『わたしは光をにぎっている』 失われた大切な場所を思い出させてくれる映画

(C) 2019 WIT STUDIO / Tokyo New Cinema

 20歳の女性・宮川澪。両親を早くに亡くした彼女は、一緒に民宿を切り盛りしてきた祖母の入院を機に上京します。人付き合いの苦手な彼女が上京して見つけた<自分の居場所>との出会いと別れを描いた、切なくて心が洗われるような素敵な作品です。

 上京したてのヒロインが住むのは、人情溢れる商店街がある場所。そこの銭湯で働き始めた彼女は、大切な友達と出会い、恋をして、少しずつ変わっていきます。舞台になっているのは、実際に再開発が始まろうとしている葛飾区・立石ですが、この映画を観たとき、数年前に大きな駅の再開発によって取り壊されてしまった下北沢北口の駅前食品市場のことを思い出しました。東京生まれ、東京育ちのわたしにとって下北沢は青春そのもののような場所。いつも酔っ払いのおじさんばかりの居酒屋や、果物屋さんがところ狭しと並ぶその商店街は、わたしが下北沢を好きな大きな理由の一つでもあったんです。でも、その商店街も今ではもうありません。

 きっとこれからも、大好きな街の景色はどんどん変わっていってしまうはず。この映画はそんな自分にとって、懐かしくて温かく、そして今は失われてしまった大好きな場所を思い出させてくれます。繊細な感情の動きを、大きな瞳で訴えてくるヒロインの松本穂香のお芝居はとっても丁寧で美しい。そんな彼女が宮川澪として生きる日々も、ワンカットワンカットが宝物のように美しく愛おしい。スーパーじゃなくて、家の近くの商店街で買い物をして帰ろう。そんな気持ちにさせてくれる映画でした。★★★★★(森田真帆)

監督:中川龍太郎

出演:松本穂香、渡辺大知

11月15日から全国順次公開

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