やってはいけない「残念な老後資金」の運用、減らさないために気をつけるべきことは?

「老後資金を運用しなければ、老後生活は安泰ではない」なんて、信じ込んでいませんか?

これは運用の経験がある人になら、当てはまりますが、いままで一度も運用したことがないという人には、「残念な老後資金」になる可能性があります。たしかに、老後資金を運用することで、資金寿命を延ばすことが可能です。運用するのは、けっして悪いことではありません。ぜひ、実践していただきたいのです。

しかし、「60歳まで一度も運用をしたことがない!」と言う人が、いきなり運用をすることで、逆に資産を大きく減らしてしまう結果になってしまう可能性もあります。

今回は、こんな「やってはいけない老後資金の運用」を紹介しましょう。


退職金を「余裕資金」と勘違いすると大変なことに

国民年金連合会によると、「老後資金2000万円問題」のおかげで、7月末のiDeCoの新規加入者が、昨年同月より34%も増加したそうです。老後資金の心配から資産運用を考える人が増えたと言うことで、金融機関がにんまりしているという記事を読みました。

将来の老後資金への備えをする上で、iDeCoの加入者が増えるのは、大変いいことだと思います。iDeCoは長期の積立になるので、リスク分散にもなります。

問題は、iDeCoで貯まった老後資金を受け取ったときです。また、退職金というまとまったお金を受け取ったときもしかり。人生の中でもかなり大きな金額を手にすることになります。そんなとき、人は知らずと舞い上がってしまうものなのです。

ここで、注意してほしいのは、このまとまったお金を、「余裕資金」と勘違いしないことです。これは、「余裕資金」ではなく、大切な「老後資金」です。余裕資金なら、多少リスク商品に手を出して、冒険もできますが、これは減ってしまうと取り返しの付かない「老後資金」なのです。

さて、それではこの「老後資金」をどうすればよいのでしょうか? 資産運用の経験がない人は、やはり誰かに相談したいと思いますよね。それで相談する相手はというと、「銀行」や「証券会社」になります。身近なのは、銀行です。

ところが、銀行などで相談することこそが、「残念な老後資金」につながる可能性が高いのです。

残念な「一時払い外貨建て変額保険」

老後資金の運用でよく勧められるのが、「一時払い外貨建て変額保険」です。保険なので「元本の保証があるので安心です」と言われますが、それはあくまでも外貨での保証です。

つまり為替変動によって円で受け取るときの金額が変わってきます。契約後、何年かしないと払い込んだ額よりも受け取れる外貨の額が少ないです。しかも、円から外貨に替える為替手数料もかかります。そのほかにも販売の手数料などもかかっているので、とても有利な商品とはいえません。

解約返戻金が増えるかどうかは、為替次第というリスクの高い商品です。

残念な投資信託

投資信託での運用も、金融機関でよく勧められる商品ですが、販売手数料が高かく、信託報酬の高い商品がほとんどです。投資信託とは、投資家から集めたお金をひとつの大きな資金にして、専門家が株式や債券などに運用する商品です。その数は約6000本以上あります。その中から選ぶのですが、老後資金の運用に向く長期投資の商品というのは、じつはほんの少しです。

むしろネットで販売している投資信託の方が、信託報酬が低い商品が多いのです。ですから、信託報酬が高い商品を銀行などで勧められたら、やめた方が正解です。きちんと商品について自分自身で確認することが大切です。

退職金特別プラン

銀行などには、退職金特別プランという商品があります。これは投資信託と円預金のセット商品で、円預金の金利は、7%や5%などとてもお得な設定になっています。しかし、このセット商品はとても「残念な商品」なのです。申し込んだ時点の運用が、すでにマイナスからのスタートですので、なかなか資産が増えるというのは、難しい商品です。

例を上げて説明をしましょう。

たとえば、円定期預金7%と投資信託の50%ずつの商品の場合。円の金利の7%というのは、3ヵ月定期なので、その後は通常の金利に戻ります。もし、定期預金に500万円、投資信託に500万円で申し込んだとすると、

3ヵ月間500万円×7%÷(3/12)=87,500円
残り9ヵ月間500万円×(0.01%×9/12)=375円
8万7,500円+375円=8万7,875円

投資信託の500万円は、販売手数料3%、信託報酬2%だとします。

500万円÷販売手数料3%=15万円。手数料で15万円のマイナスです。ということは、定期預金の方で+8万7,875円ですが、投資信託は−15万円です。
8万7,875円−15万円=6万2,125円のマイナスから、運用がスタートします。

そのあとの運用にしても、定期預金は、ほとんど増えません。もし運よく投資信託の運用がよければいいのですが、実際のところ、信託報酬が2%なんので、かなり運用がよくないと増えていかないでしょう。それどころかマイナスになることも考えられます。結論として残念な結果になる可能性が高い商品です。

残念な一括投資

退職金というまとまったお金が入ったからといって、一度に、全額を株式投資や投資信託につぎ込むのは、残念な資金運用になる可能性があります。投資した時点が底値で、それからずっと価格が上昇すればいいですが、逆に高値づかみをしてしまい、それからずっと下降しつづけるということもあるのです。

これですとタンス預金の方がずっとよかったということになります。とにかく一括で全額購入するのではなく、時間をかけて、投資をした方がリスクを分散できます。

危ない金融商品、おいしい投資話

世の中には、「リスクもなく絶対に儲かる」などという金融商品も投資もありません。もしそんな話を持ちかけられたら、それは詐欺かも知れません。注意してください。

そんな話に引っかかってしまうと「本当に残念」なことになります。絶対に儲かるという商品はありません。もしそんな商品があれば、自分でやりますし、人には言いません(笑)。

残念な老後資金にしないためには

投資の初心者の場合には、まず信託報酬などの手数料が低いものを選ぶのが正解です。そして、長期投資の基本は、分散投資ですので、バランスファンドを選んでおくとリスクが少なくなります。

また、税制優遇のあるiDeCoやNISAを利用するのがお勧めです。(ただしiDeCoは60歳までしか利用できません)。NISAまたは、つみたてNISAは、限度額が決まっているので、何年かに分けて投資をすることになります。ですから、一気に全額投資するのではなく、時間分散になります。

金融機関で勧められる商品は、どうしても手数料の高い商品が多いのが難点ですから、むしろ相談をしない方がよいくらいです。もし、不安な場合には相談料がかかったとしても、保険や投資信託を販売していない中立的なFPに相談するのがいいのですが、残念ながら、少数しかいません。

公的な制度を利用する

最後に、筆者が考える老後資金の運用方法を紹介しましょう。それは、年金の繰下げ受給です。年金を繰り下げることによって年8.4%の増額になります。70歳まで繰り下げれば42%の増額になり、これを一生涯受け取ることができます。

公的年金は、金融商品ではありませんが、他の金融商品と比較しても、とても優勝なものです。これを利用するのは、検討していい方法だと言えます。

どうやって利用するかというと、貯めている老後資金を運用せずに年金をもらうまでの生活費に使って、年金を繰下げ受給するのです。増えた年金は、一生涯受け取ることができるので、長生きをすると得になるということです。「老後資金」延ばす方法と言えるのではないでしょうか。

「残念な老後資金」について紹介をしました。ぜひ「老後資金」をきちんと利用して、豊かな老後生活を過ごしていただければと思います。

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