ドライバーから転向してわかること。片山右京に聞く監督の役割【サーキットのお仕事紹介】

 ドライバーやメカニック、チーム関係者をはじめ、さまざまな職種の人たちが携わっているモータースポーツの世界。ドライバーなどスポットライトが当たりやすい役割以外にも、モータースポーツにはさまざまな役目を果たしている人たちが大勢いる。この連載ではレース界の仕事にスポットを当て、その業務内容や、やりがいを紹介していこう。

 第6回目はチームの大黒柱と呼べる監督にフォーカス。スーパーGT GT300クラスに参戦するGOODSMILE RACING & TeamUKYOを率いる元F1ドライバーの片山右京監督に、チーム監督の役目などを聞いた。

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 片山監督がグッドスマイル・レーシングに加入したのは2011年。その際はスポーティングディレクターを務めた。そして、2014年から現職のチーム監督に就任、以降ドライバーズタイトル2回、チームタイトル1回獲得という成績を残している。

 そもそもレーシングチームにおける監督の役割について、片山監督は「自分の経験を活かして、マネージャー的な部分をやっていくのが監督の仕事だと思っています」という。

「テストやタイヤ、BoPなどの情報を全部もらって、それらの物事を一緒に考えていきます。あとは、何か起こった時に調整に入ったり、説明にいったり、謝罪にいったりと、組織として意見を言う立場にありますね」

「僕たちのチームは中規模チームだから、監督というよりゼネラルマネージャー的な役目が近いですね。グッドスマイル・レーシングではグッドスマイル・カンパニーがチームを運営しています。会社にはレーシング部門が別にあり、そこにゼネラルマネージャーもいますが、レースとの間をつなぐ作業をするのが監督です」

GOODSMILE RACING & TeamUKYOを率いる元F1ドライバーの片山右京監督

 レースウイーク中はどのような作業をしているのか聞くと「あまり監督することはないですね(笑)」と一言。その理由を明かす。

「ウチのチームは、エンジニアがしっかりしているし、ドライバーがふたりとも経験豊富でとにかく速い。全体がしっかりしているので、やることがないんですね。ここに若いドライバーがいたら、監督はそこにエネルギーや時間を割かなければいけなかったりします」

「チームができ上がってるからこそ、することがないんです。なによりチームの雰囲気がいいから。逆に言うと、監督としてやることがあるときはチームがよくないということです」

■立場が変わって見えてきたもの

 ドライバーから監督という立場に移った片山監督。立場が変わったことにより、考え方も変化しているという。

「僕も昔はドライバーだったからせっかちになり、そこに自分の感情も入った状態で物事を考えていたけど、それは変化していくものです。そういうなかでいい結果が出ればうれしいし、そうじゃなければ変わらずにものすごく悔しい」

「ドライバーだったからこそ、わかることもあります。『ドライバーは今の状態、苦しいな』と思っても必死に走っていることははっきりとわかるから。言葉にするのが難しいですけど、それがものすごくうれしいし、ドライバーふたりに感謝してます」

ドライバーと会話する片山右京監督

「逆に僕のほうがみんなから与えられて教わっているし、一喜一憂させてもらって人生を豊かにしてもらっています。オートポリス戦みたいに4位で表彰台を逃す悔しい結果になったとしても『いやすごくいい走りだったよ』とわかりますからね」

 将来スーパーGTの監督業を目指す場合、何が必要か問うと「監督になったら終わりではないんです。真の監督に求められるのは高いレベルであり続けること」という。

「真摯に努力しなければいけないし、続けていくことだけに意味があるわけでもない。監督になるだけなら、お金を出せばなれます。重要なのは、どちらかといえば人とのつながりですね」

片山右京監督

 ちなみに監督業の気になる収入については「それは言えない(笑)。僕は自転車チームなど、いろいろなことをやっているのでトータルで言えば一部上場企業の取締役くらいはもらっています。監督業だけで言えば、部長とか課長並みくらいですかね」とのことだ。

 目に見えないところでチームを支えて管理する監督業。将来チームを率いてレースを戦いたいというかたは、レースの経験や知識を深めるのはもちろんだが、片山監督のようにコミュニケーションスキルや人としての魅力など、“人間力”を高めることもお忘れなく。

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