【プレミア12】元オリ監督が見た侍Jの収穫と課題 周東には「待ってました」とのコメントを…

勝負どころの場面で盗塁を決めた侍ジャパンのソフトバンク・周東佑京【写真:荒川祐史】

元オリックス監督の森脇氏が侍ジャパンのスーパーラウンド初戦を解説

■日本 3-2 オーストラリア(プレミア12・11日・ZOZOマリン)

 野球日本代表「侍ジャパン」は11日、ZOZOマリンスタジアムで「第2回 WBSCプレミア12」(テレビ朝日系列で放送)スーパーラウンド初戦オーストラリア戦を戦い3-2で逆転勝利。鈴木の3試合連続ホームラン、大仕事をやってのけた代走・周東……。ソフトバンク、巨人、中日でコーチ、そしてオリックスでは監督を務めた森脇浩司氏は初戦を制した侍ジャパンの“収穫”と“課題”を語った。

 国際大会はどんな形であれ勝利が絶対条件になる中、素晴らしい逆転勝利だった。この試合で私が感じた3つのポイントを挙げたい。まずは代走・周東と源田のセーフティバントで追いついた7回だ。プレッシャーのかかる場面で2つの盗塁を決めたのは見事だった。三盗は二死からではあったが足の速い源田が打者だっただけに状況判断が出来た大きな意味を持つものとなった。

 だが、欲を言えば、もう1つ早い段階でチャンスを作れたかもしれない。また、試合後のコメントに注目してみたが、源田のセーフティバントに「びっくりした」とあったが「待ってました」とのコメントを聞きたかった。いや、これも周東のかく乱なのだろう。いずれにせよ、全てのプレーが想定内である準備こそ他国を上回る日本の長所であり、武器だと信じるからである。

 情報は多い方が良い。大事なのは処理能力でデータには頼ることなく活かすだ。例えば、2番手で投げたモイランはクイックタイムがツーシームで1.36~45、スライダーで1.47、牽制タイムが0.95~1.01、しかも一塁手が左でタッチゾーンに投げ切れる牽制巧者、逆を突かれるとアウトになる。ウィルキンスは牽制が1.08~1.15、しかもタッチゾーンに来る確率は極めて低い。先発のルジックも同様だ。早目の継投が通例の国際大会、スモールベースボールを信条とする日本ならではというプレーが見られた。1回無死1塁で鈴木が初球に盗塁を試みた。大舞台は個人のアイデアではなくチームとしてのアイデアが大事だ。用意周到の上、今後もチャレンジしてもらいたい。

 こんな話を紹介しておこう。以前カリビアンリーグを視察した時、2試合で2死三塁というケースが四度あり、2度セーフティバントを試みる場面があった。1点を取る為に確率を考えれば決して珍しいプレーではない。オーストラリアのデサンミゲルは優秀な捕手だ。4回2死二塁、打者・近藤で2-0となったところで投手に確認に行った。

大仕事をやってのけた周東、2死二塁からではなく1死二塁の場面でも成功できる

「分かってるだろう」が致命的なミスを呼ぶ。当たり前の事だが好感が持てる行動だった。なのに何故7回2死三塁で投手を含め内野手に指示を出さなかったのか。直後のプレーで投手がパニックになり一塁に送球せず致命的な点が入ったが実は三盗された時点で捕手がパニックになっていたのだろう。それほど周東の三盗は大きなダメージを与えたのだ。1つのアウトをベンチも含め全員で取るというのが野球の本質にある。ベンチからまたは内野手が指示を出していれば同じ結果になったのだろうか。「人の振り見て我が振り直せ」1試合の中に強くなるための気付きが沢山あった。

 さて、二盗を決め1死二塁の場面で打席に松田を迎えた場面。相手投手のクイックタイムはアベレージで1.69をマークしていた。周東には素晴らしい感性と体内時計が備わっている。周東の力を持ってすればこの場面でも三塁を奪えたはず。因みに盗塁時は1.75だった。1死三塁と2死三塁では相手に与えるプレシャーは違い攻撃の選択肢も増えてくる。今大会、そして来年の五輪を見据えるとこの先はもっと厳しい戦いが続くことは想像に難くない。周東なしには勝ち切れない。さらなる成長に期待したいところだ。

 もちろん、周東と源田がみせた攻撃は日本らしい素晴らしい得点だ。相手が走ってくると分かっている中で決めた周東、そして2死三塁からセーフティバントを試みた源田のチャレンジには敬意を表したい。

 そして2つ目は同点に追いつく前の6回の攻撃だ。先頭の曾澤がヒットで出塁、そして続くは1番に起用された丸。ここで相手ベンチは左投手にスイッチした。初球は丸の頭付近に大きく逸れる“大暴投”。相手が苦しむ中で2球目を犠打で送りチャンスを広げた。

 今大会で丸は打率0割台と苦しんでいるが、彼なら色々な選択肢はあったのではと思う。勿論、カウントで変わったのかも知れない。これは結果論になるが、打たせて凡打になっていても走者が入れ替われば続く菊池とのコンビで相手を追い込むことが出来る。走者が誰であれ、丸、菊池こそこの場面の適任者なのだ。走者一塁に置いた時の菊池、丸、得点圏での誠也、會澤、彼らがこの3年間で体得したスキルはビッグゲームでこそ遺憾なく発揮するだろう。稲葉監督も6回でまずは同点に追いつきたいと考えそれぞれの選手を信頼するからこその丸のバント。ここに稲葉監督の強さを感じたが違う戦術も見たかった。

 最後は投手陣。先発の山口は今大会の侍ジャパンのエース格としてマウンドに上がっている。4回2失点で降板となったが初回に連打でいきなりピンチを作ったオープニングラウンドのベネズエラ戦から見れば修正出来ていた。

山口はオープニングラウンドに比べ修正も「高めのストレートの使い方」

 彼の持ち味はコントロールだ。ペナントレースとは違い長いイ二ングとは考えていないだろう。初戦はその思いが力みに繋がっていた。カーブとストレートを有効に使い的を絞らせず、ストライクゾーンからボールゾーンに落とすフォークで打ち取るだけでなく他にもパターンを持っている。この日はそれぞれの球を上手く操っていたが、もう少し打ち取る確率を上げるには高めストレートの使い方だと見る。投球術には緩急、高低、左右、対角線、奥行きがある。

 一概には言えないが打者の傾向としてバットを立てて構える打者は低めが出易く、寝かせて構える打者は高めが出やすい。逆にその付近にウイークポイントがあるのだが。今日の打者では4番のウェードと7番のジョージがやや寝かせ気味でしっかり寝かせて構えるのは6番の二ルソンだけだった。高目に投げるのは勇気はいるが餌をまき、打者の目線を変えることで低目を痛打される確率は確実に減るだろう。昨日のゲームでは山崎、甲斐野の好投は言うまでもないが、田口と岸の無失点投球が勝利を呼び込んだ。ユーティリティとしての彼らの存在は本当に貴重だ。

 ここまで色々と語ったがまずはスーパーラウンド初戦を取ったことは大きい。日本の持ち味が存分に出たナイスゲームだった。オーストラリアは目先を変える継投、逆に日本は先発も素晴らしいが継投に出るほどに計算出来る投手が出てくる、所謂勝算ありの継投、これこそが日本の武器と言える。今日のゲームにはチームとして1点を守り切るという場面はなかったが1点をもぎ取る、与えないという稲葉監督の執念がしっかりとチームに浸透している。継投のタイミングに適材適所に応じた選手起用、それに応える選手、試合ごとに強くなっている。頼もしい限りだ。

 打線は円でなければならない。誠也中心に2番・菊池、6番・浅村の存在が大きくしっかり円になっている。鈴木の3戦連続となった1点差に詰め寄る一発はチームに勇気と勢いを与える本当に効果的ものだった。ホームランになっているが決して強引ではなくシンプルに戦っているのが分かる。浅村、近藤の選球眼も光り輝いている。吉田の状況に応じた質の高いバッティングはトータルで見れば相手にとって最も脅威になる。オールマイティの坂本がいて代打で勝負に勝てる山田が控える。投手陣はうしろから山崎、甲斐野、スペシャリストの嘉弥真、スターターも豊富でまさにタレント揃いだ。しっかりとした勝負心と勇気を持って戦えば負ける気はしない。これからも心からの声援を送り続けたい。

◇森脇浩司(もりわき・ひろし)

1960年8月6日、兵庫・西脇市出身。現役時代は近鉄、広島、南海でプレー。ダイエー、ソフトバンクでコーチや2軍監督を歴任し、06年には胃がんの手術を受けた王監督の代行を務めた。11年に巨人の2軍内野守備走塁コーチ。12年からオリックスでチーフ野手兼内野守備走塁コーチを務め、同年9月に岡田監督の休養に伴い代行監督として指揮し、翌年に監督就任。14年にはソフトバンクと優勝争いを演じVの行方を左右する「10・2」決戦で惜しくも涙を飲んだ。17年に中日の1軍内野守備走塁コーチに就任し18年まで1軍コーチを務めた。球界でも有数の読書家として知られる。現在は福岡6大学野球の福岡工大の特別コーチを務め、心理カウンセラーの資格を取得中。178センチ、78キロ。右投右打。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

© 株式会社Creative2