女性社員はリーダーに向いている  資生堂の魚谷雅彦社長が語る「30%クラブジャパン」

30%クラブジャパンの会長に就任し、あいさつする資生堂の魚谷雅彦社長=資生堂提供

 政府は、2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にすることを目指している。女性活躍における先進企業として知られる資生堂の社長で、日本企業の役員に占める女性の割合向上を目指す活動「30%クラブジャパン」の会長である魚谷雅彦氏に、活動の意義や思いを聞いた。(聞き手、共同通信=宮川さおり)

―30%クラブとは。

 「英国発祥の活動で、日本は14カ国目です。現在、資生堂以外にも味の素や大和証券グループなど、名だたる企業のトップらがメンバーになっています。企業の意思決定機関である取締役会の女性比率を上げ、成長や競争力強化につなげようというものです」

―なぜ30%なのですか。

 「この数字には意味があります。ひとつの組織やチームがあるとき、30%程度、違った背景の人がいると、全体に影響があるということが、研究でも分かっています。女性や外国人といった少数派が10人中1人だと声を聞いてもらえないけれど、3人、4人だと影響を及ぼせるようになる。ただ、数字ありきではなく、そこに向けた努力や課題を浮かび上がらせること、時間をかけて次の世代をしっかり育てることが大切だと思っています」

―少数派の声が必要と考える理由は。

 「資生堂を例にして話します。資生堂というのは、銀座に本社を置く、昔からある日本の会社です。でも、会社に来ていただいたら分かると思いますが、世界各国から集まってきた社員が一緒に働いています。私なんかも、違う会社から来て社長をしている。多様性です。当社のようにお 客さんが世界各国にいると、世の中の変化、世界の変化をどう事業に生かしていくのか、どこに狙いを定めるのか、幅広い視点で見ていかなければならない。女性や外国、異なる文化の人が持つ素朴な疑問や意見は、新しいものを生み出す際に欠かせないと考えています」

―それはどんな組織でも同じですか。

 「ビジネスの世界以外でも同じことだと思います。例えば男性中心でやっていたそれまでのやり方に固執し、女性の視点や意見を無視して『このままでいい』とやっていたら、取り残されると思います」

―30%クラブは、なぜ会社ではなく個人がメンバーなのですか

 「『トップリーダーである私が率先して変わります』というメッセージを込めているからです。やはり、トップが変わらなきゃだめ。今、メンバーが40人以上いますが、どんどん増やしていきたい。対象は、東証1部の主要銘柄を組み込んだ株価指数「TOPIX100」に名を連ねる大手企業のトップです。もちろん、中小企業にも頑張って欲しいけれど、まずは大企業が変わることで日本全体を変える、そこに焦点を当てていこうと考えています。日本の企業も、これまで女性社員や女性管理職を増やそうとしてきた。それぞれ目標をたてて、様々なことをやってきているので、お互いに情報共有すれば、1社でやるよりはるかに効果があると思います。それに、みなさん名だたる企業のトップをされているわけだから、世の中が変わってきていて、そこに合わせて組織も変えていく必要があると分かっている。だけどやはり、壁はある。トップ同士が悩みを分かち合い、意見を交換してヒントを得る場にしたいとも思って います」

「30%クラブジャパン」の立ち上げイベントに他のメンバーと臨む資生堂の魚谷雅彦社長(中央)=資生堂提供

―日本特有の課題はありますか。

 「英米で30%を実現しようとしたら、他の企業で活躍する女性を中心にヘッドハントすればいい。けれど、欧米と比べて、働く人の流動性が低い日本では、内部の人を育てる必要がある。それには時間がかかるので、長期的な視点で考えないといけない。私が社内の『女性活躍支援プログラム女性リーダー育成塾』の塾長をして分かったのは、仕事の責任が増える時期と、子育てや家庭のことが大変になる時期が重なるということ。頑張って乗り越えてもらわないといけないわけですが、みんな疲れている。『これ以上頑張れてと言われても…』と。そういう人たちが前向きになれるような環境、悩みに寄り添えるプログラムを会社も提供していく必要があると思います」

―女性がリーダーに向かないと思っている人はいます。

 「リーダーシップと言うと、みなさん統率力や発言力といった男性的なイメージを抱きます。『自分には無理』と思ってしまう女性も多いようです。が、私は、リーダーに必要なのは他の人のいろんな意見を聞き取る力やコミュニケーション力だと思っています。これって、多くの女性が得意とすることじゃありませんか。私はこれまで資生堂だけでなく、多くの企業で素晴らしい女性の上司や、将来性を感じさせてくれる若い女性社員と出会ってきました。女性がリーダーに向かないというようなことは絶対にないと信じています」

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資生堂の魚谷社長

 うおたに・まさひこ 1954年生まれ。奈良県出身。現ライオン入社後、米国留学。日本コカ・コーラ会長を経て2014年から現職。

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