フォークは「挟まない」―元燕の楽天・館山コーチが中日吉見に明かした“金言”

中日・吉見一起(左)と今シーズン限りで現役を引退した館山昌平氏【写真:若狭敬一】

ともにトミー・ジョン手術を受けた2人、館山が吉見に連絡「力になれたらと」

 10月20日。CBCテレビ「サンデードラゴンズ」の企画で中日ドラゴンズの吉見一起と今シーズン限りで現役を引退した元東京ヤクルトスワローズの館山昌平(東北楽天ゴールデンイーグルス2軍投手コーチ)の対談が実現した。編集したVTRを11月3日に放送したが、カットになった部分にもプロの極意、矜持、金言があった。ここにそれらを紹介する。

 まずは互いをどう見ていたのか。

館山「吉見君は強い中日の倒さなくてはいけないエース。一番高い山。彼を倒せばスイープもできるんじゃないかという存在でした」

吉見「僕も同じです。ヤクルトと言えば、館山さんと石川(雅規)さん。2人に勝たないとダメだった。特に館山さんを意識したのは2009年からです。オールスター明けの一発目で投げ合って負けて以来、この人に黒星をつけたいなと」

館山「当時、僕たちが思っていたことを思われているとは思っていました。辞めた今、答え合わせができて嬉しいです」

 年齢も球歴も違う2人に接点はなかったが、手術という共通点が距離を縮めた。

館山「僕が気になって連絡したのかもしれません。吉見君の右肘の状態は新聞でしか知らなかったので、実際はどうなんだろうと。ライバルですが、怪我はしてほしくないし、マウンドで正々堂々と戦いたかったので、力になれたらと思って連絡したはずです。どうだった?」

吉見「覚えてないですね。ただ、トミー・ジョン手術をした選手は少なかったので、僕も館山さんにすぐ連絡を取りたいとは思っていました」

 館山の引退に吉見は驚いた。

吉見「マジかと。外から見ていると、ボールはまだ全然行けると感じていました」

館山「2017、18と苦しんで、実は細かな感覚が鈍くなったんです。ただ、今年はそれを取り戻すことができて、2軍で100イニングを投げました。でも、1軍の戦力になれなかった。そこで自分の来年以降の上積みを考えると、後輩に託した方がヤクルトにとって良いと決断し、引退しました」

 時には相手を羨むこともあった。

館山「吉見君の左バッターに投げる外からのスライダーが欲しかった。ギリギリまで曲がらず、最後にタイトに入ってくるスライダー」

吉見「僕は館山さんの右バッターの外のフォーク。あそこだけイメージが沸かず、投げられないんです。他球団のキャッチャーはフォークの時にだいたい真ん中に構えますが、谷繁(元信)さんは両サイドを要求するんです。だから、『フォークは真ん中だけでお願いします』と伝えていました」

館山が吉見の技術を盗んでいた!? 「右足の使い方と体重移動です」

 ここからディープな技術論が展開される。

吉見「館山さんはどうやってフォークを左右に投げ分けていたんですか?」

館山「実は挟まないんだ。人差し指と中指の2本はストレートと同じ。開くのは下。それでラインを合わせて押し出すように投げる。落ち幅は分からないけど、投げ出しはストレート軌道になるし、コースも間違わない。もう困った時はフォークだった。1イニング全球フォークで完了したこともあった。フォークはストレートと同じように操れたね」

吉見「初めて聞きました。やるしかないですね。パクれるものはパクらないと。(笑)」

 一方、館山が吉見の技術を盗んでいた事実も判明。

館山「右足の使い方と体重移動です。投げ終わった後に右足が跳ね上がる人や腕を逆回しする人がいますが、吉見君はもうこれ以上前で放せないところで放しているので、投げ終わった後に右足はポンという程度。本当にお手本だった。当時、トラックマンがあったら面白いでしょうね。僕も吉見君も極限まで前に持ってきていたと思います」

吉見「では、軸足で立ってフィニッシュまでの意識はどうだったんですか?」

館山「立ちます。重心が決まります。僕の中で重心は風船。お腹にある風船を落とさないようにバッターに向かっていくイメージ。だから、膝と肘の距離だね。吉見君は?」

吉見「僕の意識は左手です。まず、左肩で投げる方向を合わせて立つ。そこからなるべく三塁側を長く見て移動。右足は極力全部プレートに付けておく感覚です」

館山コーチが吉見に送ったエール「『怪我に負けることはなかった』と言えるように」

 話はグラブのこだわりへ。

館山「大学から型は一緒です」

吉見「僕もプロ入り後は変えていません。重さと長さはすごく大事」

館山「大学時代に井端(弘和)さんと日本代表で同じだった時にはめさせてもらったグラブがすごく投げやすくて、そのまま5ミリだけバランスを整えてずっと使っています。あと、体の一部なので、僕は2試合に1回のペースで洗います。汚れを全て落として、陰干し。柔らかいとダメ。柔らかいとグラブが握れちゃうので、左手が動く。すると、壁が全部ずれるから、握れない硬さです」

 最後に館山が吉見にエールを送った。

館山「これから野球を始める少年少女に対して、『怪我に負けることはなかった』と言えるようにしてほしい。結果が出なくなって辞めるのは素晴らしいこと。最後の最後まで戦い抜いて欲しいです」

吉見「1年1年が勝負です。先を見るのではなく、今を大事にしたい。若いピッチャーも出てきているので、焦りはありますが、なぜ野球をするのかを常に頭に置きながら、後悔のないようにしたいです」

 1時間半を超えた2人の会話。それは濃密で味わい深いものだった。(CBCアナウンサー 若狭敬一/ Keiichi Wakasa)
<プロフィール>
1975年9月1日岡山県倉敷市生まれ。1998年3月、名古屋
大学経済学部卒業。同年4月、中部日本放送株式会社(現・株式会
社CBCテレビ)にアナウンサーとして入社。
<現在の担当番組>
テレビ「サンデードラゴンズ」毎週日曜12時54分~
「High FIVE!!」毎週土曜17時~
ラジオ「若狭敬一のスポ音」毎週土曜12時20分~
「ドラ魂キング」毎週金曜16時~

© 株式会社Creative2