ガソリンも炭素税の対象に?

©swissinfo.ch

気候変動対策を求め、世界中に環境デモの波を巻き起こしたスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさん。その声はスイス政治にも届くのだろうか。連邦議会では現在、二酸化炭素(CO2)排出規制法の全面改正を検討中だ。誰がどこで、何パーセントの排出量を削減すべきかのせめぎ合いが続く中、とりわけ意見が対立しているのはガソリンなどの燃料にかかる税金だ。

スイスでCO2排出量が最も多い輸送部門は年間1500万トンのCO2を排出するが、排出量削減に直結するこれといった進展はない。輸送用燃料に対する「操縦税」の導入はブルジョア政治家によって阻まれてきた。今回のCO2法の改正案も、暖房に使う石油や天然ガスなどにかかる既存の炭素税(操縦税の一つ)の引き上げが予定される一方で、ガソリンやディーゼルなどの石油系燃料は課税の対象外だ。

「輸送用燃料に対する操縦税は不可欠だ」

10月に行われた連邦議会総選挙の直前だったこともあり、「輸送用燃料への操縦税」という逆鱗(げきりん)に触れようとするリベラル派の政治家は誰一人としていなかった。

唯一の例外は、自由緑の党のユルク・グローセン下院議員だ。「私にとって、まだ決着はついていない。必ずや輸送用燃料にも炭素税が適用されるよう申し立てる」とグローセン氏はスイスインフォに対し回答した。自由緑の党の党首であるグローセン氏は、緑の党、社会民主党、および急進民主党の一部からの支持を得られるものと期待している。事実、急進民主党は党の方針の中で、こういった税金の適用に言及している。

2050年以降は温室効果ガスの排出量をゼロにスイス政府は2050年以降、「カーボンニュートラル」になることを目標としている。これは、スイス国民と企業の活動による二酸化炭素(CO2)、メタンまたは一酸化窒素などの温室効果ガスの排出と吸収がプラスマイナスゼロになることを意味する。だが今のところ宣言に拘束力はなく、単なる意思表示に過ぎない。

グローセン氏はまた、輸送用燃料も炭素税の対象にするのは不可欠だと確信する。「真摯で道理にかなった気候政策を本気で実現したいなら、今、この税金を適用する必要がある」(グローセン氏)

課税の効果は、暖房用、発電用の化石燃料によるCO2排出量の推移を見ても明らかだ。スイスでは2008年以降、1トンにつき炭素税が96フラン(約1万500円)課されるようになったが、1990年と比べるとこれらの燃料によって引き起こされるCO2排出量はほぼ3割減少した。

スイス版「黄色いベスト運動」の心配は?

グローセン氏は、ガソリンなどの輸送用燃料に対する課税率も暖房用の燃料と同程度にすべきだと言う。これは燃料1リットルあたり約0.25フランという計算になる。

「0.25フランは燃料の価格変動幅よりも低い」とグローセン氏。これは年間、約数百フランの計算だ。そのため、燃料税の引き上げをめぐりフランスで起こった「黄色いベスト運動」のような暴動がスイスで起きる心配はないと言う。また、暖房用の燃料と同じように、健康保険を介して税収の一定額を各国民に還元する方法もあると考える。

緑の党はさらに多くの課税を要求している。議会の院内会派のリーダーであるバルタザール・グレッティ氏は、ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)の番組「ルントシャウ」の中で、ガソリン1リットルあたり0.4~0.5フランの価格引き上げが必要だと主張した。

現在検討中の法案では、ガソリン価格の引き上げ(0.1~0.12フラン)のみが計画されている。そしてドライバーには燃料の輸入業者や燃料の製造業者のしわ寄せがくると予想される。

長期的には効果あり

価格が高ければ高いほど、需要は低くなるのが経済上の法則だ。「しかしガソリンに関して言えば、ガソリンの値段がほんのわずか上がったところで、消費者の意識が変わるとは思えない」と、操縦税の影響を研究する連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)のマッシモ・フィリッピーニ教授は言う。「2~3割増加しなければ効果は出ないだろう」

フィリッピーニ教授が行った研究では、わずかばかりの炭素税を導入したところで、ガソリン需要は短期的に見てあまり変化がないことが分かっている。しかし長期的には、一般家庭がよりエネルギー効率の良い車に買い替えたり、公共交通機関の利用を増やしたりすることで、需要の低下が進むと考えられる。

ガソリンスタンドで意見を聞いてみたところ...

スイスインフォはベルンのガソリンスタンドで数人のドライバーに意見を聞いた。インタビューの回答者の中には、燃料価格が上がれば自動車に乗る頻度に影響が出ると答えた人もいた。

ビデオに出てくるオレンジ色のシャツを着た男性のように、移動手段として車が必要な人は、都市の住人と比べてよりガソリン価格の上昇に不満を持つ傾向があるとフィリッピーニ教授の研究は示している。「さまざまな公共交通機関が利用でき、自動車に代わる選択肢がある都市部よりも、炭素税は農村部や山岳部に大きな影響を与える」

そのため、フィリッピーニ教授は払い戻し制度を提案する。「炭素税は、税金を国民と経済に再分配することを意図する徴収だ。地域への影響を軽減するために、農村部と山岳部は都市部より多くの払い戻しを受けるべきだ」

前出のグローセン下院議員はその一方で、輸送用燃料への炭素税課税は地方に住んでいる人にとって不公平という主張を疑問視している。

「私自身も農村地域に住んでいる。確かに移動手段として車が必要な人は多いが、長距離ではなく、むしろ短距離の移動に利用している」。車を頻繁に利用する人がより多くの税金を負担し、それ以外の人は払い戻しによって負担を緩和することが操縦税の本来の目的だとグローセン氏は言う。

上院で再検討 二酸化炭素(CO2)排出規制法気候変動抑制に関する多国間の国際的な合意である「パリ協定」の一環で、スイスは温室効果ガス排出量を2030年までに1990年時点から半減させるという目標を掲げた。この達成のためには、CO2法を大幅に改正する必要がある。しかし2018年末、下院は改正案を否決した。これには、討論の末に著しく弱体化した改正案の内容を受け、左派と緑の党が投票を棄権し、その結果として国民党の反対票が中道派の賛成票を上回ったことが背景にある。下院では今年9月下旬、CO2法の改正案につき討論が始まった。主な対策案は以下の通り。暖房用の石油と天然ガス暖房用の石油と天然ガスに対する炭素税は、二酸化炭素1トンにつき120フランから210フランに引き上げられる。航空交通航空券税(30~120フラン)の新規導入。道路交通炭素税を輸送用燃料に拡大する予定はない。欧州連合(EU)に沿った新車のCO2排出基準は、100 kmあたり130グラムから95グラムに削減。意見の対立がとりわけ激しいのは、予定されている燃料輸入業者の補償義務の拡大だ。これにより炭素税の増額分が間接的にガソリン価格に上乗せされる恐れがある。スイス政府は、輸入業者が証明書を購入するか、再生可能燃料を追加することで排出量の9割を相殺するよう求めている。2024年までは1リットルあたり0.1フラン、2025年以降は0.12フラン。ガソリン価格に関しては、これ以上の引き上げは予定されていない。燃料輸入業者はこの増収分を主に海外の気候変動プロジェクト融資に当てるものとする。環境基金新しい基金には、炭素税の最大3分の1と、航空券税からの収入の49%が充てられる。基金に流れる最高額は年間で最大4億5000万フランまで。残額は国民と経済に還元される。この基金からは、建物が排出するCO2の削減といった環境プロジェクトに必要な資金が調達される予定。

Peter Siegenthaler