ふるさと納税で56億円「流出」 川崎市が車内広告で訴えたワケ

「ふるさと納税によって流出している市税は、本来は、私たち川崎市民のために使われる貴重な財源です」――。川崎市がJR南武線などに掲示している車内広告が、SNSで話題になっています。

広告の中で訴えているのは、ふるさと納税による川崎市の流出金額が、今年度は56億円にも上る見込みという内容。どのような狙いがあるのでしょうか、川崎市に話を聞きました。


「ふるさと納税をしないでほしいと言っているのではない」

11月にTwitterで「南武線の広告。 ふるさと納税はしてほしくない川崎市。。」という言葉とともに投稿された1枚の写真。川崎市による車内広告を撮影したもので、フリー素材サイト「いらすとや」のキャラクターがうつむいた表情を浮かべています。その横には、川崎市は今年度56億円の減収見込みであるとして、次のように説明があります。

「個人住民税から一定額が控除される『ふるさと納税制度』は、寄付を通じて応援した自治体に直接気持ちを伝えることができる反面、川崎市民の方が他の自治体に寄付すると、川崎市の税収が減少する側面があります」

川崎市役所税制課の担当者に取材すると、この広告は、JR南武線のほかに市の広報掲示板などにも掲出しているといいます。今回掲出した意図は「ふるさと納税をしないでほしいと言っているのではなく、市税は市民皆様のものであり、市税が減少し続けている現状を知っていただくため」。

川崎市がふるさと納税による流出額が大きい理由について、担当者は2つの要因があると説明します。

「ムサコマダム」がふるさと納税に高関心?

1つが生産年齢人口の増加です。武蔵小杉など再開発が活発なエリアを抱える川崎市は、高所得者層の流入も多い地域。住民税の控除を目的とした、ふるさと納税への関心が高いといいます。

もう1つの要因は「地方交付税の不交付団体への認定」です。2016年以降、4年連続で不交付団体へと認定されている川崎市。通常であれば、不足した住民税のうち、75%を地方交付税で国が補填する仕組みです。

しかし、国に交付税を受け取らなくても、税制をまかなえると判断された一部の公共団体は交付されないのです。これも、川崎市の税収への大きな打撃となっているようです。

「56億円という規模はかなり大きい金額。すぐに流出を止めることは難しいが、今後さらに広がっていくと深刻な問題を引き起こしかねない」(同担当者)

また、現在のふるさと納税の仕組みは、高所得者に優遇されたものになりすぎているとして、制度の見直しを検討するよう国に要望を続けていくそうです。

返礼品に「川崎フロンターレ」ユニホーム

一方で川崎市は、ふるさと納税に対する受け入れ体制も、民間のふるさと納税ポータルサイトへの出稿を行うなど、今年度から本格化しているといいます。

返礼品として用意しているのは、サッカーJ1「川崎フロンターレ」に所属する選手のサイン入りユニホームなど。「単に返礼品競争に加わるのではなく、川崎市の魅力を向上し、伝えられるような商品を揃えている」とのこと。

今年のふるさと納税の期限はあとわずかです。川崎市は税金の流出を食い止めることができるでしょうか。

<文:川高元輝>

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