子どもたちとの「しまなみ海道」じてんしゃ旅で「リスク管理」が身についた

竹内先生は前回紹介した「アウトドア専門学童クラブ」に同行して、「しまなみ海道」三泊四日のじてんしゃ旅に行ってきたようす。そこで目にしたのは子どもたちの「リスク管理」の高さでした。

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「しまなみ海道」三泊四日のじてんしゃ旅

YES International Schoolは、さまざまな外部団体と「教育提携」しています。提携というと資本提携が頭に浮かびますが、ウチはちっちゃなちっちゃなフリースクールなので、資本提携してくれるような大手企業はいません。でも、志を同じくする教育関係機関とのゆるやかな提携はあります。お金がほとんど絡まないので、逆に強い絆で結ばれていたりします。

そんな教育提携先のひとつがお台場にあるアウトドア専門学童クラブです。主催のヤマさんは、すでにこの連載に何度か登場しましたが、名前のごとく、ヤマのような巨体に子どもたちへの愛情がいっぱい詰まった先生です。

今回、このアウトドア専門学童クラブに同行して「しまなみ海道」三泊四日のじてんしゃ旅に行ってきました(11月1日(金)〜11月4日(月))。実質的にじてんしゃを漕いでいたのは3日間になりますが、私は、子どもたちの臨機応変なリスク管理スキルに舌を巻きました。

初日から子どもたちのアウトドア・スキルに圧倒

初日は夜の新幹線で東京から広島県の福山まで移動し、そこから在来線で尾道、そしてバンに分乗して今治まで一気に移動しました。今治に着いたのが夜中の12時過ぎでしたが、そこで子どもたち(小一から小六までの9名)にレンタサイクルが配られ、試乗チェック。

夜の1時ごろに就寝。と言っても、ホテルや民宿に泊まるわけではありません。いきなりリュックから寝袋とツェルト(=山岳用のシェルター。テントほど大袈裟ではなく、基本的に体温が低下しないように張るもの)を取り出して、あっという間に設営して、寝てしまうのです。

アウトドア学童クラブの子どもたちは、日ごろからアウトドアスキルの訓練を受けていますが、それがここで活かされた格好です。もちろん、過酷な山岳キャンプや災害時にも大いに役立つ「生き残るためのスキル」だと言えるでしょう。私はアウトドア・スキルがイマイチですが、事前に作戦をたて、「素人でも素早く設営できるツェルト」を購入していたため、なんとか、子どもたちのペースに追いつけました。

翌朝は5時半に起床。まだ暗いうちにツェルトと寝袋をたたんで、朝食を喉に流し込み、6時には全員じてんしゃに乗って出発!59歳、還暦間近のおじさんは、ホントついていくので精一杯です。あ、ちなみに私は趣味がロードバイクなので、一人だけマイじてんしゃを持ってきました(輪行袋というものに詰めて、新幹線で運んできたわけです)。

驚いたのは、今治から大島へつながる来島海峡大橋(くるしまかいきょうおおはし)を渡ってすぐに、亀老山という標高307メートルの山に向かったことです。私は横浜で坂には登り慣れていますが、残念ながら横浜の「丘」は70メートル以下しかないので、その4倍以上もの標高差を登る必要があります。最初は、脚がついていくかどうか危ぶまれましたが、最初の苦しい部分を超えると、おそらく脳が現実逃避をするのでしょう(笑)、心拍は150を超え、脚もじんじん来るにもかかわらず、どこか快感なのです。

「追い抜くよー」

大人げもなく、私は低学年の子らを置き去りにし、高学年の子らを猛追します。実際に雄叫びを上げながら、小五と小六の子どもたちと競争し、最後は最新ロードバイクの利を活かし、私が先頭で頂上へ。いやあ、やはり一番は気持ちがいいですねぇ。しかし、この時の私は、三泊四日という「長旅」をきちんと計算しておりませんでした。そして、子どもたちは……。

「やり切る」ことは強靱な心を育ててくれる

二日目は大三島(おおみしま)で一番高い鷲ヶ頭山(標高436メートル)に挑戦しました。またもや、子どもたちと還暦間際のおじさんの闘いです。いや、正確には子どもたちを先導するインストラクターの高橋さんと、ヤマさんの大学バスケット部の同級生である今井さん(実は学校の先生)が隊列に加わっているので、大人は三名でした。

高橋さんは、あらゆるアウトドアイベントにインストラクターとして参加するので、別にじてんしゃが趣味ではなく、得意でもありませんから、山道の勾配が8%くらいになると、じてんしゃを降りて押しはじめます。そうしないと、やはりじてんしゃを押して登る低学年の子どもたちが置き去りになってしまうからです。

今井さんは、じてんしゃにはほとんど乗っていなかったそうですが、年齢は私より一回り若く、そこはそれ、体育系の意地とでも言うのでしょうか、半年みっちりとトレーニングを積んできた私と普通に併走しています。

鷲ヶ頭山でも主に高学年の子らと頂上決戦となりました。最後200メートルほどは、舗装道路がなくなり、荒れた砂利道です。ここで最新ロードバイクで臨んだ私の戦略ミスが明らかになりました。そう、細くて表面がツルツルのロードバイクのタイヤでは、砂利道はズルズルと滑ってしまい、ラストスパートがかけられないのです!

結果は、僅差での五位。いやあ、昨日の亀老山の1.5倍の距離を登って、達成感はあったものの、悔しさ一杯です。

展望台でみんなで写真を撮っていたら、オートバイで登ってきた人達が近づいて来て「ここまでじてんしゃで来たんですか!」と驚愕していました。そう、この山はめったにじてんしゃで登る人なんていないんです。でも、ガソリンや電気の力を借りず、自分の脚の力だけで登り切ったときの達成感は半端じゃありません。

アウトドア学童クラブはリスク教育をしているのですが、長くツライ行程を頑張って(たとえじてんしゃから降りて押したとしても)「やり切る」ことは、人生を生きていくうえで役に立つ強靱な心を育ててくれます。もちろん、天候などの状況に応じて、途中で引き返す勇気も必要ですが、安全さえ確保できているならば、途中で投げ出さずにやり切ることが、子どもの将来にとって、とても大切だと感じました。

この日は、途中からしまなみ海道を逸れて、離島だけを結ぶ「ゆめしま海道」を走りました。本州とも四国ともつながっていない離島だけあって、鄙びた感じで心地よく、まるで外国の道を走っているような錯覚に陥りました。

最終日にはリスク管理がものをいう

いよいよ最終日がやって来ました。ここまでで距離にして100キロメートル近く、獲得標高は優に1000メートルを超えています。しまなみ海道は、島と島を結ぶ橋で海の上を走るのも快適ですが、島の外周に沿って「ブルーライン」なるじてんしゃ用の目印が引いてあります。この外周は、美しくのどかな景色を楽しめますが、同時にアップダウンの激しい、じわじわと脚に「来る」コースになっているのです。

向島(むかいじま)に向かう橋の上で、低学年の子のじてんしゃのタイヤがパンクしていることが判明しました。しまなみ海道では、万が一のパンクや故障の際、タクシーなどのレスキューを呼ぶことが可能なのですが、橋の上はじてんしゃ専用道路なので、レスキューを呼べません。

私はパンク修理キットと空気ポンプを持参していましたが、急いで修理しても20分はかかってしまうでしょう。おまけに、子どもたちのじてんしゃのタイヤは、空気を入れる部分が、ロードバイクと違う形状なのです(ロードバイクはフレンチ、子どもらの自転車はアメリカン、ちなみに普通のママチャリはイギリス式です……誰か規格統一してくれー)。

空気ポンプの蓋をはずして、中の調節弁を逆さにして、アメリカン対応にしてみましたが、今井さんが(サポートカーを運転しているヤマさんと)連絡を取った結果、このままだと新幹線の時間に間に合わなくなるから、中学年の子がパンクした自転車を「押して走る」のがいちばん、ということになりました。実際指名された子は、躊躇なく自分の自転車を降りてパンクしたじてんしゃの一年生に譲り、自分は、パンクしたじてんしゃを物凄い勢いで押し始めました。臨機応変ですねぇ。

橋を降りると、サポートカーが待っていて、パンクした一年生はじてんしゃごと車に乗り込み、残りの集団で終着点までの旅を続けることになりました。もう終点の尾道は目前。ところが、ここで重大発表がありました。もともとこの旅はミステリー旅行みたいなところがあり、参加者は、私も含めて、事前には大まかな行程しか知らされていません。重大発表とは……「まっすぐ尾道には向かわず、まずは高見山を登る」。

キター! 最後の最後、全員がヘトヘトになった状態で、標高283メートルの高見山の展望台まで競争しろというのです。いや、正直言って、私は初日と二日目でほとんど力を出し切ってしまい、もう脚力が残っていません。ここで驚いたのが、子どもたちの作戦です。やはり、初日に私がぶっちぎりで勝ったとき、高学年の子らは、わざと余力を残していたのです。それは、初日に全精力を使い果たしてしまっては、ゴールまで辿り着けないだろうという、長年のリスク教育が育んだ知恵です。

そう、もうおわかりのように、高見山で私は、惨敗を喫しました。しかも、高学年の四名に3分ほどの大差をつけられてしまったのです。これが冬山登山だったらどうでしょう? 早々と力を使い果たした私は、頂上まで到達できず、もしかしたら、遭難してしまったかもしれません。これがアウトドアのリスク教育を受けているかいないかの差なのですね。

今回の旅で、私は、小学生とは思えない、リスクをものともしない心強さと、強靱な体力を目の当たりにしました。いや、還暦間近のおじさんにしては、よく彼らに食らいついていったと思いますけど……。

今後、彼らの人生には、さまざまな困難が立ちはだかることでしょう。それはアウトドア体験のみならず、受験、外国への転勤、災害被害だってあるかもしれません。でも、事前に最大限の想定をし、なおかつ、想定外の出来事にも柔軟に対処できる力が彼らにはあります。

必ずや、アウトドア学童クラブの体験を糧に、彼らは力強く生き抜いていくにちがいありません。いやあ、それにしても、しまなみ海道の自転車専用道路とブルーラインは、気持ちよかったなぁ。また絶対行くゾー!

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