負担も最大限に活用しているといっていいと思われます。
ちなみに、今回の海老名市長選での7日間の公費負担の最大額を海老名市選挙管理委員会に問い合わせたところ、

1、ハイヤー(タクシー方式=運転手、燃料代込み):45万1500円
2、レンタカー:11万600円
3、ガソリン代:5万2920円
4、運転手:8万7500円
5、選挙ビラ(1枚が7.51円)×16000枚:12万160円
6、ポスター(公営掲示板用=179か所):40万4540円
7、選挙はがき 郵便局で選挙用はがきをもらう形式で、市長選は候補者1名あたり最大8000枚

とのこと。ちなみに、海老名市では選挙はがきは公費負担の中には含まないそうです。これらを合計すると、海老名市選挙管理委員会によれば海老名市長選挙での公費の最大負担額は97万6200円となるそうです。

海老名市長選後に「N国党」の立花氏および同党の候補者が立候補を予定しているとされる首長選の公費負担の最大限度額を見ていきましょう。こちらも各自治体の選挙管理委員会に問い合わせてみました。

市長選挙
・選挙はがきを公費負担に含めている奈良県桜井市では150万2411円
・同じく選挙はがきが公費の大阪府大東市では150万3724円

知事選挙
東京都は最大9万5000枚までの選挙はがき代を含めず(無料扱い)最大で463万6794円
【参考】現在知事選挙が行われている高知県は選挙はがき郵送代(最大3万7500万枚まで)も含めて555万8678円
(いずれも当該自治体の選挙管理委員会に問い合わせた結果)

「供託金」の返還ラインは?

また、選挙に立候補するには、供託金も必要となります。例えば、参議院議員選挙(選挙区)ですと300万円が供託金となります。今回、「N国党」の立花代表が立候補、あるいは立候補の意向を示している各地の首長選に関してみると、その選挙の有効得票総数に10パーセントを掛けた数字以上の得票があれば供託金は返還されます。都道府県知事選は300万円、政令指定都市の市長選は240万円、政令指定都市でない場合の市長選は100万円、が供託金となっています。ちなみに、10月の参院埼玉補選で13.6パーセントの得票率だった「N国党」の立花代表へも供託金は返還されています。

「N国党」の立花代表は自身のYouTubeチャンネルで、海老名市長選挙で自分の落選を予想した上、同時に行われる同市の市議選も合わせ、すべての候補の当落予想を行っていましたが、その中で投票率=「供託金返還ライン」についても触れています。

「ポイントは10パーセント超えるかどうか。5から15ぐらいと思っている」(立花氏)。結果的に、このYouTubeチャンネルも含め、立花氏自身と「N国党」の選挙を通じた宣伝となっている側面は否めません。一方で海老名市長選挙の場合、立花氏の立候補には、同時に行われている同市議会議員選挙のN国党候補の当選を狙う意図があったと発言しています。実際に10日に行われた市長選の投開票で立花氏は得票率5.51%(2990票)で落選し供託金返還ラインを超えませんでしたが、市議選に立候補したN国党の候補者は1403票を獲得し当選しました。
基本が従来の選挙と真逆と言っていい、当選を必ずしも目標としていないのが特徴とはいえ、「お金の掛からない選挙、誰にでも立候補していただけるように」が選挙の公費負担の趣旨である以上、趣旨と全く異なることをしているわけではないといえるのではないでしょうか。

選挙に立候補し続ける≒公費負担つきの「全国遊説」?

当落関係なく、選挙に出続けることの意味合いですが、選挙の公費負担以外にも、メディア露出の多さ、国政選挙の場合ですと、政見放送が行えること、それと支持者や有権者と生に現場で声を交わせ、「選挙」という話題でコミュニケーションが取れていくことなども挙げられます。今年7月の参院選の政見放送で、「N国党」の立花代表が「不倫 路上 カーセックス」を政見放送内で連呼し、公共の電波に乗ることで話題になったのは記憶に新しいものがあります。

これから来年度末までに行われる選挙は知事選だけでも、熊本県、東京都、鹿児島県、富山県があります。また、年明けの2月には政令市である京都市長選挙も控えています。国政政党としての「N国党」は、来年中の実施が有力視されている衆議院選挙に向けて代表の立花氏をはじめとした、「首長選挙立候補作戦」ともいえる、党を広く知ってもらう活動を通じて「選挙運動」を続けることが予想されます。
衆議院選挙で党所属の国会議員を5名以上当選させて、念願の「NHK日曜討論会」へ立花氏が出演できる日が来るのかも含め、結果を注視していくべきなのではないでしょうか。(オフィス・シュンキ)

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