その名前はニール・ヤング、ロックの世界をつかさどる神がいるならば… 1989年 10月2日 ニール・ヤングのアルバム「フリーダム」が全米でリリースされた日

「ゴッドファーザー・オブ・グランジ」ニール・ヤング

僕のバンドマンの友人に変わった男がいる。彼はニール・ヤングの、あの特徴的な狂おしいまでのギターソロの部分だけを各アルバムから「抽出」して、それを日がな一日聴いているのだ。「彼のギターソロを再現しようとして試行錯誤しているのだが、どうしてもできない」。彼はそう言いながら今日もギターとアンプを前に格闘している。

僕はニールの再現などできるわけがない、と思っている。もはや彼がロックの生き字引であり歴史そのものであることは説明不要だ。あの黒いエレキギターからは歴史の魔力が音となって現れてくるようだ。ちょっとやそっとのことでは太刀打ちできない。

しかしここで気づいていただきたいのは、ニール狂の彼が僕と同世代ということだ。彼と同じく「ニール・ヤング狂」の20代は思いの外多いことに最近気がついた。もちろん僕も含めて。

例えば名盤の誉れ高い『ハーヴェスト』や『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』に代表されるフォーキーな彼も素晴らしい。しかし90年代生まれにガツンと響くのはニールのエレキギターが煌めくハードロックだ。「ゴッドファーザー・オブ・グランジ」などと呼ばれソニック・ユースやソーシャル・ディストーションなどをサポートに行った91年のライブ。

そしてジム・ジャームッシュによる異色の西部劇『デッドマン』のサントラ(95年)での酩酊へ誘うような重低音。さらに2010年に発表された全編ほぼ「ノイズ弾き語り」とでも呼べるようなアルバム『ル・ノイズ』。ニールは確かに「歩くロック史」のような男だ。しかし決してその歩みを止めていない。それより確実にその歴史を更新している。

ニール・ヤングが復活を遂げたアルバム「フリーダム」

2017年に発表されたアルバム『ザ・ヴィジター』。楽曲の素晴らしさはいうまでもない。しかし僕が注目したいのは彼とともに演奏をしているバンド、プロミス・オブ・ザ・リアルの存在だ。ニールとは2015年から共演しておりアルバム『ザ・モンサント・イヤーズ』やライブ盤『アース』などで、環境保護のメッセージをニールらしくラディカルに表明した。

そして何より強調したいのはプロミス・オブ・ザ・リアルのメンバーが僕やニール・ヤング狂の友人と同世代だということだ。ニールと親交の深いカントリーの大御所、ウィリー・ネルソンの息子ルーカスとマイカーのいるこのバンドを起用したことは、単にバンドへ「若い血を入れる」という意味に止まらないと僕は思う。

その証左に89年に彼が発表したアルバム『フリーダム』に収録されヒットした『ロッキン・イン・ザ・フリー・ワールド』を挙げたい。「迷走期」として有名な80年代のニールが復活を遂げたこの曲が歓迎されたことはご存知の通り。

ロックし続けること。それこそがニール・ヤングのアティテュード

「死んだ方がマシだ」と思う人々、赤ん坊をゴミ箱に捨てる女、ホームレス…… そんな路上の人々について歌い彼はそれでも「この自由な世界でロックし続けろ」と至上命題を掲げる。

ロックし続けること。それこそニールのアティテュードの根幹だろう。彼の歌う自由には無限の可能性がある。自由にある種の否定的な意味も込めることができるし、ロック的に表現することの肯定的な自由さでもあろう。

その裾野の広さが僕らと同じ世代の共感を生み、かつニールもそれに触発されたに違いない。世代など関係なく自由にロックし続けること。政治的なナンバー「オールレディ・グレイト」を聴きながら僕はその息吹もまた感じる。

もしロックの世界を司っている神がいるなら、その神の名前は「ニール・ヤング」と呼ばれることになるに違いない。御年74歳の彼について僕はそんな風に考えている。

※2017年12月21日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 白石・しゅーげ

© Reminder LLC