新車販売台数トップに君臨し続けるホンダ「N‐BOX」。なぜ“軽”が並みいる強豪を押さえ日本一の座をつかめるのか?秘密を探るため三重県・鈴鹿市にあるホンダ鈴鹿製作所に潜入すると、日本一のこだわりと工夫が見えてきた。
■日本一の秘密!“軽くする”極意
ホンダ鈴鹿製作所(三重県鈴鹿市)は、日本一売れるクルマ「N‐BOX」を生産する拠点工場である。
N‐BOXが人気なのは第一に“燃費の良さ”。車内が広いワゴンタイプの軽自動車の中でトップクラスを誇る。その実現に欠かせなかったのが、徹底した“軽量化”である。
クルマのボディになる鉄板の厚さはわずか1ミリ。巨大なプレス機が吸い上げるように鉄板を取り出すと、上からドスン!平らな鉄板を一瞬で立体に変える“怪力マシン”である。プレスする力は2300トン。アフリカゾウ270頭分の重さだ。
そんなに力を加えたら、厚さ1ミリしかない鉄板なんてひとたまりもないはずなのに、破れたり亀裂が入ることもない。実は鉄板には鉄より硬い「鋼(はがね)」が混ぜてある。
1ミリの薄さでも強度を持たせることで“軽量化”を実現しているのだ。驚くのはそれだけではない。
■さらに軽く!なぞの“溶接部屋”
出来上がったクルマの骨格にアームロボットが屋根をのせると、なぞの部屋へと移動。ここで車体をさらに軽くする“特別な溶接”が行われていた。暗がりで何かが動いている。レーザー溶接だ。
屋根にレーザー溶接を使うと高級車のような上品な仕上がりになるのだが、狙いは見た目だけではない。 通常の溶接の場合、屋根とサイドパネルにくぼみが残るため“樹脂”でくぼみを隠す。ところがレーザー溶接は、角と角を直接くっつけることができるだめ樹脂がいらない。レーザー溶接を採用した2代目「N‐BOX」からは樹脂が不要になり、左右2本分で約500グラム軽くなったという。
■「マン・マキシマム、メカ・ミニマム」
小さな町工場を世界的な自動車メーカーへと変えた創業者、本田宗一郎。こんな言葉を残している。
「技術とは、人間がより幸福に生活できるために役立つものでなければならない。」
この信念から生まれたのが「マン・マキシマム、メカ・ミニマム」という考え方である。“人のためのスペースは最大に、機械は最小に”という意味で、ホンダのクルマづくりの基本になっている。ところが“軽”でスペースを広げるのは容易ではない。
「軽自動車の開発って楽なのかって思われがちですが、実際はそんなことない。普通車だったら外枠を広げればいいけれど、“軽”は外枠が決まっているのです。」(N‐BOX開発者)
大きさが決まっている“軽”の車内を広くするにはどうすべきか。ホンダが見つけた答えは「センタータンクレイアウト」。後部座席にある燃料タンクを前のシートの下に移動させることで、車内のスペースを広げたのだ。この技術を採用したのが初代「N-BOX」。後部座席を倒せば自転車が積めるほどの広さ。ベビーカーも折り畳まずにのせられる。この快適性が爆発的なヒットを生んだのである。
■2代目「N‐BOX」開発へ“山ごもり”
大ヒットの「N‐BOX」にさらなる付加価値を求めたのが初のフルモデルチェンジ。ところが2代目「N‐BOX」の開発は、とてつもないプレッシャーだったという。
「最低でも初代を超えなくてはならない。最初は自信がなかった。それほど初代は完成度が高く人気だったんです。」(N‐BOX開発者)
初代を超えるために開発チームが行ったのは“山ごもり”。旅館などに集まってアイデアを出し合う合宿のことで、ホンダの伝統的な開発スタイルである。この中で開発のヒントが見えてきたという。
■“ママの願い”を叶えた「スーパースライドシート」
「雨の日に子供をチャイルドシートに乗せた後、運転席まで濡れずに移動したい。」「車内が広いのはいいが、後部座席の人が孤立してしまい会話がしにくい。」
こうしたユーザーの声を受けて始まったのが、助手席が前後に大きく動く「シート」の開発である。
初代の倍以上の長さでシートがスライドすれば、車内にいながら移動でき、しかも後部座席にも近づきやすい。ところがシートを前後に動かすレールをクルマの床に埋め込むと、燃料タンクにぶつかってしまうという難題に直面する。タンクとレールの両立…。八方ふさがりの中、目を付けたのが“燃料タンクの形”だった。レールを埋め込むところは凹ませ、その分、他のところを大きくする設計に成功。こうして実現した「スーパースライドシート」は、2代目「N‐BOX」の目玉になったのである。
「技術は人のためにある。」忙しいママたちの願いを叶えたことも、クルマの王座に君臨し続ける秘密なのである。
【工場fan編集局】