国を医する立場であれば

 腕の立つ医者、名医のことを古くは「国手(こくしゅ)」と称したらしい。もともとは「国を医する名手の意」(広辞苑)という▲9月から閣僚2人が辞任した今の政権は、不手際があればさっさと辞めさせ、さっさと傷をふさぐことを近頃の手並みとする。「国を医する名手」であるべきこの国のトップは、悪いところが見つかれば、たちまち取り除くのが信条らしい▲これを「手際の良さでは随一」と言うのかどうか。公費で首相が主催する「桜を見る会」を来年は中止すると官邸がいきなり発表した。「全体的に見直す」というが、見る会を「安倍晋三首相が私物化している」という野党の批判をかわすためとみられる▲安倍首相の事務所の名で、後援会の関係者に案内文が届いたという。それが合法であれ、公金を使った支持者への「おもてなし」と大方は受け止めるだろう。首相は、後援会としての招待ではないと主張している▲各界の功労者を招いてきたというのなら、堂々といきさつを説明するに限る。「中止」で幕を引くとすれば、いつもの「さっさと傷をふさぐ」手並みと変わらない▲医者が用いる道具ならば数あるが、政治家は「言葉」に尽きる。国を医する人に求められるのは意を尽くした説明であり、不手際をさっさとさばく手際の良さであるはずがない。(徹)

© 株式会社長崎新聞社