bird " 20th Anniversary Best " レア曲も披露!「20年間、本当にあっというまでした」

今年デビュー20周年を迎えたbirdが、10月30日に東京・Billboard Live TOKYOで「bird“20th Anniversary Best”Live!」と題した公演を行なった。

birdは今年4月に最新オリジナル・アルバム『波形』を曲順通りに演奏する「bird“波形”Live!」を同会場にて行なったが、今回は“20th Anniversary Best”Liveということで、20年のキャリアのなかから代表曲や“いま歌いたい曲”を選んで構成したもの。7月に2枚組のオールタイム・ベスト『bird 20th Anniversary BEST』が発売されたので、本公演もそこに収録された曲だけで構成されるものかと思いきや、そこには収録されなかった意外な曲や、過去に数回しかライブで歌ったことがなかった曲などもセットリストに組み込んでファンを喜ばせた。

また、1stステージと2ndステージとでセットリストが大きく変わってもいた。演奏曲数は1ステージにつき11曲(本編10曲+アンコール1曲)で、どちらのステージでも演奏されたのは4曲のみ。1stと2ndで異なる内容になることは事前に発表されていたものの、ここまで大きく変わるとは思っていなかったので、両方通して観た自分にとっては嬉しい驚きだった。結果、100を軽く超えるであろう持ち曲のなかから、この日演奏されたのは両ステージあわせて18曲。少しでも多くの曲を聴かせたい(歌いたい)というbirdの思いが反映されての曲数だっただろうが、それでも数多くの持ち曲のなかからここまで絞り込むのは相当大変なことだったに違いない。

少しでも多くの曲を聴かせたい。そんなbirdの思いは、ライブのなかのMCの回数と短さにも表れていた。MCらしいMCは2曲目を歌い終えたあとと、あとはアンコールのタイミングでのものだけ。2曲目を歌い終わってのMCは(両ステージとも)次のようなものだった。「20周年記念のライブということで、本当に楽しみにしていました。今日はみなさんに時間の許す限り曲を楽しんでいただきたいので、ちょっとした話とかは一切しません。これが最後のMCです」。2ndステージでは、birdがそう言うと観客の何人かから「え~~」という声が漏れたが、しかし結果として、これ以外のMCを挿まず次々に曲を繰り出していくやり方は大正解。アップめの曲が続くあたりでは、グルーブが途切れることなくどんどん昂揚感が増していく感覚を味わうことができた。

バンド・メンバーは、ゲンタ(ドラムス)、澤田浩史(ベース)、樋口直彦(ギター)、渡辺貴浩(キーボード)、Meg(バックグランドボーカル)、Hanah Spring(バックグランドボーカル)の6人。冨田恵一を中心にした4月の「bird“波形”Live!」とは樋口とMeg以外の4人が変わり、比較的初期からbirdを支えたゲンタと澤田による厚くて太いリズムが歌を躍動させていた。因みにHanah Springの参加は今回が初。Megと共にソウルフルなコーラスでbirdの歌に色を加えた。

それぞれのステージを振り返ろう。まず1stステージから。オープナーは「birdの代表曲と言えば、これ!」……「SOULS」だ。『bird 20th Anniversary BEST』のリリース・タイミングでインタビューした際、「“SOULS”を歌うと、みなさんが一緒に歌ってくださるので、20年前の曲ですけど、ずっと生きつづけているなって感じるんです。それに歌っても歌っても先があるというか、どんどん違う姿を見せてくれる曲でもあるんですよ」と話していたが、この日もbirdはそのことを実感しながら歌っているように自分には感じられた。続く2曲目は「甘く甘くささやいて」。デビュー・シングル「SOULS」のカップリングに収められていた曲だが、これまでのどのアルバムにも収録されておらず、配信もされていないメロウR&Bだ(多和田えみがミニアルバム『Sweet Soul Love』でカヴァーしていたっけ)。言うなればレア曲だが、birdはこのデビュー・シングルからキャリアが始まったという意味を込めて、「SOULS」と続けて歌いたかったのだろう。こういうネオソウル的なテンポ感を持った曲を歌うbirdは実にいい。間奏の渡辺貴浩の鍵盤音がロバート・グラスパーっぽかった。

先に紹介したMCを挿み、3曲目「空の瞳」のイントロが鳴り出すと、「お~っ!」と声に出して反応する観客が何人かいた。「SOULS」と同じ1999年発表の4thシングル曲で、立ってカラダを揺らしたくなるグルーブあり。樋口直彦のカッティングがファンキーで気持ちよく、birdとMegとHanah Springは揃いのダンスをしながら歌う。サビの「か~ぎ~りなく両手をひろっげって~」のところで手を挙げて横にふる観客もいた。続く4曲目も初期のナンバー「雨の優しさを」 (1stアルバム『bird』収録)で、birdの歌と共にふたりのコーラスが雨の日の情景を表わしてもいるようだった。

ここまでの4曲はデビューした1999年に発表された曲だったが、5曲目は2004年のシングルで、KIRINJI・堀込高樹作曲による「髪をほどいて」。ライブで歌ってほしいとリクエストされることの多い曲だと以前話していたが、実際聴く度に「本当にいい曲だなぁ」としみじみ思う。バラードが続き、6曲目は10thアルバム『Lush』収録の「明日の兆し」。4月の「bird“波形”Live!」のアンコールで歌われた曲でもあり、これまでとここからの思いが丁寧な歌唱から感じ取れた。

ここからの後半戦は温度高めの曲が続けざまに演奏されることに。まずはゲンタの「ワン・トゥー!」のカウントで始まった「ファーストブレス」(6thアルバム『BREATH』収録)。ゲンタのビートに導かれるように疾走感が増していき、途中で白熱のドラムソロも。続いて「RUN」。ゲンタと澤田を含むTHE N.B.4と共に作られた2013年作『9』収録曲で、リズム隊がリードするファンキーなノリに合わせてbirdとコーラスのふたりが軽やかにステップを踏む。そしてウエス・モンゴメリーの曲にbirdが歌詞をつけたライブ定番曲「Up And At It」が投下されると、じっとしていられずに立ち上がる観客も。長めの間奏部分ではbirdとコーラス隊の揃いのダンスと、樋口の滑らかなギターソロに惹きつけられた。火がついた状態のなか、birdが「最後の曲です!」と叫び、本編の締め曲として初期のライブ定番曲である「GAME」を。大きな盛り上がりのなか、birdはメンバー紹介をし、両手を広げて「ありがとうございました!」と笑顔で言いながらステージをおりた。

鳴りやまない拍手に応え、まずひとりでステージに出てきたbirdは、「20年経っちゃった!」と一言。続けて「これからもぼちぼちやっていきたい思っていますので、ぜひまた遊びに来てください」と言ってメンバーたちを呼び込んだ。そして、「この曲をライブでやるのは本当に久しぶり。もしかするとみんなでやるのは2回目とかそのくらいなんですけど、大好きな曲なのでアンコールでやってみたいと思います」。そう言って、1stアルバム『bird』収録の味わい深いソウルバラード「約束」を言葉を噛みしめるようにしながら歌唱。心に沁み入った。これまでのライブでほとんど歌われていなかったのが不思議なくらいだが、デビュー20年目にこの曲がこうして蘇ったことを嬉しく思った。

デビューした年の曲を4曲続けるところから始まった1stステージに対し、2ndステージは8thシングル「オアシス」で幕を開け、12thシングル「flow」へと続けるところから始まった。いずれもブラジリアンのスパイスがふりかけられていた曲だ。MCを挿んだあと、グルーヴィーな「空の瞳」でbirdは観客に手拍子を促しながら盛り上げ、続いて16thシングルとなった「フラッシュ」へ。キーボードの渡辺貴浩がプロデュースした曲で、ネオソウル的なキーボードの響きとスムースなギターの上でbirdの歌が弾んでいた。

1stステージでも歌ったスローの「雨の優しさを」に続いては、山口まさよしが作曲した15thシングル「散歩しよう」。樋口直彦がアコギを弾き、まさしく散歩するくらいのテンポ感で進むこの曲を聴いているとき、誰もが和やかな気持ちになったはずだ。というのも、ここでは男性メンバー全員がドゥーワップっぽくコーラスをしていたから。しかもMegとHanah Springは、このときはコーラスをお休み。ふたりは男性陣のコーラスをニコニコしながら聴き、birdは歌い終わってから「男性コーラス、よかったですよね~」と彼らを讃えた。

そしてデビュー曲「SOULS」を歌い(1stステージとはアレンジを変え、2ndステージではオリジナルCDのそれに沿ったものだった)、続いて女性ふたりが伸びやかなコーラスを始めると、「この曲を待ってました」と言わんばかりに観客たちが立ち上がってリズムに乗りだした。そう、2ndシングル曲の「BEATS」だ。birdの歌は開放感に満ち、力強さが一気に増していくのがわかる。さらにそこから間髪入れず、ライブ定番曲「LIFE」へ。ゲンタが激しくサンバのリズムを叩きだし、birdはクルクル回りながら楽しさを表わし、観客たちは手拍子を打つ。そしてbirdがそうするのと同じようにみんなが手を挙げて大きく振る。なんという熱気! なんという多幸感

「ありがとうございます!」の言葉を2度3度と繰り返し、コーラスのふたりが先にステージをおりると、birdが言った。「次の曲が最後です。懐かしい曲、楽しんでください」。鍵盤の音が印象的に響くそれはデビュー年発表の5thシングル「満ちてゆく唇」で、「BEATS」~「LIFE」の昂りは落ち着きに変わり、歌に包まれる感覚を味わった。

アンコール。birdは改めてこう話した。「20年間、本当にあっというまでした。いろんなことがありましたけど、こうして音楽を通じてみなさんと会えてよかったなと思います」。少しだけ瞳を潤ませて話していたように見えたのはたぶん気のせいじゃないと思う。そして1stステージ同様、最後に「約束」を丁寧に歌い、鍵盤の音が余韻を残すなか、「またみんな遊びにきてください。birdでした。どうもありがとうございました」、そう言ってステージをおりたのだった。

改めて、“ああ、いい曲ばかりだな”と実感したライブだった。デビューした99年の曲や2000年代前半の曲もかなり多く歌われ、自分自身、相当久しぶりに聴いた曲もあったのだが、どれも2019年のいま、気持ちよく心とカラダに響くものであり、そういうアレンジだった。多くの曲で、観客たちは一緒に歌ってもいた。この場所に集まったひとりひとりのいろんな想い出が、いま歌われている1曲1曲に詰まっているんだな、みんなが曲を聴きながらあの頃の自分とか、あの頃に好きだったひとのこととか、そのひとと見た景色なんかをきっと思い出しているんだなと、そう思えた。

「20年前の曲ですけど、ずっと生きつづけているなって感じるんです」と、birdはデビュー曲「SOULS」についてそう話していたと先に書いたが、生き続けているのは「SOULS」だけじゃない。birdが20年の間に生み出してきた曲たちが2020年代にどう響き、そしてまたここからどんな曲が生まれていくのか。見続けるのが一層楽しみになった。

ライブレポート:内本順一 写真:上飯坂一

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