犬が空を飛ぶ? かわいすぎる「飛行犬」の世界 年間300匹を相手にする夫婦 栃木の撮影会に行ってみた

 「かわいすぎる…! 『飛行犬』が大人気」。そんなまとめサイトのタイトルが、犬好きの私の目を引いた。空飛ぶ犬? なるほど、走る犬の前足と後ろ足が浮いた瞬間は、まるで空を飛んでいるように見え、愛らしい。栃木県でも撮影会をやっていれば、取材にかこつけて犬と触れ合えるのに。淡い期待を抱いて検索し、ヒットしたのが「飛行犬撮影所 栃木支部」。すぐさま主宰者に連絡をとり、撮影会に足を運んだ。

 この日の会場は、栃木県那須町のスキー場「マウントジーンズ那須」に併設されたドッグラン。ゴンドラに乗って標高1410メートルの山頂にたどり着くと、10月上旬とは思えない寒さに体が震えた。雨も降りそうだ。

 カメラマンを務めるのは、同県那須烏山市在住の高山健司さん(48)と妻の千鶴さん(46)。「こんな天気だから今朝になってキャンセルもあったけど、10匹くらいは来るはず」

 午前10時過ぎ、1組目の姿が見えた。受付を終えると、高山さんが飼い主の加藤将樹(36)さんと妻の理恵さん(39)、ミニチュアシュナウザーのシュヴィをドッグランに誘導した。

 

見事に飛んでいるように見えるシュヴィ(高山さん提供)

 「お母さんは、そこから名前を呼んでください。いつも通りに」「お父さんは合図するまでシュヴィちゃんを離しちゃだめ。もうちょっと奥まで行けるかな」。高山さんの細かな指示に、戸惑いながらも応じる2人。立ち位置の調整が済むと、高山さんがカメラを構えた。「シュヴィ、おいで」。名前を呼ばれ、一目散に理恵さんの元へ爆走するシュヴィ。カシャカシャカシャ。空飛ぶ姿を捉えるシャッター音が響いた。

 

シュヴィの飛ぶ瞬間を撮影する高山さん

 写真をその場で確認した加藤さん夫婦は「本当に飛んでいる」と歓喜。「撮影会はネットで見つけて知った。この前1歳になったから、良い記念になると思って」と笑顔で話した。

  予約客の合間には、飛び込みの参加も。偶然、愛犬クレアを連れて家族でドッグランを訪れた吉田啓介さん(52)は「大型犬のグレートピレニーズだから、思い切り走る姿はなかなか見られない。うれしいね」と満足そうだった。

 

飛行犬写真の撮影を終えた、おすまし姿のクレア(高山さん提供)

 高山さんに肩書はカメラマンなのかと尋ねると「いや、会社員ですね。エンジニアやっています」と意外な返事が返ってきた。犬を飼い始めたのが14年前。写真を撮るようになると、スマートフォンのカメラ機能では満足できず、デジタルカメラ、一眼レフ、とこだわり始めた。

 飛行犬の発祥は、兵庫県・淡路島の南あわじドッグラン撮影所。高山さんは2013年ごろ、同じ構図で撮った写真をブログに載せたいと問い合わせた。すると、写真の腕を買われ、カメラマンになるよう勧められたという。「機材もそろっているし、やってみようかなと。犬好きと撮影好きが高じたわけです」。以来、休日や有給休暇を使い、北関東を中心に年間約300匹を撮影する。

  千鶴さんは受付で料金や商品について説明。写真は高山さんが編集し、後日データで郵送される。追加注文のカレンダーやアルバムも人気で、3割がリピーターだという。

 

飼い主の元に飛び込んでいった犬を見つめる高山さん

 高山さんが心がけているのは、犬の性格や年齢を考慮し、無理をさせないこと。撮影は、犬と飼い主とカメラマンの共同作業。飼い主の態度や犬とのやりとりを観察し、声掛けにも注意を払う。「飛んでいる姿を撮るのが目的だけど、1匹1匹の魅力を引き出す写真も撮ってあげたい」と、フォトスタジオで撮ったような「おすまし写真」の撮影も。

  自宅にはプライベートドッグランを設け、遠方にも駆けつけられるようにキャンピングカーを購入した。「たくさんの犬と関わることができて、飼い主にも喜んでもらえる。趣味の延長として、私自身が一番楽しんでいるかもしれない」。レンズ越しに「空飛ぶ犬」を見つめる目は、どこまでも穏やかだ。(共同通信=小作真世)

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