【社説】島根原発の防災訓練 課題は洗い出せたのか

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 中国電力島根原発(松江市鹿島町)で起き得る重大事故に備え、防災訓練が行われた。島根、鳥取両県と松江など6市が19年ぶりに国と共同で開いた。訓練は3日間で、208団体延べ7600人が参加した。

 島根原発は全国で唯一、県庁所在地にあり、主な公的機関や人口が集中している。避難の対象になるのは30キロ圏内の46万人だ。うち実際の避難に参加したのは500人余りにすぎない。これでは住民のためと言うより行政のための訓練だろう。

 大きな混乱なく終わったというが、事故の想定も含めて果たしてこの訓練で良かったのだろうか。避難計画の実効性と合わせ、検証しなければならない。

 事故は、松江市で震度6強の地震が起き、島根原発の故障が重なって原子炉を冷やす機能を喪失し、放射性物質が外部に放出される想定だった。島根原発の近くには、中電が調査を重ねるたびに距離が長くなってきた宍道断層がある。その断層も想定に入れた地震なのだろうか。

 2号機の再稼働の可否を見極める新規制基準の審査の間だけでも、6年前の申請時に全長22キロだったのが39キロに延びた。事故も、もっとシビアに考えるべきかもしれない。

 国や県は、原発からの距離に応じた「段階的避難」を住民に浸透させたかったようだ。

 30キロ圏内のうち、まず5キロ圏内の1万人を避難させる。5〜30キロ圏内の45万人は屋内退避してもらい、その後に逃げる。訓練の日程を5キロ圏の内外で分けたのもそのためである。

 訓練なら計画通りに進むかもしれないが、実際の事故時にもその通りになるだろうか。地震によって道路が寸断されるなど複合災害も当然考えられる。

 段階的避難では、住民は地元の自治体の指示を待って逃げることになる。危険なものから一刻も早く遠ざかりたいと思うのは人の本能だ。われ先にとパニックになってもおかしくはない。自治体からは、早くも不安の声が上がっている。

 ただ、屋内退避の方が被曝(ひばく)を避けられる場合もある。福島第1原発事故では、放射線の知識や事故の正しい情報がなかったため屋外の放射線量が高い時間帯に避難した住民がいた。また渋滞に巻き込まれれば、より多く被曝しかねない。

 段階的避難を行うには、屋内退避の意義をもっと広める必要がある。さらに国や自治体が情報を積極的に提供し、住民の安全を最優先に考える姿勢を示し続けることも重要だ。訓練もその一環でなければならない。

 避難計画では、46万人のうち広島県へ17万人、岡山県へ10万人が避難することになっている。今回の訓練でも、出雲市や松江市の住民がバスで受け入れ先の広島市や倉敷市に向かった。非常時の想定とはいえ、現実的で無理のない避難だろうか。参加者の声を計画に反映してもらいたい。

 自治体間のやりとりで避難計画を作るのは限界がある。国も責任を自覚し、計画作りに積極的に関わっていくべきだ。

 もう一つ懸念がある。訓練の実績が、島根原発2号機の再稼働に向けた流れを押し進めないかだ。むしろ計画の実効性は不十分で、解決すべき課題が多いことが浮き彫りになったと言わざるを得ない。