絶好調のワークマン、上半期の「5割増益」に死角はないのか

作業服を一般向けに売り出した「ワークマンプラス」で、波に乗る作業服販売チェーンのワークマン。11月5日に発表した2020年3月期の中間決算では、売上高に当たる営業総収入は前年同期比45.2%増の418億円、本業の儲けを示す営業利益は同55.1%増の86億円と、9期連続の最高益更新に向けて順調に業績を伸ばしています。

しかし、決算発表の2日後に開かれた決算説明会では、出席したアナリストたちから、好業績とは裏腹の厳しい質問が相次ぎました。絶好調の裏側で、ワークマンにどんな課題が生じているのでしょうか。説明会でのやり取りを深掘りしてみます。


牽引役は2.3倍成長の機能性ウエア

ワークマンの上半期のチェーン全店の売上高は、前年同期比32.2%増の553億円でした。月次別の既存店売上高は12ヵ月連続で前年を10%以上上回っていますが、8月は前年同月比54.7%増と特に大きな伸びを示しました。

その牽引役となったのが、腰の部分にファンが付いていて体を冷却する「ファン付きウエア」です。もともとは熱中症対策のため、屋外で働く建設作業員向けに販売されていましたが、最近は庭仕事やフェスなど、より広範な用途で注目されるようになりました。

記録的な猛暑だった2018年、ファン付きウエアは7月下旬に売り切れ、夏本番の8月には在庫薄の状況に陥りました。この反省を生かし、今期は倍の枚数を仕入れ、長袖に加えてベストタイプも拡充したのです。

その甲斐があって、ファン付きウエアの上半期の売上高は前年同期比126.3%増という、驚異的な伸びを記録。ファン付きウエアを含む「ワークウエア」カテゴリーの上半期の売上高も、同38.7%増の179億円まで伸びました。

高成長を下支えする強化商品の拡充

ファン付きウエアとともに上半期の売り上げに貢献したのが、レディースウエアです。これまではワークマンが不得意としていた分野でしたが、5月に潮目が変わりました。気温の高い日が続いたため、ストレッチ性の高いクライミングパンツや、接触冷感ウエアが売れ、6月も勢いが続いたのです。

上半期のレディースの夏物衣料の売り上げは前年同期比2.9倍に。レディースウエアのカテゴリーの売上高は同50.5%増の18億円になりました。レディースは「ウオーキング用や、街着としても使える」とSNSなどで広がり、「ワークマン女子」という言葉まで生まれました。

さらに、近年強化しているプライベート・ブランド(PB)の貢献も見逃せません。小売り側が商品を企画して自社で販売するため、ナショナル・ブランド(NB)に比べて仕入れなどのコストが抑えられ、利幅が厚いのがPBの特徴です。

上半期のPB商品は947アイテムで、前年同期に比べると206アイテムも増加。チェーン全店の売り上げに占めるPBの比率は44・0%と、同9.5ポイント増えました。ファン付きウエアやレディースウエアの好調に加えて、利益率の高いPBが売れたことで、5割増益という好成績が収められた格好です。

しかし、好業績の裏側で、新たな課題も浮かび上がってきました。その理由の1つが、このPB比率の上昇と無関係ではなさそうなのです。

PBのジレンマをどう乗り越える?

2017年には3割ほどだったPB比率は、前述の通り、現在4割を超えています。商品を仕入れればよいNBに比べて、PBは自社で商品企画から手がけるため、発注から販売までの期間が長くなり、需要予測が難しいという難題を抱えています。

特に最近は「防寒着など季節性の高い商品の割合が非常に増え、販売予測が難しくなってきている」(小濱英之社長)というジレンマを抱えているのです。加えて、SNSでヒットすると特定の商品が急激に売れることも、予測を困難にしている要因といえます。

決算説明会で下半期の戦略を説明するワークマンの小濱英之社長(右)

アパレルメーカー各社の共通課題として、季節品の在庫を残さず、売り切るということが挙げられます。この課題を克服するためには、販売予測のみならず、短納期で品質の高い製品を製造する工場をどれだけ押さえられるかにかかっています。

流行のサイクルが短くなっている今、ファーストリテイリングが展開する「ユニクロ」や、スペインのインディテックスの「ZARA」が勝ち残っているのも、中国や東南アジアにこうした信頼できる複数の生産工場を持っているからなのです。

今年4月に社長に就任した小濱社長は、ワークマンのPBの生産工場をゼロから開拓するために、中国を歩き回った経験があります。現在はワークマン専用のラインを確保でき、工場は100社ほどにまで増えました。

2020年夏には生産のリードタイムを短縮し、売れ筋の商品はシーズン内に追加生産できるシステムを整える予定です。また、現在369店舗で導入している需要予測システムを全店舗に広げ、販売予測の精度を高める計画を立てます。

FC店の負担軽減も課題に

もう1つ、売り上げの増加に伴い、ワークマン経営陣の間で「喫緊の課題」とされているのが、フランチャイズチェーン(FC)店の業務量の増大です。

ワークマンの店舗は2019年9月末現在で848店舗。このうち、ワークマンプラスは69店舗あります。最近は、これまで店舗が少なかった東北や四国、九州地方にもワークマンプラスを相次いで出店しています。

従来のワークマンのFC店のビジネスモデルは、夫婦2人で1億円稼ぐというものでした。ところが、ワークマンプラス効果で、従来の顧客に加え、一般客も来店するようになり、商品出しや接客などの業務量が増えました。

現在、FC店の平均年商は1億2500万円ですが、年商2億円超えの店舗も増えてきています。土屋哲雄専務は「2億円になると“家業”から“事業”になり、店のオペレーションが大変になるケースも出ている。早急に対策を考えねばならない」と説明します。

次の狙いは20代

ワークマンは下半期の戦略として、20代を中心にした若い世代の開拓に力を入れる計画です。9月には公式のインスタグラムとツイッターを開設し、コーディネートや人気商品を発信しています。

小濱社長は「SNSを活用し、折り込みチラシやテレビのコマーシャルで獲得しにくい若年層を開拓したい」と説明します。こうした若い世代に刺さる商品開発の一環として、ワークマンの商品を愛用するブロガーをアンバサダーと位置付け、コラボ商品を増やしています。

キャンプ好きの女性が改良した綿100%のパーカー

実際に2019年秋冬の商品を見ると、キャンプ好きの女性ブロガーとコラボしたコットンパーカーなど、アウターを中心にこれまでよりデザイン性の高い商品が目立ちます。下半期にはアンバサダーの数を増やし、2020年9月にはコラボ商品だけを集めたショーを開くことも計画しています。

同社は2025年までに1,000店舗の出店計画を立てています。小濱社長は「出店は、賃料などの基準をクリアするか慎重に見極める」と語る一方で、「都心での出店希望も増えてきている。2階建てにして、駐車場を確保するなどの実験をしたい」と、従来のロードサイドの店舗とは異なる店舗を模索する考えも明らかにしました。

ワークマンが一般客向けのPB商品の販売を本格化したのは、2016年。それからわずか3年余りで急成長を遂げました。しかし、その裏側では、急成長ゆえの新たな課題が浮かび上がったのも、また事実です。

説明会の参加者からの「ワークマンプラスを一過性の流行で終わらせないためには何が必要か」という質問に対し、「作業服屋という原点を忘れず、機能性が高く、低価格の商品を作り続けること」と答えた小濱社長。ワークマンの持ち味を生かした作業服の機能性を消費者にどれだけ訴えられるかが、今後の業績を左右しそうです。

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