ブーメランで鈍らせてはいけない「桜を見る会」 安倍首相直結の「前夜祭」、野党は徹底追及を

By 尾中 香尚里

「桜を見る会」であいさつする安倍首相=4月、東京・新宿御苑

 「安倍晋三首相の地元後援会関係者が多数招待されている」などとして「公的行事の私物化」との批判が集まっている「桜を見る会」。菅義偉官房長官は13日の記者会見で、来年度の「桜を見る会」を突如中止すると発表した。共産党の田村智子氏が8日の参院予算委員会で、会の運営の不透明さを追及してからわずか5日。事態は急展開している。

 ところで、こうした政府・与党の不祥事やスキャンダルが噴き出した時、必ずといっていいほど同時に出てくる言葉が「ブーメラン」。スキャンダルを追及する野党側に同様の問題が発覚し、追及の矛先が鈍ることを指す。最近では政府・与党の側が、野党側にも同様の問題があるかのような発言を繰り返し、けん制に使うこともよくある。

 「桜を見る会」問題でも、こうした「お決まりの光景」が展開されている。

 公明党の山口那津男代表は12日、「野党も政権を取った時には、そういう行事を主催する場があった」と発言。自民党からも「民主党の鳩山政権時代にも同様のことをやっていたのでは」「これはブーメランになる」という非公式な発言がメディアに流れ始めた。

 元民主党衆院議員のブログにはここ数日、自民党関係者とみられるアクセスが増えているという。このところ「桜を見る会」に出席した多くの自民党議員や関係者の過去のブログやツイッターのつぶやきが拡散したことへの「反撃材料探し」とみても、あながち的外れではないだろう。そしてネット上では「野党はスキャンダル追及ばかり」「政局にするな」との声が飛び交う。

野党の桜を見る会を巡る追及チームの初会合であいさつする共産党の田村智子氏=12日午後、国会

 しかし、である。仮に野党側に同様の問題が発覚したとして、野党は追及を手控える必要があるのだろうか。そうは思わない。野党の仕事とはあくまで「政権をチェックし、批判しただすこと」にある。過去も含めて自らに瑕疵(かし)があれば、謝罪するなり説明責任を果たすなりすればよいだけだ。政府・与党への追及を緩める理由にするなら(今のところそんな様子はみじんも見えないが)、それこそ野党の責任放棄である。

 元祖「ブーメラン」と言えるのは、15年前の2004年にあった「年金未納」問題だった。年金制度改革が議論されていた通常国会の会期中に、当時の小泉政権の閣僚に国民年金の未納期間があったことが次々と発覚。これを「未納三兄弟」と批判した当時の野党第1党・民主党の菅直人代表は、自身にも「未納」(正確には「未加入」)期間があったことが分かり、代表辞任に追い込まれた。

 菅氏のそれは、のちに社会保険庁のミスであり、菅氏側には瑕疵がなかったことが分かった。が、こういった「続報」は世間には浸透せず、いつまでも辞任当時のイメージが残ってしまう。一方で政府・与党側で辞任したのは、福田康夫官房長官(当時)くらい。だいたい「未納三兄弟」の3人の名前を言える人が、今どれだけいるだろうか。

 少し話がそれてしまった。要は、「ブーメラン」は一般的に追及していた野党の側に、より大きな傷を負わせる。それだけではなく、問われるべき政府・与党側の問題をうやむやにしてしまう。結果として問題解決への道を阻む。

 問題は後者の方だろう。現在、「老後2000万円問題」をはじめ、年金制度に対する国民の不安はさらに高まっている。もしあの15年前、野党側がブーメランに気圧(けお)されることなく、国民年金の未納・未加入を含め年金制度の問題点をもっと追及できていれば、との思いは、今も消えない。

 第2次安倍政権の発足後は、野党側の多くが民主党で政権運営を経験したことから「民主党政権当時にも同様のことがあった」として「どっちもどっち」論に持ち込もうとする傾向が目立つように思う。なるほど、「桜を見る会」について言えば、民主党政権当時も鳩山政権だった10年に、1度だけ開催された。ちなみに、翌11年(菅政権)は当時の枝野幸男官房長官(現立憲民主党代表)が東日本大震災を理由に中止。12年(野田政権)も北朝鮮のミサイル発射予告を理由に中止されている。

「桜を見る会」で招待客らと笑顔で記念写真に納まる鳩山首相(中央)ら=2010年4月、東京・新宿御苑

 この1回について、もし、運営上の問題が発覚した場合、野党がやるべきことは政府・与党への追及を控えることではない。自らが説明責任を果たし、必要なら関係者に責任をとらせ、必要な傷を負った上で、返す刀で同じ姿勢を政府・与党に求め続けることだ。

 国民民主党の玉木雄一郎代表は13日の記者会見で、鳩山政権での「桜を見る会」にも招待者について各議員の「推薦枠」があったことを明かしたうえで、招待者の推薦を依頼する当時の文書では、後に名簿全体が公開される可能性があることを前提に、国民に疑念を持たれないような人選に努めるよう呼びかけていたと説明した。

 なおこの文書は、03年には招待者名簿が実際に情報公開請求によって一部公開された例があることに触れている。今回内閣府の主張通り「名簿が破棄された」のなら、招待者名簿の保管に関する規定に、どこかの段階で変更があった可能性がある。いつ、なぜなのか。このことも野党は、返り血覚悟で追及しなければならないだろう。

記者会見する国民民主党の玉木代表=13日午後、国会

 「どっちもどっち」というのは「与野党どっちもどっちだからお互いに何も言わない」ことではない。「与野党どっちもどっちだから、お互いにただすべきをただす」ことなのだ。必要であれば、鳩山政権と第2次安倍政権で「桜を見る会」への公費支出額がそれぞれどうなっているのか、参加者の内訳はどうなのか、それを徹底して議論すればいいのではないか。

 付け加えておくが、「桜を見る会」そのものは半世紀以上の歴史を持つが、前夜祭については「第2次安倍政権以前には聞いたことがない」(野党関係者)という。さらに言えば「桜を見る会」そのものは「公費の使い方として適切かどうか」という行政のあり方だと言うことも不可能ではないが、前夜祭については、たとえば政治資金収支報告書への未記載があれば政治資金規正法、5千円の会費を超えた飲食の提供があれば公職選挙法に触れる恐れがある。安倍首相自身に直結する問題であり、野党側からは「本丸は『桜を見る会』ではなく前夜祭」との声も聞こえる。

安倍首相の事務所名が記載された「桜を見る会」の案内文(画像の一部を加工しています)

 安倍首相は13日夕、記者団に「官房長官が説明した通り。私の判断で中止をすることになりました」と一言言い残して去った。そんな一言ですませられる問題ではない。妙な「ブーメラン」論に気圧されない野党の奮起を切に求めたい。(ジャーナリスト=尾中香尚里)

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