【レビュー】過酷すぎるシチュエーションの中、マッツ・ミケルセンが肉体と表情の限界に挑む『残された者-北の極地-』。

冒頭、雪山の地面の氷を削って「SOS」と書く男の姿が映し出される。慣れた手つきで魚を釣り、時計のアラームをセットし、不時着した飛行機で暮らす日常から、彼が遭難してから少なくとも数日は経ていることがわかる。

ある時現れた救助ヘリが墜落し、機内で瀕死の女性パイロットと出会うことで、淡々と絶望が深くなっていく日常が大きく変貌を遂げる。

自分の命を伸ばすためだけに食べ物を口にし、睡眠を取り、救難信号を探すというルーティンをこなしていた人間が、他者の出現により、積極的に「生」に執着し始めるのだ。

大きな魚が取れたら笑顔で雄叫びを上げ、生き生きとした表情を浮かべる。

おそらく彼が社会にいた頃に持っていたであろう責任感や思いやりといった感情が蘇り、猛吹雪の中、パイロットをソリに乗せて遠方にある基地に運ぼうとする。

監督はアヴィーチーの“You Make Me”のMVで知られ、今作が初の長編監督作品となるブラジル出身のジョー・ペナ。

孤独がもたらす闇の深さ、他者がもたらす光の強さを、必要最低限のものしか描かずに、本質のみを見事に伝えている。

主演はデンマークが誇る「北欧の至宝」マッツ・ミケルセン。『偽りなき者』をはじめ、数々の作品で苦悩そのものを表したかのような完璧な表情を見せつけ、また今年Netflixで配信された『ポーラー 狙われた暗殺者』では、驚くほどに肉体を酷使して凄腕の暗殺者を演じていたマッツ。

本作では、マイナス30度のアイスランドの雪山において、その伝統芸とも言えるシリアスな表情と、肉体の限界に挑んでいるのも大きな見どころだ。

 

『残された者-北の極地-』 あらすじ

飛行機事故で北極地帯に不時着したパイロット、オボァガードは、壊れた飛行機をその場しのぎのシェルターにし、白銀に包まれた荒野を毎日歩き回り、魚を釣り、救難信号を出すという自ら定めた日々のルーティーンをこなしながら、救助を待っていた。しかし、ようやく救助に来たヘリコプターは強風のために墜落し、女性パイロットは大怪我を追ってしまう。目の前の確実な「生」を獲得してきた男は、瀕死の女を前に、ついに自らの足で窮地を脱しようと決心する。

■監督・脚本 : ジョー・ペナ
■共同脚本  : ライアン・モリソン
■製作    : クリストファー・ルモール、ティム・ザジャロフ、ノア・C・ホイスナー
■出演    : マッツ・ミケルセン、マリア・テルマ・サルマドッティ
■配給    : キノフィルムズ/木下グループ
■宣伝    : ポイント・セット

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