キャッシュレス元年、最も恩恵を受けた「コンビニ」はどこ?

スマホ決済アプリの「PayPay」が登場してから、はや1年。2019年は「キャッシュレス元年」とも呼ばれ、決済アプリの還元競争が繰り広げられる中で恩恵を受けた消費者も多い一方、セキュリティ対策の甘さが露呈した事例も出てくるようになりました。

10月からは、消費増税の負担軽減策として、政府によるポイント還元事業もスタート。現金信仰の根強い日本でも、ようやくキャッシュレス決済が浸透する兆しも出てきたように思います。

キャッシュレス事業者間の還元競争や政府のポイント還元事業の大きな受け皿となったのが、コンビニ各社です。いったいどれほどの恩恵があったのか、消費者の購買行動の変化から検討していきたいと思います。


時系列で振り返るキャッシュレス元年

この1年で行われた影響が大きかったと思われるキャンペーンをまとめたのが、下表です。還元策としては最初に実施されたPayPayのキャンペーンが20%還元だったこともあり、同様に20%還元を打ち出すサービスが多くみられました。

メルペイは、人気ユーチューバーであるHIKAKIN(ヒカキン)やはじめしゃちょーを起用し、紹介者と新規ユーザーのそれぞれに1000円相当のポイントを付与する招待キャンペーンを行いました。ほかにも、PayPay・LINE Pay・メルペイの3サービスは合同で、それぞれ100円相当のキャッシュバックを5週連続で行うキャンペーンを実施しています。

大規模なキャンペーンを各社が競って打ち出している背景には、顧客の取り合いという思惑だけでなく、アプリを継続的に使い続けてもらおうという意図が垣間見えます。

キャンペーン効果で客単価押し上げ

それでは、キャッシュレスがコンビニの売り上げに影響をもたらしたのでしょうか。ここで注目すべきは、コンビニの客単価です。

下図を見ると、2018年10月のたばこ増税に伴う2018年9月の買いだめ需要と、その1年後に当たる2019年9月の反動減を除けば、2018年11月から2019年9月まで既存店の客単価はすべて前年同月を上回っています。中でも2018年12月、2019年4月、8月で2%を超える大幅な増加が見られます。

2018年12月は、PayPayの「100億円あげちゃうキャンペーン」による20%還元の影響でしょう。2019年8月は、月末に台風が相次いだことで買いだめなどが発生したことによる全体的な増加や、メルペイの70%還元が寄与したと考えられます。

企業別で見ると、特徴的なのがローソンです。同社は、2018年10月から2019年4月にかけて、3社の中で最も大きい増加幅をみせています。下表からも読み取れる通り、ローソンは3社の中では最もバーコード決済の対応範囲が広く、キャッシュレス推進に積極的である様子がうかがえます。

キャッシュレスの使用頻度が高い消費者は、還元率が高いサービスを優先して使いたいため、キャンペーンの実施状況に応じてサービスを使い分ける傾向があると考えられます。その際、取り扱いサービスのバリエーションが多い店舗のほうが足を運ぶ可能性が高くなるというわけです。

そうすると、キャッシュレス決済に幅広く対応しているローソンが優勢に思われますが、実際の業績への効果はどれほどのものだったのでしょうか。

政府還元策の恩恵を受けたのは?

政府によるポイント還元策が始まった10月以降、コンビニでのキャッシュレス決済の利用に拍車がかかっているもようです。各社のキャッシュレス決済の利用比率を9月と10月で比べると、ファミリーマートが20%から25%、ローソンが20%から26%に伸長。セブン-イレブンに至っては35%から42%と大きく上昇しています。

これは、経済産業省が掲げる「キャッシュレスビジョン」における2025年のキャッシュレス決済比率40%を超える水準です。昨年のセブン-イレブンのチェーン全店売上高4兆8,988億円から考えると、キャッシュレス元年と呼ばれたこの1年で、年間約3,400億円がキャッシュレス決済に代替されたとみることができ、その影響力の大きさがうかがえます。

実際、10月のコンビニ各社の営業実績でも、全店売上高でファミリーマートが前年同月比0.3%減、ローソンが同2.3%増となる中、セブン-イレブンは同5.3%増と強さが際立っています。政府の還元策が2020年6月まで続くことから、各社の月次売上高に占めるキャッシュレス決済の位置づけは大きくなりそうです。ファミリーマートとローソンもキャッシュレス決済比率を上げていけるかが焦点となるでしょう。

今後もセルフレジの導入など、さまざまな先進的な取り組みの“実験場”としての役割を、コンビニが担っていくことが予想されます。身近なところから社会情勢をひも解くという意味でも、毎日のように足を運ぶコンビニに注目しておくと、思わぬ投資アイデアが浮かぶかもしれません。

<文:Finatextグループ アナリスト 菅原良介>

© 株式会社マネーフォワード