『ベル・カント とらわれのアリア』 人は全員が悪人じゃない

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 1996年にペルーで起きた日本大使公邸占拠事件を元にした、アン・パチェットの小説を映画化した作品。南米の副大統領邸で行われていた、実業家ホソカワの会社の工場誘致パーティー。そこにテロリストが乱入して、各国の要人たちは人質として囚われてしまいます。政府とテロリストの交渉が難航する中、人質とテロリストたちとの共同生活が変化するきっかけになったのは、名女優ジュリアン・ムーアが演じる世界的オペラ歌手のロクサーヌ・コス。彼女の美しい歌声がテロリストたちの頑なな心を溶かし、そして文化的な教養のない彼らに、社会的地位のある人質たちは教養を与えようとします。

 こういう作品は、多くのものがテロリスト=悪として描かれて、人質たちの恐怖ばかりに焦点を当てているものが多いですが、この作品はテロリストたちの人間的な側面をきちんと描いていました。監督は、アメリカのおバカな高校生たちのエッチな大騒動を描いて人気になった青春コメディ『アメリカン・パイ』、そしてシングルマザーに育てられている生意気な少年と偏屈な独身男の奇妙な友情を描いた『アバウト・ア・ボーイ』と、コメディ映画が多かったポール・ワイツ。人の滑稽さを描いてきた監督だからこそ、人間同士のコミュニケーションがとても温かかったです。渡辺謙演じるホソカワとロクサーヌの恋、加瀬亮が演じるホソカワの通訳とテロリストとの恋も描かれますが、ロマンスよりもっとテロリストと人質たちの心の交流が見たかったのが正直なところ。テロリストに若い人が多かったのは、リアルだけど心がとても痛かった。★★★★☆(森田真帆)

監督・脚本:ポール・ワイツ

出演:ジュリアン・ムーア、渡辺謙、加瀬亮

11月15日(金)から全国公開

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